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予備校へ向かう途中、ぼくはテツに「つきあってるの?」と聞くと、「誰から聞いたの?」とテツは言い、「いや、なんだかこの前それっぽい感じだったから」と、ぼくは曖昧に答えた。
「そう見えたか?」
とテツは言い、「たぶん」とぼくは答えた。
テツは「そうかぁ」と、ちいさくつぶやき、それからは何も言わなかった。友だちになるのに「友だちになりましょう」と言ったことはないが、つきあったり別れたりするのにはそれなりな決まり事もあるようでややこしい。
左のポケットは空っぽでいつもの砂漠がみえた。広い砂漠のなかにはぽこぽこと見慣れたいつもの砂丘があり、ぼんやり眺めていると気持ちが落ち着いた。砂丘の日陰に腰を降ろし、景色を眺めた。空っぽの左ポケットに手を突っ込み、手のひらを閉じたり開いたりしながら、テツとミトさんのことを考え、考えたところで何もわかるわけがないと砂丘に身体を預け、空に目をやり、投げだした足に目を落とした。
白いぶかぶかの見慣れないズボンを履いた足があった。上着は白いシャツの上に青みがかった薄いものを羽織っていた。
カフェのコーヒーカップの中に見えた顔を思いだし、両手で顔面を触った。触感は無く、はっきりしなかったが、ぼくの顔ではないような違和感があった。
これはおれの夢ではないのだろう。そうおもうと腑に落ちた。見知った顔が出ないのも、行った事の無い場所にいるのも、他人の夢なら納得ができる。けれども、どうしておれが他人の夢をみているのかはわからなかった。もしかすると他人の夢ではなく、小説や映画、ゲームのような、誰かになりきった夢をみているだけなのかもしれない。
砂丘の斜面に背中を預けたまま、青く抜けた空を眺めた。だれかの夢のなかの空でも、とてもきれいにみえる。
頭上の砂丘のてっぺんに人影がみえた。逆光でよく見えなかったが、夢のなかのカフェで見た女性のようにみえた。
一瞬、見知った人に会えたようなうれしさがあったが、すぐにこの夢のなかの男の知り合いなだけなんだろうと思うと、なんとも言えない気持ちになった。




