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「ま、夢だしなんでもありなんじゃね」
テツは言った。
「テツは夢でじぶんの姿を見たことある?」
「いや。おれは朝起きたら夢なんか忘れてるからな」
予備校まで続くまっすぐな歩道を歩いた。広い道路の向こうには、よく晴れた青い空がひろがっていた。まだすこし肌寒く、朝の白い太陽はちりちりと熱をもって、ぼくの顔を照らしている。左のポケットのなかには、シャープペンシルのグリップのベタベタとしたゴムとプラスチックの硬い感触があった。
「模試、もう明日かぁ」
「もう五月なんだよな。早いよな」
テツがため息混じりに言った。
「勉強は進んでる?」
「まだ一ヶ月だからな」
と、テツは言い、「だけど、ほんとは全部去年までの復習なんだよな」と言い、「ま、今やってるところくらいまではカバーできてるだろ」と言った。
「たしかに」
ぼくは焦る気持ちをおさえながら同意した。
深夜に家の前を通る車はどこへ向かっているのだろう。ガタガタと音をたてる大型トラックと、淀みなく走る軽自動車の音を聞きながら、ぼんやり考えていた。
何が書いてあるのかはっきりとわからない英文を曖昧に訳し、解答を間違える度、解説文を読んだ。集中力がきれると、机の周りの整理整頓や、読みかけの雑誌、家の前の道路を通る車の音が気になった。集中力は度々きれ、明日の模試の事を気にしながら、窓の外に耳を澄ましていた。車が走り、そのあとの沈黙は蛙の鳴き声が埋めていた。
ことりことりと遠慮気味に誰かが階段を上がる音が聞こえ、ハンドル式のドアノブが動き、ドアがゆっくりと開いた。
「惣一、まだ起きてるの」
母がドアから半身を部屋に入れ、ちいさな声で言った。
「うん。明日模試だし」
「だったら早く寝た方がいいんじゃないの」
「うん。もう寝るよ」
母はうす暗い部屋のなか、不安そうな納得しないような顔を浮かべ、部屋を出ていった。
勉強机の上の丸い壁掛け時計は十二時半を示そうとしていた。頭の奥に眠気を感じながら、明日の朝は四時頃に起き、勉強をしてから予備校へ行こうとおもい、参考書を閉じた。




