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晩ごはんを食べてから部屋にもどって昼間の授業の復習をした。しばらく勉強を続け、小休憩のつもりで手をやすめ、勉強机に備え付けの本棚を眺めた。一番右端の日に焼け、すこし黄ばんだ書類用の白封筒には中学の卒業アルバムがしまってある。
ハードカバーの卒業アルバムは汚れも黄ばみもなく綺麗な状態を保っている。ぼくはゆっくりと卒業アルバムを開き、同じ学年だった友だちの写真をいくつか眺め、バスケットボールをしている彼女の写真のところで目をとめた。真剣な目つきで口を開け、呼吸を荒くしながらドリブルをしている。
しばらくじっとみていても、彼女のドリブルがどんなだったか、まったく思いだすことが出来なかった。
ぼくは彼女をこんな風にじっとみつめることは出来なかったし、彼女の事を誰かに聞いたり彼女と話をすることもほとんどしなかった。なんにも知らないまま時間だけが過ぎ、ぼくはいつまでこの人のことをおもっているのだろうとおもうと恥ずかしく、情けない気持ちになった。卒業アルバムをすぐに閉じる気にはなれず、ゆっくりと息を吐き、何度かまばたきをした。
かさかさと窓の外の木々が揺れる音がして、白いレースのカーテンごしにまっくらな夜が見えた。ぼくは漸くそっと卒業アルバムを閉じ、黄ばんだ白い封筒へ戻した。
地面にレンガを埋め込んでつくられた小径の入り口には「OPEN」と木の幹でつくられた看板が立てかけられていた。小径の両側からは草木がトンネルをつくるように突き出して生え、突きあたりには赤いテント屋根のカフェがみえた。左のポケットをまさぐるとなにも入っていなかった。草木のトンネルをくぐるように小径を進み、カフェの入り口のガラスと木でできた扉を開けた。
店内はうす暗く、左手のカウンターには橙色の裸電球がところどころに吊るされていた。右手には四人掛けのソファと二人掛けの机と椅子が置かれ、壁側は全面のガラス窓で、窓の向こうに木々の陰影のくっきりとした鮮やかな緑がみえた。
カウンターに人の気配はなく、辺りを見渡すと店内の一番奥の窓側の席に誰かが座っていた。
窓から差し込むやわらかい光をうけ、肩より長い淡い金色の髪が見えた。顔立ちは離れていてよく見えない。




