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33にもなって男1人だと休みに何もする事がないなどザラだろう。
特に趣味というものもなく、1人で過ごす休みほど虚しいものはない。
「にゃー」
1人と言うのには語弊があった。ベッドに上がってきて文句を言うように鳴く黒猫。
真っ黒なのに名前はシロ。
名前を考えてた時に冗談でシロと呼ぶと返事をするように鳴いたのでシロになった。
「ごめんごめん、シロもいるから1人じゃないな」
謝りながら抱き上げ撫でようとすると、ピョンっと逃げてく。
さすが猫。ツンデレ具合がひどい。
結局一昨日は何の収穫もなく、瑠美からの早く帰ってこいコールでお開きとなった。
~~♪ ~~♪ ~~♪
不意にスマホから通知音が鳴る。
LINEのメッセージだ。
咲希 たーけーしー
咲希 おーい
咲希 あれ?返事は?まだ?え?
開いた瞬間に画面を閉じた。
~~♪ ~~♪
咲希 でた。既読スルーってやつ?
咲希 あー、傷ついたー
このLINEの既読システムを任意にして欲しいと切実に思うのは俺だけだろうか?
既読スルーと言うが、立て続けに送ってきといてどんな言い掛かりなんだ。
まぁいつも通りの展開だから、今更気にすることもないが。
剛士 うるせぇ!勝手に送って勝手に傷つくな!
~~♪
咲希 あ、生きてたwいやこの前あっこのスーパー行きたいって言ってたし今日時間出来たから連れてってあげようと思ってさ!
お!そう言えばそんな事も頼んだ気がする。
駅まで5分、仕事にもその駅にあるバス停から直通のバスで通勤出来るため剛士は車の必要性を感じず車を所有してなかった。
~~♪
咲希 でもうるせぇとか言われたしやっぱやめたo(`ω´*)o
剛士 申し訳ございませんでした_|\○_
最初にそれを言えよと愚痴りながらLINEでは土下座を繰り出した。
~~♪
咲希 苦しゅうない。面をあげよ。
何様だこいつ。
~~♪
咲希 んじゃ後5分後に着くから用意しといてねー
早ぇよ!こっちにも予定とかあったり、無かったり。
はい、何もありませんでした。
剛士 はいよー
大して用意等することも無く財布とタバコだけ持って外にでた。
「おぉ、出迎えご苦労!」
「いや別に出迎えてねぇし。」
LINEからの流れをそのまま引き継ぎ、どこの殿様だよとツッコミたいのを我慢しつつ車に乗り込む。
中谷咲希、以前いた飲食店での同僚だった女性。3人の子供を女手一つで育てるシングルマザーだ。2つ年上で、なぜか出会った当初から姉、弟みたいな飾り気の全くない関係である。年上だから姉と言ったがそんな事は1度たりとも思った事はないんだが。
「なんだかんだ連絡はとるけど会うのは久しぶりだよねー」
「あー、まぁ別に会いたくなる相手でもないしな。痛っ!」
叩かれ、いや殴られた。グーとかひどい。
実際前に会ったのが半年ほど前になるので咲希の言う通り久しぶりなんだが、連絡はそこそことるので感慨深いなんて事は全くない。
他愛もない会話もそこそこにお目当てのスーパーに到着する。
当面の食料補給も兼ねて合わせて生活雑貨をこれでもかと買い込む。
目当ての物を一通りカゴに入れて、せっかくの休みだし久しぶりに自炊しようと生鮮コーナーに戻ってきた。
「あー、何作るかなー。カレー大量に作って冷凍ストックでもするか。」
一人暮らしで手の込んだ料理をしたところで、食べさせる相手もいないので休みの虚しさが倍増してしまう。
簡単だからとカレーをチョイスしたが、男の家庭料理とは無駄にこだわってしまうものだ。
多様なスパイスが置いてあるコーナーをさも出来る男感を出しながら眺めていた。
「はい、手繋ごうねー。あ!それはいらないの!」
スパイスに夢中になってる剛士の横目にこちらに背を向け、子供が勝手に棚から取った物を戻す母親が見える。
特に気にする事もなくスパイスを物色していると、立ち上がった母親がすぐ後ろを子供の手を引きながら歩いていく。
『あー、髪黒くしたんだね!そっちのが似合うよー』
『うー、知らない人ばっかりで緊張するー。』
『あ!このお肉いい感じ?はい、どうぞ!』
え?
子供を連れた母親が後ろを通った時に、不意にブワッと夢の場面がフラッシュバックし脳内再生される。
バッと後ろを振り返る。
辛うじて母親の横顔が見えた。