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始まりの物語




 ある日、少女は自らに秘められた力に気が付いた。この力が一体何なのかもわからずどうすることもできないままその場に留まっていると、近頃こっそりと壊れた土塀の隙間からやってくる少年にその「姿」を見られてしまった。

 少年は少女の「姿」を見てその目を大きく見開いた。お伽話として聞いていたはずの「姿」に目を奪われ、一瞬で虜になったのである。


 「  ! お前は神に愛された娘だ!」


そういって、少女の体を抱き寄せ、天に見せびらかすように高く抱え上げる。少女はキャーと嬉しそうに声を上げ、少年にこう問いかけた。



 「ははうえさまも、よろこんでくださるかしら?」


 少年は少女の両親について何も知らなかった。「普通」の親なら大喜びだ! と太鼓判を押すと、少女は心から嬉しそうにはにかみながら顔を伏せた。


 「なぁ、  。お前がもっと大人になったら、俺の妻になってくれないか?」

 「ツマって、なにになればよいのですか?」

 「あー……奥さんって言ったってわからないよな……俺にとってたった一人のかけがえのない人になってほしいってこと」

 「じゃあ、セイ兄さまも私にとってかけがえのない人になってくださるの?」

 「そう! 俺たちはお互いにユイイツムニの存在で、失うことのできないアイすべき者だ」


 そう言うと、少年は身に着けていた革製の首飾りを「婚約のしるしだ」と少女にかけ、代わりに彼女の髪紐を自分の髪に結い付けた。すぐに母上に教えてやるといい。きっと喜ぶぞと少女に促して、少年はそこから去っていった。



 母はこの「姿」を見たらなんというだろうか。驚き、次いで喜び抱きしめてくれることを期待していた少女の淡い希望は、母の悲鳴によって打ち砕かれた。

 部屋に入ってきた少女の「姿」を見た母は言葉を失い、そして得体の知れない恐怖に震え腹の底から声を上げた。




 「いやあああっ!」

 「ははうえさま、どうなさっ」

 「私に寄るでない! 誰ぞ、誰ぞこの化け物を捕らえるのじゃっ」

 「バケモノ……? ははう、え……さま。わたしは、バケモノではありません。わたしは、」

 「御方さま、いかがなされたのですか……ひっ姫様! そのお姿はっ」

 「早うあれを! 私の目の届かぬところへやっておくれ……! あのような化け物を私は生んだ憶えはない!」


 ちがう。



 ちがう。



 ちがう!




 わたしは、バケモノなんかじゃない!!



 その日から、少女は「バケモノ」と呼ばれ、屋敷のはずれに作られた石造りの塔に閉じ込められることとなった。

 




 それから10年以上の月日が流れ、少女は突然屋敷の主である父の元へ召し出される。尤も、あの日以来父を「父」と呼ぶことは許されていない。少女の「姿」を見た母は精神を病み、狂人となりはてた。屋敷の奥にある部屋で静かに寝ていたかと思うと、急に奇声を発し、わめきながら少女への呪いの言葉を天の神へ叫び続けた。変わり果てた妻の姿に、夫である父は憎しみの矛先を娘へと向けたのである。

 母の容態が安定していると思われる日には、食事を運ぶ召使いたちも機嫌がよく時には内密に果物や書物を差し入れてくるが、何日かに1度は2食運ばれてくるはずの食事は1度だけになり、月に1度は父本人が訪れ少女に侮蔑の言葉をぶつけ、時には鞭で殴られることもあった。

 

 少女が閉じ込められてから6年後、母は死んだ。錯乱したままらせん階段の1番上から身を乗り出し、頭から落ち脳漿をぶちまけ、その死に顔は目を見開き笑ったままであった。


 母が死んでからは父の訪れも途絶え、少女は静かにただ待ち続けた。この塔を出られるときは、自らが死ぬ時なのだと悟ったからである。






 「お呼びでございますか、御館さま」




 父は一度もこちらを見ようとしない。少女の顔を確認することもなく、淡々と話を切り出した。



 「……嫁ぎ先が決まった。翔国の王の元に行け」

 「は……?」 

 


 言うべきことは言ったとばかりに椅子から立ち上がると、ついに一度も少女に視線を送らずに広間から逃げるように立ち去ってしまった。



 「どういうことなのですか? 私はてっきりこの場で首を差し出すように言われるのかと思っておりましたのに。金吾さま、私に嫁げとは御館さまは何をお考えなのでしょうか」


 金吾と呼ばれた30代に届くかどうかといった、少しばかり頼りなさげな風貌の男は、「どこまで」話すべきか迷いながら小さな声で語り始めた。



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