俺とギガとのラブゲーム
「おい、下ろせ。今すぐ、下ろせ」
虚しくギガの声が響き渡る。
海斗はギガを抱っこしたまま人のいる方へ一歩一歩近づいて行くのだった。
一人と一匹は、あの奇跡の出会いから色々と話し合った。
過去の事、今の事、そして、これからの事も。
過去の事とは
間皇 海斗がかつて魔王カイゼルであった事。
ラ ブ が 魔 獣ギガであった事。但しラブの名前は秘匿
今の事とは
海斗は住んでいる場所や周辺の状況。
アルバイトの引っ越し屋の事等。
ギガはこの近所に住んでいる事や飯山家(家名は明かさず)の事。
愛や三月の事はほぼ隠したままで。
これからの事とは
海斗は今までの調査結果(ご近所散歩)。
向こうへの帰還方法。魔力の事等。
ギガは海斗の話を聞き意見を言うだけで自分のこれからの事は終始話さなかった。
その結果ギガは海斗に不審がられ只今絶賛尋問中である。
すでに三十分間モフモフの刑やかつてのギガと今の愛玩犬のギャップを笑う刑等試したが無駄に終わってしまった。
それほどまでにギガの決意は固くなかなか口を割りそうにない。
とうとう業を煮やした海斗はある作戦に打ってでる。
この策はあまりにも非道なのでとりたくなかったが仕方あるまい。
ただの犬であれば何の事でもないことである。
しかし人にプライドや人格があるように、ギガにも魔獣としてのプライドや意志は存在している。
これから行われる行為はそれをズタズタに引き裂く事となるだろう。
海斗は心を鬼にしたのだ。
海斗はギガの体を抱き上げ周囲に良く見えるように両後ろ足を左右に開いたポーズをさせた。
所謂人間の赤ちゃんがする、オシッコ等をするポーズである。
海斗はギガの耳もとでぼそりと呟いた。
「このまま公園内の人間にお前の大事な部分を晒して回ろうか。その羞恥に悶えるがいい」
なっ、ギガは焦った。
まさかその様な暴挙にでるとは。
愛や三月にコショコショされるのは、仕方がないと幾分諦めもつくが、今回のはそれとは違う。
大事な部分を態々相手に見せつけ見聞する。
と奴は言っているのだ。
この様な暴虐非道が許される訳がない。
もしもその姿を愛に見られでもしたら、儂は、儂は、儂の心は死ぬ。 いくら制止を求めても海斗の歩みが止まる事はない。
ふっふっふっと、不適な笑みをうかべ海斗は着実に人のいる方へと歩きだす。
少し離れた場所では子供達がボールを投げて遊んでいる。
その近くでは両親だろうか子供達の事を優しく見守っている。
向かいにはビニールシートを敷き、お弁当を食べている家族も。
皆、皆に見られるのか?
嫌だ、嫌だ、嫌だ。そんな羞恥プレイは嫌だ。
「クゥォォォォォォン」
ギガは生まれて初めて他者に助けを求めた。
きっと近くにいるだろう愛に向かけて。
「あれ~、ラブ?だよね」
その声が届いたのか直ぐに愛が見つけてくれた。
愛の姿を見つけてギガは尻尾をちぎれんばかりに左右に振っている。
海斗はギガの本気の愛犬モードに呆れつつもこの状況をどう打開すべきか頭を悩ませる事となる。
愛も全く知らない赤髪で目つきが鋭い男が何故ラブを抱いているのかが分からず、どうしようか迷っていたのだ。
海斗もまさかこのタイミングでギガの知り合いに会うとは思ってもいなかったみたいで、双方全く動けずにいた。
そこに三月が現れた事により二人の膠着状態が解ける事となる。
三月は愛より一歩前に出て海斗を不審者と訝しげている。
そして、その手に抱いているラブの事を聞いてきた。
「ねぇ、その犬。この子の犬じゃないの。何であんたが抱いてんの」
最初からきつい言葉を投げ掛けている三月を抑える為か愛は三月の左袖を右手で、軽く引っ張る。
三月も愛が言いたい事は理解しているので、後は宜しくと言いたげに肩に軽く触れ愛の後ろに一歩さがる。
決して海斗から目を反らさず愛に善からぬ事をしようものなら自分の身を挺するつもりでそこに立っていた。
海斗も女の子二人に不審に思われているのは気づいている。
そればかりか先程までの自分の暴挙を少々反省しつつこの場でどう言い訳をしようかと考えこんでいた。
そこに助け船を出してくれたのが愛であった。
「そんなにラブが私意外の人になつくなんて、すっごい珍しいんです。あの、もしかして連れて来てくれたんですか?」
「あぁ、そう。この子迷ってたみたいで」
その言葉を聞いてギガは冷たい目線を海斗に向けるが、愛にしてみればラブが尻尾を振りながら、目の前の見知らぬ男へ振り返り甘えている様にしか見えなかった。
とんだ誤解である。
愛がもし自分の愛犬にさせられた非情な事柄をこの場で知ったならば、きっとこれから先も目の前の男と付き合おう等とは思わなかっただろう。
「有り難うございます。突然居なくなったから探していたんです。でも良かった。いい人に見つけてもらって」
愛はラブを渡されるととっても大事そうにその胸に抱きしめるのだった。
海斗は見逃さない、抱かれた瞬間のギガのヘタレ顔を。
ギガも悟ったのか以後、海斗とは目をあわそうとしないのだった。
その後は三人で何気ない会話を楽しんだ。
海斗が日本語を話した時は二人共ほっとしたとか。
家でのラブの事とか、学校での事とか。
一度三月が海斗の家族だとか国の事だとかを聞いてきたが、いきなり話しを振られた海斗がどう答えようか悩んでいるのを見て、何か聞いてはいけないものではと二人が勘違いをし謝罪までもされてしまい、それ以降海斗は終始聞き役となった。
この世界に馴染むにはその辺の偽装も必要だと改めて思い悩む海斗であった。
既に夕刻にである。
ピクニックを楽しんでいた家族はとっくに姿が見えず、遊具が置かれている広場も閑散といていた。
「海斗さん。私達そろそろ帰りますね」
そう言って三月が海斗に手を振ってきた。
海斗も軽く手を振り返す。
愛もまた遊びに来てくださいと手を振ってくる。
ギガも此方を見てくるが目が合った瞬間興味なさげに、欠伸をしてくる。全く可愛げがない犬である。
しかし今日ここでギガに会えたのは大きな一歩となった。
何故なら海斗は微弱ではあるがテレパス(精神通話)が可能になった。
といっても、誰でも通話出来る訳ではない。
お互いにある程度の魔力が必要となる。
更に発信、受信者がテレパスを拒否した場合は無効となってしまう。誰が発信しているか分からないテレパスを受けたいと思う人はあまりいないだろう。
したがって仲間同士の通話に限られる。
この話しをした時に海斗もギガも一つの可能性を考えていた。
自分達意外にも此方に来た者がいるかもしれない。
だとしたらこのテレパスは最大の探知能力になるかもしれないと。
今の所微弱だがやりようはある。
そんな話しを今日はした。
愛も三月も此方に背を向け家へと歩いている。
愛の足下にはギガもチョコチョコと並んで歩いている。
海斗はギガに向かってテレパスを使う。
『ま~たね。ラ~ブちゃん』
テレパスを受け取ったギガは牙を剥いて威嚇するのだったが、小型の愛玩犬だからかどうにも凄みを感じない。
海斗はその姿が可笑して口元を緩めるがその半分は、自分にも仲間がいたという事実がとても嬉しかったのであった。