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それぞれの日常

先週はスミマセン。作者インフルエンザにかかってしまいました。皆さんも気を付けてくださいね。

 ここはアスベルト。

 アスベルトは魔大陸に有り、嘗て、魔王カイゼルが治めていた地。

 アスベルトから魔王カイゼルの姿が消えてからというもの、治安の悪化が問題視されていた。しかし、ここにきて、その治安の悪化に終止符を打つ者が現れた。

 誰しもが、予想外だと言う。


 「ギルド長、これが次回の見積書です。お目通しを………それと此方が前回の収支報告書になります」


 「あぁ、ご苦労」


 「では、失礼致します」


 真っ赤な体に黒い羽と角を生やした大柄な魔族の男が部屋から出ていく。

 黒い革製のソファーに腰掛けながらそれを見送る、その男………勘違い勇者の七瀬勇気であった。


 七瀬はリバーシの権利を売買後、その資金を元に、数々の玩具を開発。

 そのアイディアの悉くが大金に化け、今ではアスベルトで名を知らぬ者のいない程の人物となっていた。上位富裕層の一人である。

 大金を手にし七瀬が次に目をつけたのが治安の悪さである。

 魔王在位時には余り見掛けられなかった誘拐や傷害、更には殺人等の事件が頻発。

 いつ、知り合いが巻き込まれるかとヒヤヒヤしていたが、一向にアスベルト政府(?)が動く気配も無く、痺れを切らした七瀬が商人仲間に声をかけて立ち上げたのが『アスベルト警備』である。


 魔王がいなくなり、何をしていいのか解らない者が多く、暇そうにしている腕っぷしの強そうな者達を集める事から始まった。

 集められた者は商人達の面接を経て雇われる事に。

 七瀬には人(?)魔族を見極める目がなく、普段から人を見ている商人達に一任する事とした。

 立ち上げたばかりの頃は、誰も要領が解らなく少々トラブルもあったが、当初入った者達も今では古参と呼ばれる様になり、上官やら指導員として腕を奮っていた。


 『アスベルト警備』から始まった組織も、今では『アスベルトギルド』に名を変え、街中の警備だけでなく外での魔物討伐、護衛、調査や採集といったものまでこなす組織となっていた。

 ギルドの立ち上げに多くの商人が関わっていた事から魔物の素材の買い取りもギルド内で行い、ギルドは商人達に安く手にいれた素材を提供する。

 これによって安定して素材を手にいれる事が出来る様になり、値が張った商品も少々安く買える様になり、外からも買い出しにくる商人が増え、今では嘗てのアスベルトを彷彿させるまでに賑わっていた。




 「七瀬さん、お疲れ様です。お茶入れましたので休憩しませんか?」

 

 お盆に二つティーカップを乗せた美少女が部屋へと入ってきた。

 栗色で長いストレートの髪に、頭には可愛い猫耳がピョコッとのっている。パッチリとした目に口元は優しく微笑み、見ている此方がほんわかとした心持ちになる雰囲気を醸し出していた。

 この子は、ナナリー。

 路地裏でチンピラに絡まれていた所を七瀬に助けられ、その後もいく宛のない七瀬を自宅に泊めたりと。今ではお互いに意識しあう関係に………周りからも『いつかくっつくだろう』と暖かく見守られていた。


 「有り難うナナリー。早速頂くよ」


 紅茶を楽しみ一息つくと


 「七瀬さん、あまり無理はしないで下さいね。この頃はお帰りも遅いですし………」


 ナナリーは心配そうな表情を浮かべている。


 「大丈夫だよ、ナナリー。皆も仕事に慣れてきたし、それなりの人数も揃える事が出来たから、これからは少し、時間が出来そうなんだ。」


 「良かったですね。七瀬さん、ずっと頑張ってたから」


 「う、うん………」


 何やら、甘酸っぱい空気が部屋を満たしていた。


 「そ、そう言えば、バズ君やミューズちゃん達が七瀬お兄ちゃんはって寂しがっていましたよ。時間がある時でいいので、一度顔を会わせてもらえませんか?」


 「そうだな、明後日には久々に休みが取れるから。その日に遊んでやるか」


 「有り難う七瀬さん。きっと、あの子達も喜びます」


 二人は何気ない会話を交わし、共に仕事に戻っていくのだった。




            @




 アスベルトが、七瀬の活躍により安定へと向かっている頃。

 嘗て、アスベルトを治めていた魔王カイゼルこと、間皇海斗は………今日も、引っ越しのアルバイトに精を出していた。

 その姿に、魔王の威厳など微塵も感じられず、今の日本に何処にでもいる非正規社員の姿がそこにはあった。

 普通の高校生が異世界に飛ばされギルドの長になれば、かたや、異世界で魔王と畏れられたカイゼルが、現代日本でアルバイター………両極端に立場が変わったものである。

 仕事を終えた海斗は、仲間達と居酒屋に来ていた。

 居酒屋の個室。


 「この頃の日本は物騒デスネ」⬅謎のインド人アンドラ


 「どこのくにもあらそいなくならない。かなしいね」⬅国籍不明リチャード


 「日本の黒社会(ヘイシャーホェイ)も大変よ」⬅台湾の元導師王子彰(おうししょう)


 「ジンセイタタカイ。ツヨイモノカツ、コレイッショ」⬅南アフリカの戦士ギャバン


 「いや~、日本はどうなっちゃうのかね~。人に優しい世の中になって欲しいもんだね~」⬅元魔王


 この頃の日本は、裏社会の大きな組織の分裂があったりと、何やら慌ただしく引っ越す人達が増え、引っ越屋『宵闇』も突然の書き入れ時に大忙しであった。

 毎晩、引っ越しの依頼が宵闇に届き、嘗てない程の慌ただしさ。

 その為、海斗も毎晩デコイ班班長として休み無く働き、数週間ぶりの休日にデコイ班の皆と飲みにきたのだった。


 毎晩の出勤に少々嫌気が生じていたが、終わってみればよい収入になり、現金な話しだが、皆一様にホクホクした表情を見せている。

 春になってからだんだんと暖かくなり、懐も暖まった上、今日の飲み代は宵闇の社長である御子柴玄人(みこしばくろと)の懐から出ている事もその一因だろう。

 数週間に及ぶ特殊依頼である引っ越しの無事終了と、デコイ班の活躍に対しての褒賞の一部である。

 勿論、褒賞金は一人一人の懐にも入っている。

 謂わば、お疲れ会の会費を出してくれたのだ。


 「かいとさんがはんちょうになってからしごとはやいよ(海斗さんが班長になってから仕事早いよ)。よいことね」


 「カイトハセンシ(海斗は戦士)。タタカイノナカイキテキタ(戦いの中生きてきた)、オレ、ワカル。ツヨイイシカンジル(強い意思感じる)」


 「どの業界にも、優秀な人はいるデスヨ。見た目も良いし女性がほっとかないデスネ」


 「………………」⬅王子彰


 「ところで、さっきからなにをしてしるのですか?」


 王子彰はジャラジャラと細い木の棒を掌で混ぜ合わせては床に置きを繰り返していた。台湾の占いだろうか?

 流石に皆も気になりだし、静かに成り行きを見守っている。

 木の棒を再度床に置くと徐に海斗に視線を向け、閉ざした口を開く。


 「海斗さんに女難の相が出てるよ。とても大きな相が………気を付けた方がいい。」


 「………………」⬅海斗

 (女難って言っても、そんなに知り合いがいる訳じゃないし。今考えうる女性といったら………愛、三月、沙羅。公園で会う子供達。それに絵里とあけみさん?有りそうだな。まさか………大家さんじゃないよな。『使徒襲来』とか、冗談じゃないぞ………)


 海斗は、まさかまさかのシナリオを頭に思い浮かべ、人生のピリオドについて本気で考え出していた。

 あの大家が振り撒く相とは何か………………どう考えても死相しか浮かばなかった。

 女難と言うには余りにも不吉過ぎる。

 海斗が重苦しく考えていると、女難と聞いた周りは俄に海斗をからかいだす。


「Oh、かいときおつけるよ(海斗気を付けるよ)。モテるおとこのしゅくめいね(モテる男の宿命ね)」


 「ツヨイオトコ、オンナヒキツケル(強い男、女惹き付ける)。オトコノギムハタス、オンナシアワセ(男の義務果たす、女幸せ)」


 「愛する女性は生涯一人。複数は駄目デスネ」


 アルコールが回っているからか、皆言いたい放題である。

 もし、ここに、あの大家の暴れっぷりを知る者が海斗以外に居たならば、決して笑い話にはならなかったであろう。

 からかう側は大家の暴れっぷり所か存在すら知らず、あの大家を女難と聞いて頭に思い浮かべるのも難しい気が…………女難と言ったら大概の人は恋愛絡みの縺れを想像するだろうし。

 考え過ぎかと頭を振って思考を消す海斗。


 海斗の女性問題に盛り上がる三人。

 三人の冗談を程よく交わしていたが、王だけは海斗に対し心配性そうな眼差しを向けていた。

 その視線の意味する事を考えると胃が痛くなりそうだ。

 冗談ではないと言っているから…………


 それから程なくして御開きとなった。

 五人の内三人はほろ酔い気分で気持ち良く帰り、一人は心配そうに、もう一人は完全に酔いが醒めていた。

 海斗は帰り際にも王から注意するよう諫言される。


 海斗は一人、夜の路地を歩いていた。

 嬉しい筈の飲み会が楽しめず、更には、今から帰るアパートには女難の可能性が二つもあるのだ。

 歩く足取りも重く感じる。


 「はぁ、こっちに来てから疲れる事ばかり。休む暇も無い………こんなんで本当に帰れるのか?」


 最近の仕事の忙しさと生活環境に海斗はストレスを感じ始めていた。

 流石の元魔王様も、現代社会に多くの人が抱える心の病に堪えている様子。

 ストレスって恐い…………

 帰り道、今日の飲み会を振り替えると、占い後に呑んだビールは何故か何時もより苦く感じたと言う………

次回は4/18(月)0時に

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