ヒモ勇者!七瀬勇気
アスベルトの路地裏。
七瀬 勇気は魔族の子供達に囲まれていた。
男の子は木の板を挟み、七瀬の対面に座っている。
木の板には十六の升目が描かれており、その上に白と黒の石が置かれていた。
「よし、ここだ」
男の子は黒の石を端に置くと、黒石に挟まれた白石をひっくり返して黒石に変えていく。
黒が増えて自慢気である。
「あ~らら、じゃあ、ここだな」
七瀬は白石を角に置くと、黒石を一気に白石に変えてしまった。
黒石はほとんど残っていない。
「あ~、ずっこいぞ。七瀬は大人なのに狡い」
七瀬達が遊んでいるのはリバーシ、所謂オセロである。
男の子は頭を悩ませるが圧倒的に不利。
幾ら打っても黒石が少なくなっていくのだ。
最後の方では打てなくなってしまい、大惨敗を喫していた。
「七瀬~、大人なんだから手加減しろよな」
七瀬はニコニコ笑いながら答える。
「勝負の世界に大人も子供も無い。あるのは勝者と敗者だけだ」
チッチッチッと、指振りムトンボを決め、男の子に言い放つ。
男の子は悔しがり、次は勝つと七瀬に指をさして、他の子と交代する。
それから三人の子供とリバーシをすると、既に昼近くなっていた。
「皆、もうお昼になるわよ。一度お家に帰りなさい。午後からまた来ていいから」
ナナリーが出て来て時刻を報せる。
子供達は明日また来ると言い、家に帰っていった。
七瀬もリバーシを片付けると家に入り、二人で昼食を食べながら子供達の話しで盛り上がる。
「魔族と言っても人間と変わりませんよ。特に子供達は皆、素直ですから」
今の子供達との繋がりを作ってくれたのは、ナナリーであった。
あの日の僕は暇を持て余していた。
路地裏マップどころか、アスベルトのマップが数日前に完成。
其からというもの、家でゴロゴロしているだけの駄目人間と化していた。
ナナリーに食わせてもらう、所謂ヒモである。
「これはまずい。余りにも居心地が良いのでつい、だらけてしまった。何かせねば」
働こうにも就職先をどう探せばいいのか分からず、結局ナナリーに相談することになる。
すると、ナナリーからある事を頼まれた。
それが子供達の遊び相手である。
自分から仕事はないかと聞きに行って、それは仕事か等とは言えなかった。
七瀬は渋々ではあるが、子供達の相手をする事にした。
目の前には五人の子供がいる。
初日は警戒されてなつかれなかった。
二日目は川に行っての水遊びだが、一人も近づいて来ない。
三日、四日も変わらなかった。
ナナリーには情け無くて相談出来なかった。
だが、一つ気付いた事がある。
この世界には娯楽が少ないということ。
遊ぶための道具が無いのだ。
七瀬は皆が直ぐに覚えられて、熱中する物を考える。
そこで出て来たのが、リバーシであった。
ルールは簡単、道具も単純な作りなので、ナナリーに相談して材料と工具を都合してもらった。
その夜はリバーシ作りに集中。
リバーシ完成の翌朝。
七瀬は子供達にリバーシの遊び方を教えていた。
子供達は直ぐに覚えて熱中し出した。
「サロマ頑張れ。七瀬をやっつけろ」
「う~ん、何処に置こうかな」
リバーシを初めて一度も七瀬に勝てない事から、打倒七瀬の声が上がっていた。
どうすれば勝てるのか皆で話し合い、子供達の中で一番頭のいいサロマが相手をする事になった。
だが、最初は優勢だったサロマも気付けば、不利になっていた。
リバーシの戦略である。
序盤は取らせて終盤に向け反撃。
子供達はまんまと引っ掛かっていた。
「う~ん、此処だとまた取られるし、上手くいかないな」
七瀬は終始ニコニコしている。
リバーシに勝っているからではなく、単純に子供達になつかれたのが嬉しかったのだ。
子供達は七瀬がニコニコしているので遊ばれていると思い、何が何でも勝ってやると意気込んでいた。
そんな思いとは裏腹に、とうとうサロマも敗北するのだった。
「くっそ~。サロマでも駄目だったか。よし、もう一回俺が行く」
子供達のリーダー格バズが、サロマと交代する。
バズは直情的なので一番手が読みやすかった。
数分後には板の上が白一色に染まっていた。
七瀬の完全勝利である。
バズは今まで以上に悔しがり、もう一回、もう一回と、食い下がってくる。
そんなこんなで子供達と一日中遊んでいた。
もうすぐ夕暮れになる時刻である。
子供達を家に帰らせようとすると、二人の内の一人の女の子が七瀬にくっつき、離れようとしなかった。
この子の名前はミューズ。
この中で一番背が低く、どうやら甘えん坊の様だった。
今日一日で、特に気に入られたようだ。
「ミューズ、どうしたの?帰りたくないの?」
もう一人の女の子がミューズに話しかける。
この子はアリーダ。
ミューズと違い背が高く、一番大人な性格をしている。
面倒見がいい半面、少しおませな所もある。
七瀬を流し目で見たりと、困った部分もあった。
最後の一人はナッツ。
大人しい男の子でどうやら、アリーダが気になるようだった。
時々、チラチラと目で追っているのを見た。
この五人が今日リバーシで遊んだ子供達。
簡単に纏めると。
リーダーバズ、参謀サロマ、大人しいナッツ、甘えん坊ミューズ、おませなアリーダである。
五人共ご近所さんであり、ナナリーに可愛がられていた。
親達もナナリーと昔からの知り合いで、よい付き合いをしていると言う。
七瀬についても知っており、もしナナリーを泣かせる様な奴だったら皆して袋叩きだと、子供達は親がそう話しているのを聴いたらしい。
これを知った七瀬は背筋が凍る思いであった。
ずっとくっついて離れないミューズ。
そこにナナリーがやって来て話しを聞いている。
ミューズにとっても大好きなお姉ちゃん。
少し話し合うと七瀬から離れた。
だが、さみしいのか目頭に涙を溜めている。
七瀬はミューズの頭を撫でながら明日また遊ぼうと誘うと、照れながらまた抱き付いてきた。
そんな事を繰り返し、子供達は家へと帰っていく。
バズなどは明日も来るから逃げるなよと言い残して、帰っていくのだった。
騒がしい一日だったが、この世界に来てから一番楽しい一日だった様な気がする。
次の日もバズ達五人組は遊びに来ていた。
だが、五人共遊んでいる訳ではなく、何やら作っていた。
勿論、リバーシである。
木と石で出来るリバーシは子供達の工作に丁度良かったのである。
簡単な部分は子供達で、石の形作りは七瀬が担当した。
予め前日に作っていたので、然程時間は掛からなかった。
半日で完成した。
五人共大喜びである。
早速、親に見せるからと、バズは飛び出していった。
七瀬とミューズ、アリーダの三人は片付けを。
サロマとナッツは自分の作ったリバーシで遊んでいた。
そんな日から数日。
ある日のこと、七瀬に会いたいと一人の男性が訪ねてきた。
五人とリバーシで遊んでいるところに。
「あれ、バナードさん。こんにちは」
サロマの知り合いらしく挨拶を交わしている。
話しを聞くとバナードは七瀬が作ったリバーシに興味をもち、訪ねてきたと。
職業は商人で真っ当な商売をしているそうだ。
じゃあ、真っ当じゃない商人って何なんだと言いたいのを我慢する。
七瀬がくだらない事を考えていると、バナードが直球で懇願する。
「七瀬さん、このリバーシのアイディアを売って欲しいのです。これは大変素晴らしい。簡単に覚えられて、面白い。それに作りも単純で大量生産しやすい。是非とも私に売って欲しい」
やはりなと、七瀬の予想通りであった。
商人にとってリバーシはいい商品である。
作りやすく、材料も安価。
面白くて、ルールも簡単。
この世界は娯楽が少ない為、リバーシに興味を持つ者も多いだろう。
魔族だけでなく人間にも売れるとなれば、どれ程の儲けになるやら。
そんなおいしい話しを、商人が見逃すはずがなかった。
七瀬もそこは考えていたが、反応が余りに速かったので正直考えがまだ纏まっていなかった。
「いきなり言われましても困ります。後日に返事をするで大丈夫でしょうか」
バナードも今日中に答えを出す必要は無いといい、その日は帰っていった。
「七瀬、リバーシ売っちゃうのかよ?七瀬の物じゃんか。だったら七瀬が売ればいいよ。そうすれば金持ちになれるぜ」
相も変わらずバズの短絡思考。
七瀬は商人になるのは無理だと思っている。
アイディアだけでは売れない。
製造から販売ルートまで、何もかもが無かったからだ。
一人で作っても一日数個、次の日販売しての繰り返し。
評判がよければ他の商人も真似するだろう。
作りは簡単なのだから。
そうなったら七瀬のリバーシの独占販売は終了する。
地球でも同じように、安価な大量販売に勝つのは難しい。
つまりいずれは売れなくなる可能性が大きかった。
ならばアイディアだけ売って、次の商品開発に回してまた、アイディアを売るの繰り返しでお金を儲けようと考えていた。
地球の知識は莫大な富を生みそうである。
夕刻になり子供達も帰って、今日あった事をナナリーと話していた。
ナナリーはバナードのことを知っており、商人としての評判はいいみたいだ。
人 としてもいい人で、七瀬のアイディアと合わさればきっと上手くいくと、ナナリーは太鼓判を押す。
七瀬はナナリーの後押しもあり、バナードにアイディアを売ることを決めた。
だが、七瀬のこの日の判断が、これからのアスベルトの運命を大きく変える事になる。
七瀬 勇気というイレギュラーの出現によって、アスベルトの街が変わりつつあるのだった。
次は3月6日(日)午前0時になります。都合により週一連載になりますが、必ず続けていきますので、これからも宜しくお願いします。




