表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/37

ヒモ勇者!七瀬勇気

 アスベルトの路地裏。

 七瀬 勇気は魔族の子供達に囲まれていた。

 男の子は木の板を挟み、七瀬の対面に座っている。

 木の板には十六の升目が描かれており、その上に白と黒の石が置かれていた。


 「よし、ここだ」


 男の子は黒の石を端に置くと、黒石に挟まれた白石をひっくり返して黒石に変えていく。

 黒が増えて自慢気である。


 「あ~らら、じゃあ、ここだな」


 七瀬は白石を角に置くと、黒石を一気に白石に変えてしまった。

 黒石はほとんど残っていない。


 「あ~、ずっこいぞ。七瀬は大人なのに狡い」


 七瀬達が遊んでいるのはリバーシ、所謂オセロである。

 男の子は頭を悩ませるが圧倒的に不利。

 幾ら打っても黒石が少なくなっていくのだ。

 最後の方では打てなくなってしまい、大惨敗を喫していた。


 「七瀬~、大人なんだから手加減しろよな」

 七瀬はニコニコ笑いながら答える。

 

 「勝負の世界に大人も子供も無い。あるのは勝者と敗者だけだ」


 チッチッチッと、指振りムトンボを決め、男の子に言い放つ。

 男の子は悔しがり、次は勝つと七瀬に指をさして、他の子と交代する。

 それから三人の子供とリバーシをすると、既に昼近くなっていた。


 「皆、もうお昼になるわよ。一度お家に帰りなさい。午後からまた来ていいから」


 ナナリーが出て来て時刻を報せる。

 子供達は明日また来ると言い、家に帰っていった。

 七瀬もリバーシを片付けると家に入り、二人で昼食を食べながら子供達の話しで盛り上がる。


 「魔族と言っても人間と変わりませんよ。特に子供達は皆、素直ですから」

 今の子供達との繋がりを作ってくれたのは、ナナリーであった。





 あの日の僕は暇を持て余していた。

 路地裏マップどころか、アスベルトのマップが数日前に完成。

 其からというもの、家でゴロゴロしているだけの駄目人間と化していた。

 ナナリーに食わせてもらう、所謂ヒモである。


 「これはまずい。余りにも居心地が良いのでつい、だらけてしまった。何かせねば」


 働こうにも就職先をどう探せばいいのか分からず、結局ナナリーに相談することになる。

 すると、ナナリーからある事を頼まれた。

 それが子供達の遊び相手である。

 自分から仕事はないかと聞きに行って、それは仕事か等とは言えなかった。

 七瀬は渋々ではあるが、子供達の相手をする事にした。


 目の前には五人の子供がいる。

 初日は警戒されてなつかれなかった。

 二日目は川に行っての水遊びだが、一人も近づいて来ない。

 三日、四日も変わらなかった。

 ナナリーには情け無くて相談出来なかった。

 だが、一つ気付いた事がある。

 この世界には娯楽が少ないということ。

 遊ぶための道具が無いのだ。

 七瀬は皆が直ぐに覚えられて、熱中する物を考える。

 そこで出て来たのが、リバーシであった。

 ルールは簡単、道具も単純な作りなので、ナナリーに相談して材料と工具を都合してもらった。

 その夜はリバーシ作りに集中。


 リバーシ完成の翌朝。

 七瀬は子供達にリバーシの遊び方を教えていた。

 子供達は直ぐに覚えて熱中し出した。

 

 「サロマ頑張れ。七瀬をやっつけろ」


 「う~ん、何処に置こうかな」


 リバーシを初めて一度も七瀬に勝てない事から、打倒七瀬の声が上がっていた。

 どうすれば勝てるのか皆で話し合い、子供達の中で一番頭のいいサロマが相手をする事になった。

 だが、最初は優勢だったサロマも気付けば、不利になっていた。

 リバーシの戦略である。

 序盤は取らせて終盤に向け反撃。

 子供達はまんまと引っ掛かっていた。


 「う~ん、此処だとまた取られるし、上手くいかないな」


 七瀬は終始ニコニコしている。

 リバーシに勝っているからではなく、単純に子供達になつかれたのが嬉しかったのだ。

 子供達は七瀬がニコニコしているので遊ばれていると思い、何が何でも勝ってやると意気込んでいた。

 そんな思いとは裏腹に、とうとうサロマも敗北するのだった。


 「くっそ~。サロマでも駄目だったか。よし、もう一回俺が行く」

 子供達のリーダー格バズが、サロマと交代する。

 バズは直情的なので一番手が読みやすかった。

 数分後には板の上が白一色に染まっていた。

 七瀬の完全勝利である。

 バズは今まで以上に悔しがり、もう一回、もう一回と、食い下がってくる。


 そんなこんなで子供達と一日中遊んでいた。

 もうすぐ夕暮れになる時刻である。

 子供達を家に帰らせようとすると、二人の内の一人の女の子が七瀬にくっつき、離れようとしなかった。


 この子の名前はミューズ。

 この中で一番背が低く、どうやら甘えん坊の様だった。

 今日一日で、特に気に入られたようだ。


 「ミューズ、どうしたの?帰りたくないの?」


 もう一人の女の子がミューズに話しかける。

 この子はアリーダ。

 ミューズと違い背が高く、一番大人な性格をしている。

 面倒見がいい半面、少しおませな所もある。

 七瀬を流し目で見たりと、困った部分もあった。

 最後の一人はナッツ。

 大人しい男の子でどうやら、アリーダが気になるようだった。

 時々、チラチラと目で追っているのを見た。


 この五人が今日リバーシで遊んだ子供達。

 簡単に纏めると。


 リーダーバズ、参謀サロマ、大人しいナッツ、甘えん坊ミューズ、おませなアリーダである。


 五人共ご近所さんであり、ナナリーに可愛がられていた。

 親達もナナリーと昔からの知り合いで、よい付き合いをしていると言う。

 七瀬についても知っており、もしナナリーを泣かせる様な奴だったら皆して袋叩きだと、子供達は親がそう話しているのを聴いたらしい。

 これを知った七瀬は背筋が凍る思いであった。


 ずっとくっついて離れないミューズ。

 そこにナナリーがやって来て話しを聞いている。

 ミューズにとっても大好きなお姉ちゃん。

 少し話し合うと七瀬から離れた。

 だが、さみしいのか目頭に涙を溜めている。

 七瀬はミューズの頭を撫でながら明日また遊ぼうと誘うと、照れながらまた抱き付いてきた。

 そんな事を繰り返し、子供達は家へと帰っていく。

 バズなどは明日も来るから逃げるなよと言い残して、帰っていくのだった。

 騒がしい一日だったが、この世界に来てから一番楽しい一日だった様な気がする。


 次の日もバズ達五人組は遊びに来ていた。

 だが、五人共遊んでいる訳ではなく、何やら作っていた。

 勿論、リバーシである。

 木と石で出来るリバーシは子供達の工作に丁度良かったのである。

 簡単な部分は子供達で、石の形作りは七瀬が担当した。

 予め前日に作っていたので、然程時間は掛からなかった。


 半日で完成した。

 五人共大喜びである。

 早速、親に見せるからと、バズは飛び出していった。

 七瀬とミューズ、アリーダの三人は片付けを。

 サロマとナッツは自分の作ったリバーシで遊んでいた。


 そんな日から数日。

 ある日のこと、七瀬に会いたいと一人の男性が訪ねてきた。

 五人とリバーシで遊んでいるところに。


 「あれ、バナードさん。こんにちは」

 サロマの知り合いらしく挨拶を交わしている。

 話しを聞くとバナードは七瀬が作ったリバーシに興味をもち、訪ねてきたと。

 職業は商人で真っ当な商売をしているそうだ。

 じゃあ、真っ当じゃない商人って何なんだと言いたいのを我慢する。


 七瀬がくだらない事を考えていると、バナードが直球で懇願する。

 「七瀬さん、このリバーシのアイディアを売って欲しいのです。これは大変素晴らしい。簡単に覚えられて、面白い。それに作りも単純で大量生産しやすい。是非とも私に売って欲しい」


 やはりなと、七瀬の予想通りであった。

 商人にとってリバーシはいい商品である。

 作りやすく、材料も安価。

 面白くて、ルールも簡単。

 この世界は娯楽が少ない為、リバーシに興味を持つ者も多いだろう。

 魔族だけでなく人間にも売れるとなれば、どれ程の儲けになるやら。

 そんなおいしい話しを、商人が見逃すはずがなかった。


 七瀬もそこは考えていたが、反応が余りに速かったので正直考えがまだ纏まっていなかった。


 「いきなり言われましても困ります。後日に返事をするで大丈夫でしょうか」


 バナードも今日中に答えを出す必要は無いといい、その日は帰っていった。


 「七瀬、リバーシ売っちゃうのかよ?七瀬の物じゃんか。だったら七瀬が売ればいいよ。そうすれば金持ちになれるぜ」


 相も変わらずバズの短絡思考。

 七瀬は商人になるのは無理だと思っている。

 アイディアだけでは売れない。

 製造から販売ルートまで、何もかもが無かったからだ。

 一人で作っても一日数個、次の日販売しての繰り返し。

 評判がよければ他の商人も真似するだろう。

 作りは簡単なのだから。

 そうなったら七瀬のリバーシの独占販売は終了する。

 地球でも同じように、安価な大量販売に勝つのは難しい。

 つまりいずれは売れなくなる可能性が大きかった。

 ならばアイディアだけ売って、次の商品開発に回してまた、アイディアを売るの繰り返しでお金を儲けようと考えていた。

 地球の知識は莫大な富を生みそうである。


 夕刻になり子供達も帰って、今日あった事をナナリーと話していた。

 ナナリーはバナードのことを知っており、商人としての評判はいいみたいだ。

  人 (魔族)としてもいい人で、七瀬のアイディアと合わさればきっと上手くいくと、ナナリーは太鼓判を押す。


 七瀬はナナリーの後押しもあり、バナードにアイディアを売ることを決めた。

 だが、七瀬のこの日の判断が、これからのアスベルトの運命を大きく変える事になる。

 七瀬 勇気というイレギュラーの出現によって、アスベルトの街が変わりつつあるのだった。



次は3月6日(日)午前0時になります。都合により週一連載になりますが、必ず続けていきますので、これからも宜しくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ