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心一と小噺二つ

 僕の名前は七瀬 勇気。

 この世界に召喚されし勇者(自称)である。

 今、僕は路地裏で助けた少女の家にお邪魔している。


 「七瀬さん、お茶入りましたよ」

 少女が木のカップをテーブルに置く。

 優しく、気配りもでき、そして可愛い。

 そんな子が僕の目の前にいる。


 「有り難う、ナナリー」


 そう、この子の名前はナナリー。

 可愛い猫耳っ子だ。

 ナナリーを助けた日、行く宛てのない僕を家に置いてくれた優しい人。

 僕はいつかこの恩を、返したいと思っている。



 七瀬は靴紐を結び、出掛ける準備をしている。

 「今日も行くの、七瀬さん。気を付けて下さいね」


 僕はこの街の地図を仕上げようと、歩き回っていた。

 ナナリーと一緒にこの街から出て、もっと安全な人間だけが住む街へ行こうかと考えたが、聞く限り歩いて行くには遠すぎるみたいだ。


 だからこそ街中を把握し、何が起こってもすぐさま行動出来るように、準備をしているのだ。

 ナナリーと出会ってはや、三日。

 せめてこの子だけでも守りたい、そう思っていた。



           @



 ギガは誇り高き魔獣グリフォンである。

 たとえポメラニアンになっても変わらない。

 野生の本能を研ぎ澄ませ、生きている。


 今日も家の近くの公園に来ていた。

 後から、ヤツらも来るのだ。

 公園には多くの子連れの主婦が、あちらこちらにいる。

 砂場や滑り台やブランコで遊ぶ子供達の声が、ここまで聞こえてくる。

 突然だが、ギガにも苦手なものがあった。

 それは、


 「あ~、ちっちゃいワンちゃん。かわいい。おいで~、おいで~」


 そう、それは、子供である。

 子供はギガを見ると我先にと寄ってきて、身体中を隈無くまさぐるのである。

 これが大人であれば頭を撫でる程度で済むが、お子様は遠慮がないのである。

 かつて子供達によって滅茶苦茶にされた記憶が甦る。

 ギガはぶるりと体を震わせ一気に駆け抜けていく。


 「まって~、ワンちゃん」


 幼児を振り切り安心していると、突然フワッと体が地面より離れていく。

 ギガは自分がだっこされたのに気づき相手を見てみると、見知った顔がそこにあった。


 「ギ~ガちゃん。なんで遊んであげないのかな。ちっちゃい子達、可哀想じゃないか」


 そこにいたのは海斗であった。

 怪しい表情しながら、ギガに問いかけてくる。


 「離せ、小僧。離さぬか。な、何故子供達の方へ行く。や、やめよ」


 海斗はニッコリとした表情になり、幼児達へ歩み寄る。


 「あ~、赤い髪のお兄ちゃん。ワンちゃん抱っこいいな」

 膝をおって腰を落とす、所謂屈伸の屈んだ姿勢になり幼児達の前にギガを差し出した。


 「お兄ちゃん、撫でていい」


 「いいよ。皆で遊んであげて。お兄ちゃんはちょっと、行くところがあるから」


 幼児達は海斗にバイバイしながらも、ギガの体を抱っこして離さない。

 すぐにギガに向き直り、輪になってまさぐりだす。

 こうして今日も、ギガの悪夢がやってくる。

 ギガは海斗の背中を呪い殺さんばかりに睨み、心の中では飼い主の愛に助けを求めていた。

 しかし愛は学校にいる為、その想いが届くことはなかった。


 幼児達のまさぐりは容赦なく続き、ギガの魔獣としてのプライドに、ヒビをいれていくのであった。




           @



 海斗はウキウキしていた。

 引越しのバイトでお客さんに、心付けを頂いたのだ。

 思わぬ臨時収入が入り、ついつい寿司の出前を頼んでしまった。

 何時もなどと言えないが、頼む店は決まって(みや)寿司である。

 安くて、旨くて、速いの三拍子揃った店。

 寅二さんの紹介で知ったのである。


 この店には、ボブという名のアメリカ人がいる。

 ボブは何時も何かを警戒しながら生きていた。

 今日の配達もボブだった。


 「は~い、お待たせね海斗。お代、三千八百円よ。いいことあったか海斗」


 ボブは今日も周りを警戒しながら、お金を受け取る。


 「ボブ、警官が来た」と言うと、


 「わ~お、やっべ~よ。きょうせいそうかん(強  制  送  還)かんべんよ」と、

 慌てだす。


 勿論、警官の事は冗談であり、何の問題もなかった。

 そのことに気づいたボブは、あからさまに安堵の顔を見せる。


 「Oh、海斗、かんべんよ。お金送らないと、かぞくたいへん」


 ボブは国に残して来た家族に仕送りをしている、好青年である。

 ただ少し、からかうと面白かった。


 「また、よろしくね~」

 そう言いながらボブは去っていく。


 海斗は一人、久々の寿司を楽しむ。

 一貫一貫、味わいながら飲み込んでいく。

 次に食べられるのは、何時になるやら。


 海斗の周りには騒がしくとも、怪しく、愉快な人達が、着々と増えていくのであった。




           @



 鬼頭 心一(きとうしんいち)は汗を流して畑を耕していた。

 決して嫌々やっている訳でなく、寧ろ楽しんでいた。


 先日、都会からやって来たレストランのシェフが、うちの野菜を是非使いたいと、契約を交わしてくれたのだ。

 自分の育てる野菜が認められた事、必要とされている事などに、心一は更にやる気をたぎらせ、畑作に邁進していくのだった。


 夕刻となり心一が家に帰ってくると、五十過ぎの男性が心一を訪ねてきた。


 「心さん、先日のことで先方さんから電話があってな是非、心さんの野菜を使った料理を心さんにも食べて貰いたいとの連絡が来たんだが、行けるかい、心さん」


 「そりゃあ、楽しみだ。どんな料理に使われるのか、興味があっただよ。是非、行かせて頂きますと、伝えてもらえますか、藤堂さん」


 こうして心一は、初めて都会に赴く事になった。




 「う~わ、人が一杯だ」

 心一は都会に着くと、目を白黒させている。

 あちらこちらに人が溢れ、みな何処へ向かっているのかせかせかと急いでいる様に見える。

 今まで長閑な場所で暮らしていた心一にとっては、都会の風景は物珍しいものに写っていた。


 送られてきた地図を頼りに、レストランまでどうにか到着する事ができた。

 途中、二度道順を通行人に聞いたが、初めはその体格から怖がられた心一だったが、元々人柄がよく優しい性格が滲みでているからか、みな親切に案内してくれるのだった。


 レストランは洒落た造りで、真新しく感じられた。

 心一が椅子に掛け待っていると先日、顔を会わせたシェフが出てきて挨拶をかわす。

 少し話しをすると、調理場に戻り料理を始める。


 心一の前には一品ずつ料理が出され、食べ終えるとシェフが料理の解説をする。

 野菜の味や見た目にも拘った料理に心一も感心し、全て食べきる頃には感動さえ覚えていた。

 丹精込めて育てた野菜が、最高の料理に使われているのである。

 作りてとしてこれ程、嬉しいことはなかった。


 料理に舌鼓を打つとレストランの皆さんと話し合うも、他にも用事がある事を伝え、レストランをあとにする。

 もう一件の用事を済ませようと、地図を片手に歩きだす。

 場所はここより少し離れているが、交通機関の確りした都会である。

 其ほどの時間はかからなかった。


 ここは一件の青果店。

 この店にも野菜を卸していた。

 店舗は小さいが、地域密着型の温かい店に見える。

 店長さんが出てきて互いに挨拶を交わし、売れ行きや野菜の評判を話し合う。

 心一の育てた野菜はここでも人気で、売れ残る事が殆どなかった。

 聞いて安心したのか心一はホッとし、これからの仕入れの話しに戻る。


 随分話し合ったか、日が傾き始めていた。

 頃合いを計り話しを終えると、一人のお客さんが入ってきて、二房のバナナと心一の育てた野菜を手にとり会計をする。


 体格のいい心一を男性が見上げてくるが、その顔には戸惑いの表情が見られた。

 心一も怖がられる事が常であり、慣れてしまっていた。

 優しい性格なのでそれすらも、受け入れていた。

 だが、心一の表情が驚きに変わる。

 『お前、まさかグリュードか?』


 「えっ、な、なんで」

 突然頭の中に声が響いてきた。

 それもかつての名で。


 『よし、店の外で話そう』


 買い物をしていたのは海斗であった。

 どうやら心一をグリュードと呼び、知り合いであるかのよう。

 心一は店長さんに挨拶をし、海斗の背中を追い店をあとにする。


 暫く歩くと海斗が振り返り、話しかけてきた。


 「やっぱり、グリュードだったか。お前、魔力を抑えきれてないから直ぐに、分かったぞ」


 心一は困惑しながらも、海斗に問いかけてみる。


 「まさか、カイゼル様ですか」


 どうやら心一も、異世界からの転移者であるようだった。

仕事の都合上、次回は3月2日(火) 0時となります。お待ち頂いてる方には申し訳ありませんが、どうかご理解下さい。これからも、宜しくお願い致します。

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