09 異文化交流・1
結論を言うと、湯殿を生成したときに下着のスペアが同時に生成されていた。一枚ずつで戦い抜けというのか、と思っていたら、どうやら魔界の商人の商品ラインナップにも追加されているらしい。
参謀室には「商品注文書」が置かれているが、今の迷宮の状態によって品揃えが変化するのである。湯殿がないうちはパンツも買えなかったということか。湯殿を作らなかったら、美少女参謀である俺は、美少女冒険者からパンツを剥ぎ取ることで下着の替えを揃えなければならなくなるところだった。パンツを置いていくなら見逃してあげます、という平和的交渉を行う場面も訪れたかもしれない。
脱ぎたてのパンツと未使用のパンツはアイテムとして違うものなのかな、と非常にどうでもいいことを考えていると、部屋の扉が開いた。鍵をかけてないので、誰かが入ってきたようだ。ずりずり、と地面を這いずる音――これは間違いなくアムネシアさんだ。
「参謀殿、せっかくだから一緒に入らない? サクヤちゃんもぜひそうしたいって言っているし」
「私、やわらかいものに石鹸を塗って、それに抱きついて全身ぬるぬるになってあわあわになるのが大好きなんです」
キラキラした目で言われても困るのだが、どうもこの娘、俺が思っているより天然で淫乱の気があるらしい。妖精じゃなかったらどうなっていたことか。
「うん、それはいいんだけど、そのやわらかいものを私に求めるのはやめてね?」
「いいじゃない、少しくらい。サクヤちゃんも裸のお付き合いに憧れてるのよ。そうよね?」
「はい、ミリエルさんともっと仲良くなりたいです!」
(すっごく期待されているのは分かるけど、いいんだろうか? 小さいとはいえ出るところが出ているピクシーと、肌を触れ合わせてぬるぬるするなんて)
偉い人はこう言っていた。興奮しちゃうじゃないか、と。そのまんまである。
「ま、まあ、少しだけならいいですよ。あくまでも身体を洗うだけですからね」
「本当ですか!? わーい、ミリエルさん大好きー!」
「きゃっ……!」
風呂に入るためにジャケットを脱ぎ、暑かったので胸元を開けていた――そんなチャンスを、サクヤが逃さずに飛び込んできた。
サクヤはいったん俺の胸に背中を向けて着陸すると、そのまま谷間にすぽっ、と滑り降りた。その瞬間のくすぐったさといったら、もう何というか、胸って敏感な部分が限られてるんじゃないのか、という俺の認識を、一瞬で塗り替えてくれた。
「ひゃぅんっ……!」
部屋に響くのは愛らしい悲鳴。というか、明らかに反応してしまっている感じの声だった。
「……あの、お耳が溶けちゃいそうなんですけど。ミリエルさん、かわいすぎませんか?」
「ふふっ……そうね。頭脳明晰で、魔王さまを制御することもできて、そして感じやすい。何ていう逸材なのかしら……」
「なっ……か、感じやすいわけじゃないです! 人とどうやって比べていいのか分からないですけど!」
触り合ったところで自分が感じていることを伝えようがないのだから、比較は難しい。
でも客観的に見たら、ちょっとサクヤに胸の谷間をすべり台にされたくらいで声が出てしまうのは、感じやすいと言われても仕方ないんじゃないだろうか。
(まあ、ステータスには出ないからいいか。何か致命的な弱点になることはないはず)
俺は自分を落ち着かせようと、ステータス画面を開く。参謀にもいちおうステータスが設定されているのだ。
∽ ステータス ∽
ミリエル・ランパード 15歳 女
種族:魔人
役職:参謀
HP:20 MP:36
STR:2 VIT:1 DEX:9 INT:18 SPD:1
物理攻撃力:1 魔法攻撃力:3
物理防御力:4 魔法防御力:20
スキル:命令 支援 手当
弱点:性感帯
「ひぎぃぃぃ!」
「はぅっ……み、ミリエルさん、すごい悲鳴です……お胸にぷるんぷるんと響いてきます、すごい横揺れです!」
「何かショックなことにでも気づいたのかしら。そんなリアクションだったわね」
「い、いえっ、なんでもないです。本当になんでもないんです、優しくしてください」
「まあ……最初のお風呂でそこまで? 私もそこまで考えていなかったわ、こう見えて処女だから」
「処女? 処女ってなんですか? もの知りミリエルさんはご存じですか?」
そんな便利キャラみたいなニックネームを付けられても。というか、参謀の俺が落ち着いていないと、この二人に好き放題にしゃべらせていたら収拾がつかないことこの上ない。
考えてみれば、魔王だけでなく、部下たちも参謀の命令を聞いて動くだけなのだ。部下たちがみんな知性(INT)が低いかは後で確かめてみないと分からないが――いや、魔法の効果にも影響するからそれは関係ないか。
(しかし性感帯と言われても、具体的にどこが弱いんだろう)
弱点を知っておけば、あらかじめ防御することは可能だ。一箇所か二箇所くらいに違いないと思いつつ、俺は弱点である「性感帯」の詳細を開いてみた。
∽ 詳細情報 ∽
弱点「性感帯」
説明:接触されることにより、「性感」パラメータが高まりやすい。
該当する部位:
頭
こめかみ
耳たぶ
耳の裏
唇
あご
うなじ
鎖骨
二の腕
乳
(あぁぁぁぁぁ!)
二箇所か三箇所で終わると思いきや、凄い勢いでずらずらと出てくる。こういう情報は頭に思い浮かべることで見られるわけだが、自分で止めることも出来るのは幸いだった。
(人間の体で、乳がつく部位は二箇所くらいしかないだろ……乳歯なんてとっくに卒業してるし、明らかにバストじゃないか!)
性感パラメータなんてものがあったら、「魔王と参謀」は間違いなくR18になっていたはずなので、ゲーム時代は無かった――と思いたいのだが、隠しパラメータとして存在していた可能性は否めない。現に、俺が自分のステータスを開いても、性感などという数値はどこにも発見できない。代わりにこんなデータは発掘できたが。
∽ 装備情報 ∽
武器:なし
頭:参謀の帽子
上半身1:布の服(白)
上半身2:布のブラジャー(白、G)
下半身1:参謀のスカート
下半身2:布のショーツ(白)
手:布の手袋(白)
足1:レザーブーツ
足2:ソックス(白、ニーハイ)
(な、なるほど……Gか。Hまで行くと、ハイパーな感じがしてくるもんな。なんだハイパーって)
攻略に重要とはとても思えない情報ばかりが明らかになっていく。全身性感帯でも、別に死にはしないだろうが変な緊張感がある。
だ、大丈夫だろうか。いつまで貞操を守り通せるのか、不安になってきた。捕まったら最後、くっ殺どころか、アヘ顔ダブルピースさせられる未来しか見えない。嫌だ、アヘ顔は自分でするより、可愛い女の子にしてもらいたい方なんだ。
「はふぅ……ずっと同じ方向を向いてると疲れちゃいますね。ミリエルさん、逆向きになってもいいですか?」
「だ、だめです! そんなことしたら、私、あの、えっと……」
「息がくすぐったいとか、そういうこと? サクヤちゃん、参謀殿はくすぐったがりなのよ」
「やっぱりそうなんですね。じゃあこうやって、ふにふにってするとどうですか?」
「あっ……!」
――もう駄目だ、と一瞬思った。いくら敏感でもこんな身体はおかしすぎる。サクヤがぷに、と適当に胸を人形サイズの手で押しただけで、胸が自分のものじゃないみたいな感じがした。
(こ、これはあかんやつや……あかん、そこはあかん……!)
「……あ、あの、ミリエルさん? もうしませんから大丈夫ですよ、怖がらないでください」
「ふふっ……さっき魔王さまに出してもらった大鏡で、自分の顔を見てごらんなさい。真っ赤になってるわよ」
「い、いえ、何でもないですよ? 私を動じさせたら大したものです、いえ本当に」
やせ我慢に聞こえると知りながら、俺はサクヤがまた変な気を起こさないように警戒しつつ湯殿に向かった。一気に汗をかいてしまった……それを気にしないこの妖精もどうかと思う。どれだけ会ったばかりの俺になついているのだろう。