表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/19

07 迷宮生成・1

 それにしてもアムネシアさんの方が服が開いてるんだから、ぴっちりしたシャツの私……いや、俺の胸に入らなくても、と思うわけだが。


(自分が男だったことを忘れそうになっていく……女らしい口調にしろとか魔王が言うから。嫌だ、俺はおねショタなんて興味はないんだ。お姉さんに興味がある、健全な好青年なんだ)


「……参謀殿は、女性に興味がおありなのですか? そんなに綺麗なお顔をしているのに、なかなか罪な趣味を持っていらっしゃるのですね」

「っ……ち、違います、断じて。男性にも興味はありませんが、同性に対しても、やましい気持ちなんて……」


 アムネシアさんに興味を示す視線を向けてしまったので、彼女がぽっと頬を赤らめる。そんな反応をされてドキッとするあたり、まだ俺の中の男の部分は死んでいない、よかった。


 アムネシアさんのような美女に綺麗なお顔と言われると、自分で見て確かめてみたくなる。生前の容姿は当たり前だが、そのまま性別を変えたら美少女になるような互換性は持っていなかった。


 初期フェイズで作るアイテムとして、俺は「それ」を選んだことは無かった。元々は罠を作るために使うアイテムなのだが。50マギウス、決してコストも安くはない――しかし、今はどうしても作っておきたい。ちゃんと、後で再利用するという条件付きで。

 今は「姿見」がぜひとも欲しい。アイテム名としては「大鏡」だが、それを魔王さまに頼んで生成してもらおう。魔界の商人からは、今の段階では購入することが出来ないアイテムでもあることだし。


「閣下、ひとつお願いがあるのですが……」

「うむ、何でも申してみるがよい。我に添い寝をしたいということであれば、それもやぶさかではない」

「それはしません」

「す、すごいきっぱり言いましたよ、すっごく光栄なことだと思うんですけど! 魔王さまってもしかして人望がなかったりします?」

「思っても言ってはだめよ、そういうことは。魔王さまだって、本当にしてくれると思って言ったわけではないわよ」

「き、貴様ら……なぜ我に召喚されたというのに、魔王より参謀を尊重するのだ!」


 ベテルギウスはどうやら相当に打たれ弱いようだ。部下にからかわれて一瞬で涙目とはなさけない。


「あーはいはい、閣下、どうしてもと言うなら添い寝くらいしてあげますから、泣かないでください」

「ぐぬぬ……なぜ上から目線なのだ! 我は魔王だぞ!」

「はー、でもちっちゃいですからね。私も相当ちっちゃいですけどね」

「ぐぬぬ、って本当に言う悪魔を初めて見たわ。これは興味深いわね」


 サクヤとアムネシアさんも同調してくれる。女性三人に問い詰められるショタ、圧倒的じゃないかと言いたくなる戦力差だ。いや、ユニットとしては魔王が最強なのは間違いないけど。


 かわいそうに、俯いてしまいプルプルと震えていた魔王は、ゆらりと顔を上げると、こちらをぐるりと眺め回した。


「くっ……くっくっ、そこまで我を愚弄するか。即時魔界に戻してやってもいいのだが、参謀の言うことは絶対なので仕方ない、猶予をやろう。しかし参謀よ、我の交換条件を受け入れねば、お願いは聞いてやらん」

「こ、交換条件と言いますと……閣下、まさかご乱心を……?」


 身の危険をほんのり感じたので、俺は自分をかばうようにしつつ聞いてみた。実際ユニットとしては、初期状態の参謀は人間の女性となんら変わりない。戦闘に参加できるようになるには、ある条件を満たさないといけないのである。


 なので魔王に命令されたら逆らえない。調子に乗って舐めすぎたかな、でもこの魔王なら大丈夫かな、と頭の中をぐるぐると考えがめぐる。


 ――そして俺の嫌な予感は、わりと完全に的中してしまった。


「湯浴みの際に、我の世話をするのだ。そうしたら、頼みを聞いてやろう」

「あっ……これは小さい私には無関係の内容ですねっ。ミリエルさん、頑張ってください!」

「魔王さまなら一時的にピクシーの身体を大きくすることも可能でしょうけれど。ふふっ……それにしても想定外だったわ。もう少し親睦を深めてからかと思っていたから」

「あ、アムネシアさん……どうして私をじっと見てるんですか? 魔王さまですよ、不埒なことを言ってるのは」

「不埒ではない。我は湯浴みが好きなのだ。残りの魔力のうち500マギウスは、湯殿の作成に費やすと決めておる。目覚めてから既に風呂に六時間入っておらぬのだからな」


 ははは、ご冗談を。西洋ファンタジーをベースとした世界観において、風呂に頻繁に入るというのは考証がデタラメにもほどがある。日本人の基準に合わせても、入浴は一日一回で、二回入ると目に見えて水道代が変化し、世のお母さん方が家計への影響を気にするところではないか。


 というか「湯殿」は確かに、ユニットの疲労度を回復するためには有効な施設なのだが、序盤には要らない。初期段階では迷宮は一階層、部屋と通路を合わせて8×8、64ブロックまでしか作れないのだ。これらを組み合わせて迷宮を作るのだが、湯殿は4×4ブロックを消費する。これに魔王の部屋、召喚部屋、参謀室などを足したら、敵を迎撃するための迷宮部分と、生活空間がほぼ等しくなってしまう。


「どうした、我は早く風呂に入りたいのだ。さっさと我に湯殿を作るようにお願いしろ。さあ早く」


 何もしないだけならまだ良いが、まさか、喋るようになるとこれほど何も考えていないとは。「魔王が無能」という設定は、魔王が喋らないうちは参謀が好き勝手できるだけのシステムだと思っていたが、実際に魔王が能動的に無能ぶりを発揮すると、何というか非常に厄介だ。


「閣下、美形だからといって、頭が空っぽで良いわけではありませんよ。私が教育してあげましょうか?」

「ふふふ、分かっているのだぞ。参謀と我はもはや、運命共同体というものなのだからな。我にお願いしますと言わなければ冒険者たちに蹂躙され、この迷宮は大変なことになり、我は……なんだったか、掘られるのだったか。そうなってほしくはあるまい!」

「うわぁ……魔王さま、とっても残念なことをすごく嬉しそうに言ってますよ?」

「今のうちに解雇されて他の主君を探した方が良いような気はしてきたけれど、これくらいの方が幹部になりやすくていいとも思うのよね。悩ましいところだわ……」

「悩ましい、というところで私を見るのはなぜでしょう……?」


 アムネシアさんは俺の質問には答えず、なぜか頬を染めている。


(もしかして百合百合しい感じの趣味を……? 魔王には興味を示してないみたいだもんな)


「ふぅ……いいわね。こういう魂を持っている人って、とても美味しそう……」

「あ、あの、私は参謀で、アムネシアさんは戦闘員ですから、食べないでくださいね。美味しくないですよ」

「ときどきアムネシアさんが、蛇さんの目になるんですよね。やっぱりラミアさんなんだなって。実は妖精の天敵だったりするんですよね。こわいこわいです」

「あら、こうして召喚されたからには餌だなんて思わないから安心して。それに私は、他の蛇女族と違って草食系なのよ。ときどき、丸呑みしたくなったりはするけれど」


(何をですか、と聞いてはいけないんだろうな……スリリングな会話だ)


 人間の姿をしている魔王さまにとっても、丸呑みなんてもっての外だろう――と思ってみるものの、何やら魔王はうんうんと頷いていた。


「それは奇遇だな。我もたまに、丸呑みしたくなることはある。冬眠していたからかもしれぬな」

「そ、そのビジュアルでそういうこと言うのはやめてください! アムネシアさんも舌なめずりしないでください、なまめかしい感じがします!」

「あら、ごめんなさい。そんなつもりはないのだけど、つい癖でそうしてしまうのよね」


 蛇みたいに舌が割れたりはしてないが、唇を舐める仕草が妙に色っぽい。

 彼女の下半身が蛇じゃなかったら、そして俺が男だったら、もしかしてフラグを立てられたかなあとか思ってしまう俺だった。いや、蛇でもいいじゃない、上半身は凄いことになってるわけだし。いやいや、そういう欲を満たすためにこの世界に召喚されたわけでもないし。が、生きている以上は欲求を捨てることは難しい。


 部下の好感度を上げるとイベントが発生し、部下から贈り物がもらえたり、場合によっては恋愛関係みたいな親密な関係になれたりしたものだ。俺もこの身体になってしまった以上は、女性同士、健やかな友情を育みたい。


「何だかこうしてると楽しいですね! スケルトンさんたちがさっきからずっと見てますけど!」

「ワームもうにょうにょとしているわね。この子たちの夜の用途については知っている? 凄いらしいわよ」

「え、えーと……そういう用途には使わない方向でお願いします。もっと適切な役目がありますから」


 大柄な男性よりもさらに大きく、全長3メートルに及び、胴回り1.5メートルの巨大なヤツメウナギ的な何か、それがワームである。頭部にあたる部分に目などはなく、円形の口の内周に沿うように牙のようなものが生えているが、それ自体は、今の段階のワームではダメージを与えられない。ワームの攻撃方法は特殊で、こいつは「罠モンスター」というやつなのだ。


 ワームの身体の半分は土に埋まっている。移動は土の中に潜って行い、攻撃は常に、敵の行動に対して受動的に行う――どういうことかは、近いうちに皆にも披露することになるだろう。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ