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06 初めての召喚・2

 魔物召喚部屋はけっこう広い。それなりの規模の学校の、体育館くらいの広さがある。地下迷宮だというのに天井もかなり高く、閉塞感は感じない。


 その中央に大、小の魔法陣がある。LLサイズの魔物を召喚するための「極大」もあるのだが、これは隠しであり、条件を満たさないと使えないので、魔王も多分存在を知らないだろう。コストが異常に高い専用部屋が必要にもなるし、計画的に狙っていかないとLLサイズの魔物は最後まで使えない。


「では、魔物を召喚する。魔界の扉を開き、我が前に来たれ、下僕たち!」


 魔王が手を広げて呪文を唱えると、魔法陣から光が立ち昇る――そして現れたのは、先ほど俺がオーダーした魔物たちだった。


 スケルトン、ハウンド、ワームは知能こそあるが、言葉は喋れないらしく、出現してからもその場で待機運動をしつつじっとしている。ピクシーとラミアはこちらにやってきて、ピクシーは魔王の前に飛んでいき、ラミアは俺の前にやってきて微笑んだ。


「魔界よりお呼びいただきありがとうございます。我らを尖兵として、存分にお使いください」

「ベテルギウスさま、お話は魔界の森にも届いています! 臆病な魔王さま、なんですよねっ!」

「む……なんと不敵な小妖精なのだ。我は臆病ではない、血を見るのが嫌いなだけだ」


 ベテルギウスはピクシーに煽られ、むっとして言い返す。それを見たラミアはくすっと笑った。その仕草があまりに艶っぽく、今は同性だというのに、俺は思わず見とれてしまう。


(ラミア……実際に見てみると凄いな。下半身が大蛇で、上半身は人間の女性で……)


 ラミアは下半身装備ができないが、上半身の装備は人間と同じものを身につけることができる。召喚されたばかりの初期装備は「布の服」だ。同じ「布の服」でも個人差はあるようで、ラミアのものは胸が大きく開いて、かなり大胆に肌を露わにしている。彼女も相当グラマラスなのに、それに対抗できるプロポーションを持つ俺はどうなのだろう。


「参謀殿、お名前を伺ってもよろしいですか?」



 ∽ 名前を入力してください ∽


・あなたの名前 「」



(そうか、最初に魔物を召喚したときに、初めて名乗るっていう感じだったな……)


 今の姿で男の時の名前を名乗るのは違和感がある。鏡を見たら顔が変わってなくて身体だけが女性化していた、なんてことは無いと思いたい。


 「魔王と参謀」の女性主人公には、デフォルトネームが幾つかある。俺はその中、「ミリエル・ランパード」という名前を選択していた。「クリス・トリスティア」という名前が一番人気があるそうだが、ある理由でその名前は避けたかった。スタッフが狙っていたのかどうかは知る由もない、あくまで偶然だと思いたい。


「ミリエル・ランパードです。よろしく、ラミアさん」

「私の名はアムネシアと申します。ラミアの名門、ソレイユ家の子女でございます。どうぞお見知りおきを」


 ラミアにも名門があるのか……しかし蛇女をリアルで見るとグロいかもしれないと思っていたが、意外にすぐ慣れてしまった。上半身の立ち居振る舞いは、まぎれもない淑女なのだから。

 彼女はウェーブのかかった長いブルネットの髪で片目を隠している。垂れた髪がちょうど両方のバストトップに重なっているのは、上半身の装備を外した時に見えないようにするためだろう。

 ラミアはお姉さんっぽいと言われていたが、垂れて常にとろんとした目が何とも色っぽい。ベテルギウス(女)は少女キャラ部門では頂点の可愛さだが、アムネシアさんはお姉さん部門では覇権を争うのではないかと思った。


「アムネシアさんは近接戦闘と魔法の両方が得意ですよね。私と魔王様の部隊に所属してもらい、もしもの時の戦力として働いてもらいます」

「かしこまりました。私は攻撃魔法と特殊魔法しか使えませんので、それは承知しておいていただければと」

「そこで私の出番ですね! 私、回復魔法だけは大得意ですから! あと、弓も使えますよ!」


 ピクシーは身体が小さいので声が通らないと思っているのか、常に全力で声を出している。近くにいる魔王は耳を押さえていた。


「むう。我がいれば、参謀のことは守れると思うのだがな」


(今まで速攻で降伏するつもりだった閣下が、どの口で……いや、それは言うまい)


 というかさっきから魔王を「閣下」と認識しているが、それは参謀の本能のようなものである。どれだけ魔王が適当なことを言っても、参謀は敬意を忘れないのだ。だから俺は営業スマイルを作って言った。


「念のためです。魔王さまは戦いがお嫌いとのこと。私にはまだ戦う力がないので、魔物の皆さんに守っていただかなくてはなりません」

「なるほど、そういうことでしたら、近接戦闘の備えも必要ですね。参謀殿、武器として、フレイルの類を手配していただけますか? 私が最も得意とする得物ですから」


 ラミアは下半身装備が出来ないので防御力は低めで、武器は彼女が言うとおり、フレイルなどの中程度の重量の武器を装備できる。器用貧乏とも言われるが、フレイル系武器はそのうち複数回攻撃が出来るものが登場するので、そうなると近接戦闘でかなり活躍できる。

 特化型ユニットを適材適所で使えれば効率はいいが、俺はバランス系ユニットも嫌いではない。色んな局面に投入出来ると、活躍しなくてレベルが上がらないということもないし。


「私は妖精専用の弓が欲しいです。それでないと、まち針の剣などしか使えませんので」


 ピクシーが使える弓は魔法の弓と呼ばれるもので、魔法力を消費するかわりに、手乗りサイズの大きさのピクシーでもスケルトンなどが装備する弓と同じ威力を出すことができる。魔法の弓なので、物理ダメージが通らない相手にも有効だったりして、いろいろ用途がある。


 まち針の剣は弱すぎて話にならないので、武器としては飾りである。毒針の剣であれば一発で敵を倒せることもあり、なかなか面白い武器なのだが。ピクシーは敵に隣接=だいたい死亡フラグなので、原則として弓を使わせるのが無難だ。


「武器などは魔界の商人を呼び、購入することができる。魔界の金貨一万枚が我が軍の資産ゆえ、好きに使うがよい」

「はっ、そのようにいたします」

「い、いちまんまい……いちまんまいって、どれくらいですか? すっごく多いですよね? そのうち百分の一を私にあげても、あんまり減りませんよね?」

「そ、それはだめですよピクシーさん。序盤の……いえ、現在の魔王軍にとっての金貨百枚は大きいですから。ピクシーさんが功績を上げたら、その時は報奨金をさしあげますが」

「ほ、ほうしょうきんっ……私欲しいです、ほうしょうきん! お金大好きです!」


 現金な妖精か……ゲームにもいたな、お金を上げると好感度が容易に上がるキャラが。手懐けるのは簡単だが、要求する金額が際限なく大きくなるので、お金で忠誠心を買うのはほどほどにしたいところだ。


「それよりピクシーさん、参謀殿に自己紹介はしたの?」

「はっ……す、すみません! 私、サクヤって言います! よろしくお願いします!」


 こういう和の響きがある名前も、魔王と参謀には普通に出てくる。サクヤは桃色の髪をポニーテールにしていて、サイズのわりには身体の凹凸がはっきりしている――この辺りは好みが分かれるところだろう。容姿が幼いなら体型もぺたんこであるべき、という意見は根強い。主に俺の中で。ロリ巨乳という言葉もあるが、たぶんサクヤはそれに該当すると思われる。


「参謀殿はミリエルさんって言うんですよね! ミリエルさん、お胸がとても大きくて温かそうなので、その中に入ってもいいですか! 羽休めをしないといけないんです!」

「っ……そ、それはちょっと……アムネシアさんにお願いしたら?」

「私は体温が低いから、参謀殿にお願いしてもいいかしら。サクヤちゃんもひんやりするのは嫌でしょう?」

「は、はい……私、寒いとすぐ風邪をひいちゃうので。蛇さんの体温だと、ひやっこいかもしれないです」


(な、なるほど……蛇は変温動物だからな。冷気属性にも弱いというし)


 上半身はまるきり人間で血色もいいので、つい普通(どう見ても普通ではないが)の人間のように考えてしまう。ちゃんとゲーム時代の攻略情報を生かさないと、切れる参謀デビューは不可能というものだ。

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