05 初めての召喚・1
これが夢かどうか、まだ分からないが。とりあえず、ゲームオーバーにはなりたくない。もし降伏したり、冒険者の侵入を許してしまったりしたら、どんな目に遭わされるか分かったものじゃない。
(もし、万が一、本当に異世界に召喚されたってことだったら、簡単には死ねないしな)
信じたくはないが、そう言ってばかりもいられない。後悔することはしたくないので、俺は参謀としてベストを尽くす。
そう決意して顔を上げると、少年魔王はなぜか自分も膝を突いていて、笑っていた。
「我の方こそ、そなたに傅かなければならぬところだ。我は人間に降伏すればそれで済むと思っておったが、どうやらそれは違うと教えてもらっただけでも、召喚した甲斐があったといえる」
「……魔王が、参謀の前で膝をついてはなりません。もっと、ふんぞり返っててもいいんですよ。魔王の仕事さえしてくれれば、私は文句は言いませんので」
「うむ、すべてそなたの言うとおりにしよう。よろしく頼むぞ」
全幅の信頼を置く少年の視線。それに対して俺は、何というか、耳の後ろがこそばゆいような、何とも言えない落ち着かなさを感じていた。
そして気が付くと俺は髪をかきあげていた。髪を触るのは、意識してる証拠とかなんとか、どこかで見たような――いや、んなわけない。俺はベテルギウス(女)は可愛いと思うが、ショタに興味はない。そんな趣味はひとかけらもナッシングなのだ。
しかし何度も思っているが、ベテルギウス(男)は、女性版と双子のように同じ顔をしている。だから、少し胸が高鳴ったりするのも仕方のないことだ。絶世の美少女と同じ顔なのだから。
「……ど、どうしたのだ? 我はじっと見られるのには、慣れていないのだが……まだ、長い眠りから覚めたばかりなのでな」
「い、いえ、何でもありません。魔王さま、早速、何体か魔物を召喚していただきたいのですが」
「うむ、良かろう。我が呼べる魔物であれば、どれを選んでも構わぬ。申してみよ」
参謀室にはマニュアルが用意されているのだろうが、それに目を通す必要はない。初期状態のベテルギウスが召喚出来るモンスターは5種類だ。
「スケルトンが三体、ハウンドが一体、ワームが二体、ピクシーが一体。それと、ラミアでお願いします」
「ふむ……承知した。我の召喚出来る魔物がその五体であると知っているとは。さすが、参謀として召喚されただけのことはある。我のはかり知れぬ知識を持っているようだな」
「はっ……身に余るお言葉でございます、閣下」
「謙遜することはない。魔力を2500マギウス消費するが、実行して良いか?」
∽ 魔物の召喚 ∽
・「スケルトン」魔力コスト100 ×3
・「ハウンド」魔力コスト200 ×1
・「ワーム」魔力コスト500 ×2
・「ピクシー」魔力コスト200 ×1
・「ラミア」魔力コスト800 ×1
総計 2500マギウス
弱い魔物を多く召喚し、物量で敵を叩き潰すことも序盤なら不可能ではない。しかし、それでは迷宮の拡張が疎かになるし、魔物は倒されてしまうと復活にも魔力コストが必要になる。
できるだけ魔力を節約して敵を撃退しないと、後でジリ貧になる。そのため、俺は最低限のメンツを選んだ。
魔物にはSとLのサイズがあって、Sサイズ4体、あるいはLサイズ2体がひとつの部隊の上限となる。俺と魔王もユニットなので、俺、魔王、ラミア、ピクシーが一つの部隊となる。あとはSサイズのスケルトン3体とハウンド、Lサイズのワームは1体ずつ別部隊という編成で、四つの部隊を編成する。
これこそが、俺の考え出した初回の冒険者の襲撃に対する最適解(に近い)だった。この編成であれば、迷宮の構成などを工夫することで、ノーダメージで冒険者を撃退することが出来るはずだ。
「よろしくお願いいたします、魔王さま」
「うむ。では、魔物を召喚する部屋に移動する。この魔法陣は、もう使えぬのでな。そなたを呼び出したことで、役目を終えてしまったようだ」
つまり、この魔法陣を通って、他の世界から人が召喚されることはない――ということか。
それは、俺も帰れないということになるが。そんなことは、今は考えても仕方がない。
最初の試練を乗り越え、ベテルギウスの望む平穏を手に入れたあと、それでも夢が覚めなかったら――もしくは、帰りたいと思っていたら考えればいい。
「どうしたのだ? この玄室はもう使用することはない。そなたが残しておきたいなら、残しておくが」
「あ……はい、そのままにしておいてください。魔力は節約しなければ」
「2500も残るのなら、問題はないと思うがな。部屋を消すには10マギウスしか消費せぬ」
迷宮のパーツは、作るときは一つ一つコストが決められているが、削除するときのコストは10マギウスで固定だ。しかし序盤では、10の差に泣くことだってあるだろう。
俺は魔王と共に部屋を後にする。ここが全ての始まりだったのだ、とそのうち思い出すこともあるかもしれないな、などと考えながら。