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04 魔力の源

 これ以上言うのは気が引ける。なにせベテルギウスは、俺が好きだったベテルギウス(女)とほぼ同じ顔をしているのである。あまり泣き顔は見たくはない。


「……わ、わかったよ。でも博愛主義っていうけど、一つ言っておくぞ」

「……その話し方は威圧的に感じる。もっと、女らしくせよ」

「くっ……」


(こ、こいつ……って、怒ってもしょうがないか)


 しかし、こうしていても全然夢が覚めない。覚めてしまえば、この苛立ちも何もかも、すべて笑い飛ばしてしまうのだろうが。

 覚めないうちはしょうがない。ちょっとくらい、見た目と声に相応の振る舞いをしても、俺の男としての大事な何かが失われたりはしないだろう。


「……こほん。魔王さま、一つ言っておきます。魔王軍が博愛主義を唱えても、人間たちは聞いてはくれません。魔王さまは降伏を望まれても、捕まった私と部下たちはどうなると思いますか?」

「そ、それは……人間たちも、我の心意気を汲んで、我に相応の地位を与え、魔物たちにもそれなりの待遇を……」

「んなわけねええ! ……じゃなかった、そんなわけありません! いいですか魔王さま、人間たちは私たちを、どんな扱いをしてもいい存在だと思ってるんです! 宝は全部奪われ、魔物は素材を剥ぎ取られて、私も魔王さまも人道的な扱いはしてもらえません! 家畜なみに扱われます!」

「か、家畜……牛や馬と同様の扱いを……そのような非道が許されるのか……っ」


 魔王はショックを受けているが、しかしそれは逆に、魔物が人間を捕らえたとき、支配した時にどうなるかということも示していた。というか、そちらのほうがもっと酷い扱いになるのは想像に難くない。


「……い、いいんですか? 私が捕まってしまって、人間たちにめちゃくちゃされても。そうされない保証がどこにありますか? 魔王さまだって、ミセスの方々の慰み者にされるかもしれないですよ。男色に興味のある人がいたら、確実に掘られますよ」

「くぅっ……よ、よくもそのような非道を次々と思いつく……は、破廉恥な女め!」

「破廉恥じゃありません! そういうものなんです! 戦争ってわりと悲惨なものなんですから!」


 俺も正直言って、戦争のある時代に生まれたわけじゃないから、自分で言ってても実感があるわけじゃない。

 が、迷宮への侵入者を捕らえて魔王軍に寝返らせることもあれば、こちらの魔物が捕まった後、敵に寝返って攻めてきたりしていたのは確かだ。鬼畜といえば鬼畜だが、「魔王と参謀」のそんな情け容赦ないところも魅力ではあった。


「……この世界は、我が思うよりも過酷だということか。血を、流さなければならないと」


 しかし、ベテルギウスがなぜ降伏したのか分かった今となっては、そこを無理強いするのも違う気がする。

 魔王の納得がいく手段で迷宮を守る。できればそうしたいと思っていたのだが――。


「……分かった。我が考えるべきは、まずこの迷宮の安寧。ここを無条件で人間たちに明け渡しても、人間が魔物に敵意を抱く以上は、我の望んでいるような解決は得られまい。そういうことなのだな」

「ま、魔王さま……やる気を出されたんですか? そんなにあっさり?」

「あ、あっさりとはなんだ。我は断腸の思いで、決断を下しているのだぞ。血を見るのが嫌いだというのは、一朝一夕で変わることではない。しかし、我がしもべたちが傷つくのも見たくはない。中庸の答えなどがないというのは分かっている。しかし我は、自分たちを導いてくれる存在を求めて召喚を行った。そうして現れた者がそうしろと言うのなら、我は従う。今まで、自分一人では答えなど見つからなかったのだから」


 ――自分一人で。


 そうだった、「魔王と参謀」というゲームは、魔王が参謀を召喚するところからスタートするのだ。

 魔王は迷宮を作り、魔物を召喚する力と戦闘力を持っていても、策略を立てることが出来ない。そういった呪いをかけられた存在であり、自分の意志で動くことを許されていない。


 唯一出来るのは、人間に降伏するという行動だけ。それは本来は戦況を見て、「詰んだ」と判断されたときに行われるシステム上の処理だった。

 それをベテルギウスは、自分の信じる平和的な解決のために使おうとした。平和的な解決というもの自体が、ありえないことだと知らなかったから。


(あの草原に剣と帽子が残ってる風景を知ってるのは、プレイヤーだけ……俺だけだ。そして、今の時点では、魔王軍はまだ負けてない。何もかも、始まったばかりなんだ)


 冒頭に起こるイベントはどんなだったか。俺は思い出しながら、何度も苦渋を舐めさせられた最初の難関のことを思い出す。


「……魔王さま。このままいくと、一週間以内に数人の冒険者が迷い込んできます」

「うむ……この迷宮の入口は深い森の中にあるが、外には魔物を放っていないため、冒険者が近くまで来ることは少なくないな」

「我が軍の魔物の被害は最小限……いえ、ゼロにします。魔王さまのお力で、まず兵力を整えてはいただけないでしょうか。こちらが軍備を整えて、万全の準備をしていれば、冒険者の一行は完封できます」


 今の俺は参謀らしいことを言っているな、と自分で思った。

 正直に言ってしまえば――俺は、すっかり乗り気になっていた。

 ゲームでは魔王は全く言うことをきかず、どれだけ頑張ってもクリア出来なかったが、目の前にいる魔王はちゃんと話を聞いてくれる。いきなり降伏さえしなければ、やりようは幾らでもあるのだ。


 俺の言うことに全て従うという言葉通り、魔王はふところに手を入れ、取り出したものを俺を差し出した。手のひらに載る程度の大きさの、ブローチ型の魔石――これが、魔王の魔力の源である「源珠」だ。見た目はアメジストに近く、魔力のたまり具合が一目で分かるように紋様が刻まれている。



 ∽ 源珠エナジー・ストーンの情報 ∽


形状:ブローチ

材質:パープルエナジスト

熟練度:0

残存魔力:5000マギウス

使用限界:3000マギウス/日



(見るだけで情報プロパティが開けるのか)


 源珠をじっと見ると、情報が浮かび上がって見えるようになる。これは便利だ……鑑定眼スキルがあれば、敵の冒険者の情報なども分かるわけだ。参謀は魔物の眼を借りられるという設定なので、早めにそういったスキルを持つ魔物を召喚してもらわなければ。


「それの管理は参謀であるそなたに任せる。我はいつでも、その源珠から魔力を引き出し、魔物の召喚などに使うことができる。魔力は迷宮を増築したり、色々なものを創造クリエイトするために使うことも可能だ。他に何が出来るかは、参謀室に置いてある本を読め」

「かしこまりました、魔王さま」


 俺は少年魔王の前に膝をつき、傅いた。それだけやる気を出してくれれば十分だ。

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