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15 侵入者

 そして、次の日の早朝。私がベッドから出て着替えている途中で、迷宮管理球が異常を知らせた。


 一番視界が広く、敵を探知することに長けた魔物『ハウンド』が、侵入者の一団を見つけ、知らせてきたのだ。外にいる魔物が見たり聞いたりして得た情報は、管理球で見ることができる。そのうちいつでも見られるスキルが身につけられるけど、それはもう少し先の話だ。


 私は参謀のジャケットに袖を通しながら、管理球に情報を渡すように念じる――すると、頭の中に侵入者のリストが送られてきた。


 最初のステージでは、見習い冒険者の一団がやってくるんだったはず。

 戦士、魔法使い、僧侶。そんなメンツを想像しながら、送られてきた情報に意識を向ける。


 ――でも、そんな職業の人間は一人も居なかった。



∽ 侵入者の情報 ∽


名前:サリバン 男 リーダー

レベル:3 職業:奴隷商人 戦闘力指数:13


名前:ウェイグ 男

レベル:5 職業:強盗 戦闘力指数:32


名前:ガズール 男

レベル:6 職業:処刑人 戦闘力指数:45


名前:ファナ 女

レベル:4 職業:医者 戦闘力指数:25


名前:アーシャ 女

レベル:1 職業:奴隷 戦闘力指数:5


名前:クロエ 女

レベル:3 職業:奴隷 戦闘力指数:22



 冒険者なんかじゃない。それは奴隷商人と、その仲間の犯罪者、そして彼らが連れた奴隷の一行だった。


(レベルが高い……最初のステージは、リーダーが2、他は1のはずなのに……!)


 ゲームのステージ1の敵とはあまりに違いすぎている。戦闘力指数が13のサリバンくらいの強さなら、魔物を複数ぶつければ倒せるが、ウェイグ、ガズールという敵は、今の戦力でまともにぶつかれば勝ち目がないほどの強さだった。


(こんな戦いを強いられるなんて……絶対に無理じゃないとはいえ、なんて馬鹿げた難易度なんだろう)


 魔王さまが降伏しなければ、私の戦略で勝ちに導く。そう思っていたが、いきなりステージ4くらいからスタートするような難易度では、一瞬だけ恐いと思ってしまう。


 そう、一瞬だけだ。注意しなければならないのは、強盗と処刑人。この二人さえ策を使って排除することができれば、あとはなんとかなる。

 『医者』は戦闘力指数こそ高く見えるが、レベル5になるまでは回復しかできない職業だ。『奴隷』は手枷を嵌められているため、実質的な戦闘力はない。



∽ 現在の状況 ∽


・《ハウンド》が侵入者を発見しました。《冷血のサリバン》率いる部隊です。魔王軍に対して敵性行動を取ります。

・《サリバン》がA地点を通過しました。B地点を通過するまで、残り五分です。

・《サリバン》の部隊が移動を停止しました。

・《ウェイグ》が《クロエ》に攻撃しました。

・《サリバン》が《クロエ》に攻撃しました。



「っ……!?」


 思わず、状況メッセージの内容を疑いたくなる。奴隷商人、そして強盗のふたりが、奴隷のうち一人を攻撃している……!



∽ 現在の状況 ∽


・《ガズール》が《クロエ》に攻撃しました。《クロエ》は瀕死状態に陥りました。

・《アーシャ》が気絶しました。

・《ファナ》が《アーシャ》に気付けをしました。

・《ファナ》が《クロエ》に応急手当をしました。



(一体何を……奴隷を連れて、何をしようというの? ここが魔王の迷宮のある森だということは、人間も知っているはずなのに)


 冷静になろうとしても、どうしても考えが暴走しそうになる。

 ハウンドが見ている敵の映像を、管理球に映し出すことはできる。それでも私は、一人でそうすることがとても恐ろしいことのように感じてならなかった。


 ゲームとは違う。この世界には、私には想像もよらなかった悪意が渦巻いている。


「参謀殿、何か外にいる子たちが騒がしいようだけど……人間が来たのかしら?」

「た、大変っ……ミリエルさんっ、迷宮の一番奥に魔王さまと一緒に隠れてください! 私たちが守りますから!」


 アムネシアさんとサクヤちゃんが参謀室に入ってくる。その後ろには、まだ少し眠そうな目をした魔王さまの姿もあった。今は少年の姿をして、服装も着替えている。


「……来てしまったのか。この魔王の迷宮がある森は、人間たちには『瘴気の森』と呼ばれているはず……だのに、人間の王国の連中はなぜ、こんなところに来ようと思うのだ」


 魔王さまの言葉には苛立ち――いや、失望が隠せない。できれば来てほしくなかったという気持ちが伝わってくる。


「参謀よ、外に居る魔物たちは無事なのか? 彼らがいたずらに傷つけられるようなことがあっては……」

「はい、今の配置なら問題ありません。しかし、侵入者は幾つかの地点を経過して、この迷宮の入口の近くまでやってきます。このまま進むことを許せば、確実に発見されると見ていいでしょう」

「……そうか」


 魔王さまは目を閉じる。ずっと人間と戦いたくないと言ってきた、私の知っているベテルギウスなら、戦うことを即断できるわけもない。

 それなら私は、最後の後押しをしなければいけないと思った。これから魔王さまが望まない、血を流すことになる。私は迷宮を守るためなら、どんな手段も厭うつもりはないのだから。


「人間にも、話が通じる人と、そうでない人がいます。私はこれから、外の光景をハウンドの視界を借りて、この管理球の力で映し出します。それを見て、私に命令を下してください」

「……分かった。我が決断せねばならないことは、分かっている。それでも、我は……」


 これから排除しようとしている侵入者たちが、何の思惑でここに来たのか。

 なぜ、連れている奴隷を傷つけるのか。

 ――魔王さまは私のように、最悪の想像をしたりはしないだろう。それほど心優しい主君であっても、残酷な現実が待っているとしても、知ってもらわなければならない。


「アムネシアさん、サクヤちゃん。ここから先を見るかは、二人が決めてください」

「……参謀殿、何か勘違いしているようだけど。私は人間が来たところで、何も怯えたりはしていないし、彼らが何者であっても関係なく、戦意を削がれたりはしないわ。誇り高き蛇女ラミア族の名にかけてね」

「わ、わたしも……大丈夫です。召喚された時から、覚悟はしてましたから……わたしは絶対に逃げません。わたしがいなかったら、みんなを回復する役がいなくなっちゃいますっ」


 アムネシアさんは揺るぎなく、サクヤちゃんは少し震えているように見えたけれど、その瞳には逃げないという強い意志があった。


 魔王さまは私に向けて頷く。それを許可とみなして、私は管理球を通して、外にいるハウンドの視界を呼び出す――すると、外で繰り広げられている光景が、ありのままに映しだされた。


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