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13 大鏡

※更新再開いたします。しばらくの間連続更新します。

 思いがけず初めての入浴が長引いてしまった。魔王様が同性同士でないと、一緒にお風呂に入るのは破廉恥だと考えていらっしゃったことで、思いがけないご褒美をいただいてしまった。


「参謀よ、何を上機嫌にしているのだ?」

「い、いえ……何でもありません。私はいつでも上機嫌ですよ」

「そうか? それならば良いのだがな。いつもそうであってくれると、我も嬉しい」


 ネレイドのネイさんが用意した布で身体を拭きながら、魔王さまが言う。背中まで届く銀色の髪は、無造作に拭いているだけなのに、すぐサラサラに乾いていく。


「魔王さま、髪を乾かすのに魔法を使っていらっしゃるのですか?」

「うむ、それくらいはな。日常生活で魔法を利用しない理由はない。我は髪を乾かさないと寝られないのだ」

「あ、あの……それはいいんですが、前は隠さなくてもいいんですか?」

「む……そ、そう意識された方が、我も恥ずかしい。参謀も、あまり隠しすぎぬ方が良いと思うのだがな」

「あ……だ、ダメです。私は、本当は裸を見せたくないほうなんです」


 しかし、外すときもアムネシアさんのお世話になってしまったが、ブラはつけるのも意外と難しい。

 この世界においては、ホックなんて気の利いたものはないので、背中に手を回して結ばないといけないのだ。


「……何をしているのだ?」

「あ……い、いえ。うまく結べなくて……」


 普段なら後ろ手に蝶々結びをするくらいはできるのだが、魔王さまと一緒だと思うと緊張してしまって、なかなかうまくいかない。それを見ていた魔王さまは微笑んで、俺の――いや、私の後ろに回った。


「じっとしているのだぞ……ふむ、そうか。参謀は胸が大きいから、ちゃんとこちらから寄せて入れなければならぬ。こうして……」

「あっ……あ、ありがとうございます……」


 くすぐったすぎてどうしようかと思う。魔王さまのしっとりした手が、胸をしっかりブラのカップに入れてくれた。

 一時的に女性になっているというわけじゃなくて、元々は女性として長く過ごしてたんじゃないか――彼女の手際は、そう感じさせるものがあった。


「うむ、これで良い。我が参謀たるもの、下着くらいは常にしっかり身につけておかなければな」

「ま、魔王さま……恥ずかしいので、あまり言わないでください。次からはひとりでできますから」

「ふふっ……そうか? アムネシアやサクヤに任せるくらいなら、我を頼ってもらってもいいのだぞ?」

「も、もう……普通は、魔王さまはそんなに部下を甘やかしたりしませんよ?」


 魔王さまと話していると不思議な気分になる。なぜ、彼女は私を召喚なんてしたんだろう。

 血を見るのが嫌いで、人間と戦うつもりもなかった彼女には、参謀なんて必要なかったはずなのに。


「……どうしたのだ? やはり一人で眠れぬということなら、このまま我の部屋に来ても構わぬぞ」

「い、いえ……それはどちらかというと、魔王さまのご希望ですよね?」

「ぐ、ぐぬぬ……出来るだけ自然に言ってみたのに。知恵者ならば、部下と親睦を深めたい気持ちを理解してほしいものだ」


 頬を赤くして拗ねるルーナ様を見ていると、そこまで生真面目にしなくてもいいのかな、と思ってしまう。


「……我をそちらの道に目覚めさせようとしていたのは、お主ではないか」

「っ……い、いえ、私は決してそんなことは……っ」

「そうかそうか、女同士よりも我が男である方が良いのだな。ならば今からでも……」

「で、できればそのままで居てください! 私が部屋に戻ってから男性に戻られてください!」

「何か言葉が変になっているようだが……我が男になるとそれほど不都合なのか。そうか、やはり女の姿で風呂に来たのは正解であったな。しかしこれから、どのように参謀との距離を縮めてゆけばよいのだ」


(俺が男に戻って、ベテルギウス様が女の子のままっていうのがベストなんだけど……)


 さすがにそう言ってしまえば、欲望が透けて見えてしまう。しかし魔王さまは男女で風呂に入ることはいけないと思っていても、俺に対しては親密になりたいという気持ちをお持ちのようだから、別に怒られはしないんじゃないかという気もする。


「むう……わからぬ。我を今夜寝かさぬつもりか、こんな命題を残すとは……」

「あっ……ま、魔王さま?」


 魔王さまは就寝用の薄衣を纏うと、上はノーブラのままで脱衣場から出て行ってしまう。型崩れなんてものとは縁がないのだろうが、同じ女として(?)ノーブラはかなり気になってしまう。あんな薄衣では、ぽっちりが浮かびあがってしまうし。


「今夜は一人で考える。参謀よ、あとで我に添い寝をしたいと言っても遅いぞ。もし夜中に一人寝が寂しくなっても、明日まで我慢せよ」

「は、はい……おやすみなさいませ、魔王さま」

「……うむ。おやすみ」


 魔王さまが部下にかける就寝の挨拶としては、親しみを感じる言葉を残して、ルーナ様は自分の部屋に戻っていった。


 一人になると、様子を見ていた人魚のネイさんがこちらにやってくる。


「本当に仲が良くて微笑ましいわね。ミリエルさんとルーナ様は、まるで姉妹みたい」

「そ、そうですか……?」

「ええ。あんなお優しい魔王さまだけど、守ってあげてね。私も、他の部下のみんなも、ミリエルさんを信じてるから」


 ――信じている。そう言われて、俺は改めて実感する。

 初日は何もなかったけど、いずれ迷宮には敵――人間がやってくる。その時、俺は非常に徹して戦わなくてはならない。


(ゲームと違って、魔王さまが勝手に降伏することはなくなった。あとは俺が、敵を撃退するだけだ)


 この迷宮にやってくる敵は、最初は小手調べのような連中でも、段々と手がつけられないほど強くなっていく。魔王軍を絶えず強化し続けなければ、物量、あるいは個人の実力で突破される。そうしたらルーナ様は捕まり、人間たちのもとに囚われてしまう――。


(私が捕まったとしても、ひどい目に遭うことは免れないような……い、いや。そうだ、自分の姿をまだ見てなかった)


 そう思い立って、自室に戻る。すると魔王さまに魔力で出してもらった鏡が置かれていた。


 さっきは自分の姿を見ることに緊張して、見られなかったけど……就寝着を着た自分がどんな姿をしているかくらいは見ておきたい。


 なぜここまで緊張するのか。男だった俺は、お世辞にも容姿が優れてるとかじゃなかったし、どちらかといえば平凡な方だった。


 そんな俺が、ゲームのチップキャラとはいえ、あの可愛らしい容姿のイメージのままに、美少女に変身していたら。自分がどう見られるかを知っておかなければ、いずれ大変なことになる。


 何より俺自身が、自分の姿を見たい。そんなことをしたら、完全に『私』になってしまいそうで怖いけど。


 人一人の姿を映すことができる大鏡。俺は胸に手を当てつつ、目を閉じてその正面に立つ――そして。


 目を開けると、そこには金色に近い髪色をした、見たこともないほどの美少女が映っていた。


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