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11 魂晶と性転晶

 洗い場にやってきた魔王さまは、風呂いすを念動力サイコキネシスで動かし、適切な位置に置いた。

 【サイコキネシス】は魔王さまが持っているスキルの中でも、お手軽に強力な効果を発揮できるので、ゲーム時代に特にお気に入りだった。実際に目の前で見せられ、少なからず興奮してしまう。これを戦闘において魔王さまは自分で行使することができず、参謀である俺の命令でしか使わないのである。


(生活に使う分には、スキルも便利に使うってことだな……人間との戦いだけ、制約があるのか)


 どちらにしても夢のある光景だ。もっと魔王さまのスキルを色々見せてもらいたい。


「む……どうした? そのように目を輝かせて。顔も赤くなっているようだが、のぼせそうなのか? それであれば、我も無理を強いることはせぬが……」

「あっ……い、いえ、大丈夫です。ちょっと長くお湯に浸かってましたけど、私、元から長風呂なので」

「ふむ……そうか。参謀にはこれから良く働いてもらわねばならぬからな。我の世話をせよと言ったが、魔王軍全体のことを考えるならば、我が参謀を労るべきだろうか」


 銀色の髪を撫で付けながら、少女魔王ベテルギウスは俺に優しい目を向ける。そして微笑むと、俺の後ろに回って、背伸びをして肩に手を置いてきた。


「ま、魔王さま、そこまでのお気遣いをなさらずとも、私は本当に……」

「……恥ずかしがることはない。我とそなたは召喚された時から一心同体なのだから」

「くぅ……っ、ま、魔王さま、そのように後ろで囁かれてはっ……あっ……!」



 ∽ インフォメーション ∽


・《ルーナ》は『白い布』の装備を解除した。



「ルーナ……?」


 思考に情報欄が割り込んできて、メッセージが表示される。そこには、今まで一度も見たこともない名前が記載されていた。


「我の真名を、どうやって知ったのだ……? 名乗る前に察したのか。参謀も侮れぬ力を持っているな……」


 そう囁く魔王さまの声が、ものすごく近い。透き通った音が耳朶に快く響き、耳も俺にとっては弱点のひとつ――性感帯なのだと、これ以上ない形で実感させられる。


(な、何かとてもエッチな感じに……い、いけない、女同士なのに……っ!)


「も、申し訳ありません、魔王さまはベテルギウスというお名前だとばかり……っ」

「それは魔王としての称号のようなものだ。我の女としての名前はルーナ……幼名でもあるので、下僕たちに呼ばせることは滅多にないのだがな。参謀にならば、許そう」

「ち、近いですルーナさまっ……あっ……!」


 その時、「ふにっ」と背中に何かが当たり、全身が痺れるような感覚を味わう。当たったものが何なのか直感しながらも、認めるわけにいかないと頭の中で警鐘が鳴りまくる。


(な、何だこれ……背中に何かあたってる。ふたつ、柔らかくて、コリコリしてる感じのがついてて……)


「ふぅっ……ん……なかなか刺激が強いものだな……男であるときには、意識しない感覚なのだが……」



 ∽ インフォメーション ∽


・《ルーナ》はあなたの弱点「肩甲骨」に触れた。あなたの興奮度が3上昇した。

・《ルーナ》はあなたの弱点「脇腹」に触れた。あなたの興奮度が6上昇した。

・《ルーナ》はささやいた。「参謀の肌はしっとりとして、我の指に吸い付くようだな……」



(や、やばいやばい……後ろから密着されてる。興奮度って、上がり過ぎるとやばい……っ!)


 元々は敵を挑発したりして興奮度を上げると、思考力が低下して注意力が散漫になり、罠にかかりやすくなったり、魔術を使わなくなったりという効果があるのだが、まさに今の自分がその状態だった。


 コリコリと背中にこすれているそれは、もう少しはっきり押し付けられたら、形がはっきり分かってしまう。しかし魔王さまは俺の背中や脇を触るだけで終わるつもりはないようで、その小さな手が、前の方にするりと回ってくる。


 ふにゅ、ふにゅっ。


(き、きたっ……一個ずつきた……左と右の、柔らかいのが……っ!)


「何をぼーっと立っているのだ……? 我が直々に背中を流してやろう。そこに座るがよい」

「わ、私はっ、さっきまでお風呂に浸かってまして、その前にちゃんと洗ってますからっ……!」


 二度も身体を洗うのはさすがにこすりすぎで、肌が赤くなってしまうかもしれない。いや、優しくしてもらえば大丈夫なのかもしれないけど、女性になった俺の肌は結構デリケートなようだし……。


 しかしその言い訳で逃れられるかと思ったが、魔王さまはまだ諦めてはくれなかった。それどころか――。


「……参謀を見ていると、不思議な気持ちになる。その長い黒髪を上げている後ろ姿など、とても魅力的に思える……なぜだろう。これも同性に対する親愛の一種なのだろうか……?」


 ふにゅふにゅっ、ぷにゅぷにゅ……。



 ∽ インフォメーション ∽


・《ルーナ》はあなたに密着している……。

・《ルーナ》の興奮度が上昇し始めた。

・《ルーナ》の身体が熱くなった。



(あ、あああ……さらに密着してる。ちょっと動いた拍子に、胸が……胸が、自由自在に……っ!)


 気のせいか、魔王さまの息が荒くなってきている気がする。背中の全面が敏感なのに、そこに彼女の控えめな膨らみが押し当てられ――まだ泡でもつけていた方がマシだ、肌と肌との直接の擦れあううちに、俺の身体からどんどん力が抜けていく……。


「そう……この、髪を上げたところの首筋。なぜ、こうも芸術的なのだ……口づけをしてもよいか?」

「よ、よくは、ない……んですけどっ……ひぁぁ……!」



 ∽ インフォメーション ∽


・《ルーナ》はあなたの弱点「首筋」に触れた。興奮度が8上昇した。

・あなたの意識が朦朧とし始めた。



(ま、魔王さまは、男のときより、女のときの方がエッチなのでは……?)


 男にもなれる魔王さまに好きなように触られている。しかし、今の魔王さまはゲーム時代にさんざん俺を魅了してくれた少女の姿なわけで。


 そんな彼女になら、身を任せてもいいという気分にさせられてしまう。いや、魔王さまにはそんなつもりはなくて、言葉通りに俺を労ってくれているのかもしれないが――。


 魔王さまは俺を椅子に座らせると、石鹸を泡立て始める。そこまでしてくれるのか……もう洗うのは二度目とかどうとか、気にするほどの理性もない。


「どうしたのだ……こんなに肌を紅潮させて。人間たちとの戦いを控えているというのに、こんなことでは良くないな……どうしたら、落ち着かせてあげられるのだ……?」

「わ、私は……触れられることが、少し苦手で……魔王さまのお背中をお流しするということでは、いけませんか……?」

「……そうか。部下と裸の付き合いをするというのも、魔王として必要なことだと考えたのだが……忠誠は、一日にして成らず。少しずつ深めていくのが筋かもしれぬな……わかった」


 説得すればちゃんと魔王さまは聞いてくれる。良かった……このままだとわけがわからないうちに、百合百合しい関係を築いてしまうところだった。


「では、そなたの言うとおり、我の身体を洗ってもらおう」

「は、はい。魔王さま、見ても……その、よろしいのですか?」

「男の時に見られるのはまだ早いが、女同士ならばよかろう……そうか。お主の性別を、一時的に男にしてやれば、男同士で入ることも出来るか。そういったことも視野に入れておこう」


 ――それを聞いた瞬間、俺の身体にまさに雷鳴のごとく、一つの閃きが生まれた。


「私の性別を、男性に変えることもできるのですか……!?」

「う、うむ……一時的にということであれば、可能ではある。参謀ほど博識であるのに、魔族としての基本的な知識が欠けているというのは、いささか疑問に思うのだが、教えてやろう」

「は、はいっ……教えてください! どうやったら、性別を変えられるんですか!?」


 俺は思わず、振り返ってルーナ様の肩に手を置き、至近距離に迫っていた。彼女は驚いて目を見開いていたが、少し頬を赤らめて目を逸らしつつも、ちゃんと答えてくれる。


「我ら魔族は、『魂晶ソウルストーン』に自らの魂魄を宿している。この肉体は、魔力を元にして構成したものであるからな。『性転晶トランジェンドストーン』を使うことで、肉体の性別を任意に変更することができる。基本の性別には変わりないがな」

 

 ということは、この世界の俺の本来の性別は女性ということか……しかしまだ、男の身体に戻ることさえできたら、かつて男だったことを忘れないでいられる気がする。


(待てよ……ということは、ルーナ様の本来の性別はどうなってるんだろう?)


「不躾なことをお伺いすることをお許しください。魔王様は、元々、どちら……なのですか?」

「我か? 我は……そうだな。少年の姿をとっていたのは、一時のことに過ぎぬからな。生まれたときの性という意味では、女であろうな」


 ――おお、神よ。

 というか今の俺は魔族だから、魔神、あるいは破壊神よ、と言うべきだろうか。


(もともと女の子なら、もともと男の俺にも脈があるかもしれない……!)


「な、何をそんなに喜んでおるのだ……顔を見ればわかるぞ。参謀にしては、らしくないのではないか? それほど目に見えてはしゃぐなどと」

「すみません、つい……とても嬉しいことがあったものですから」

「そうなのか? 何が嬉しいのか思い当たらぬが、まあ良い。我の世話をしてくれるのであろう? その言葉に、甘えさせてもらうぞ」


 そうだ、そんなことを言ってたんだった。魔王さまに洗ってもらうと、俺が耐えられそうにないからな。


 ――そう、俺が彼女を洗ってあげるわけで。


(……き、気づくの遅すぎだろ、俺……!)


 俺の目の前には、身体を隠していた白い布を外し、生まれたままの姿を見せている魔王さまがいる。さっきからずっとそうなのに、俺は性別が変えられることに関心が向きすぎて、見ることさえしていなかった。


 身長は俺より小さいのに、胸の大きさはさして変わらない――俺よりも張りがあって、その突端はツンと生意気に上を向いている。生意気というか、魔王さまなので誇り高く上を向いている、というべきだろうか。とにかく美乳で、お腹から腰にかけて絶妙にくびれている。お尻はキュッと上がっていて、太ももから足先にかけて、ため息が出そうなほどの美しい脚線を形成している。


 そして――彼女は、一糸まとわぬ姿なわけで。その部分は正面から見えないが、見えてもおかしくはないという状況自体が、同性であることを度外視して、俺の心を激しく揺さぶる。


(は、鼻血出そう……そうなったら、のぼせたって言い訳するしかないな)


「ふふっ……参謀は、そんな面白い顔をするのだな。見ていてあきない」

「も、申し訳ありません。閣下が、あまりにもお綺麗で……恐れ多いことながら、見とれてしまいました」

「っ……そ、そうか? 確かに我の身体は完璧であろうが、見とれるというのは言い過ぎではないのか。参謀の方が、よほど……」


 まさかベテルギウス(女)と、互いの身体を褒め合う日がこようとは。

 俺が男だったら、何としてでもモノにしたい。そんなことを本気で考えてしまう。だからこそ俺は、性別が変えられると知ったとき、心の底で嬉しいと感じていた。


 ――しかしこれから俺がさせていただくことは、俺が女性として召喚されたからこそ許される役得だ。


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