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第三章

 翌日。カメレオン亭からさほど離れていない場所に、商業都市の中でも一番古い歴史を有する居住区の一角に、アニエスとクローデットが衣食住を共にしているアパートメントの一室がある。

 部屋の中にいる人影は二つ。

「そう……、わざわざ、ありがとうね」

「いえいえ、貴方のご飯を持っていくようにと、頼まれた事をしたまでですから」

 ロジェは、そう言ってから、寝台から上体を起こしたクローデットから視線を外し、小型のテーブルを見つけて、そこに両手に持っていた病人食が載せられたお盆を置いた。再び、寝台の方に向き直り、気遣わしい声で、言う。

「起き上がれますか?」

 えぇ、大丈夫……、と掠れた声で言ったクローデットは、激しく咳きこんだ後、起き上がると、ふらつきつつも小型のテーブルへと歩みだす。ロジェは、椅子を引いてから、アニエスの姉に近付き、彼女の腰に手を回して支えながら、座らせた。

「ロジェ君は、いつも、こういう事をしているの?」

 自分を複雑そうな眼差しで見上げるクローデットの言葉に、意味が分からず、目を丸くする自分の様子に、

「……無自覚だったのね」

 と、呆れの混じる口調で女性が発した。

「どういう意味ですか?」

「ううん。何でもないわ。それよりもロジェ君も座ったら?」

 促され、ロジェも椅子に腰掛けたと同時に、クローデットは、食事の前に行われる祈りを捧げてから、食事を開始する。



 クローデットの食事が終わるまで、手持ち無沙汰になったロジェは、北の方角にある格子窓から差し込んでいる日差しを己の背中に受けながら、自分が今いる場所をぐるりと見渡す。

 室内は、寝台が二台と古びた小型のテーブルが一台などの数少ない調度品の殆どが年代物と感じさせられるものばかりでありながら、手入れが行き届き、長持ちさせている事が窺える。

 「あら? そんなにこの家が珍しいのかしら?」

 笑いを噛み殺した様子のクローデットが尋ねてきた。

「いえ、そういうわけではないのですけれど、お二人で住まわれているのですか?」

「あたしとアニエスだけなら、十分、住めるしね。それに、うちの弟の酒場も近いから便利なのよね……って、そういえば、アニエスは、酒場の中にいる?」

「いえ、買出しに行ってますよ」

「……そうなの」

 残念そうな口調で呟いたクローデットの様子に、疑問符を浮かべるロジェは、無意識の内に口を開き、どうしたんですか? と、言葉を発していた。

 一拍してから、

「この後、ロジェ君は、特に予定とかある?」

 と、訊かれ、特に予定がない事を率直に答える。

「一つ、君に頼みたい事があるんだけど、良い?」

 ロジェは、こくりと頷き、椅子に深く座り直してからクローデットの話を聞く姿勢を整えた。



 それから、クローデットの頼み事を承諾したロジェは、酒場の調理場に戻ってきていた。お盆を近くにあったテーブルに置いていると、裏口の扉が開き、現れたのは、アニエスであった。彼女は、左右に視線を巡らした後、あった、と小さな声で言い、小物などが置かれているテーブルに近付いていた。

「あれ? 意外に早かったですね」

 市場から酒場までの距離を考え、帰りが早い事に疑問符を浮かべながら、きょとんとしている自分の横を通り過ぎる彼女に、思わず声をかける。

「買出している途中で、財布を忘れた事に気付いたのよ」

 テーブルの前に着いたアニエスが手を伸ばし、財布を掴む姿を背中越しに見ていたロジェは、なるほど、と納得する。

「そういえば、貴方は南西地区の時計店がどこの何通りにあるのかを知っています?」

 振り返った彼女に怪訝な眼差しを向けられ、クローデットに頼まれた事の詳細を語った。

 懐中時計の修理を頼んでいた南西部地区にある時計店まで行き、受け取ってきてほしい、という内容であり、ロジェは安請け合いをしたまではよかったものの、南西部地区の時計店としか知らずに彼女達の家を出た為に、時計店がある大通りの名前を聞きそびれていた。また、未だに商業都市の地利に慣れておらず、ましてや、南西地区の方には一度も行った機会がなかった事から、せめて、目印となるものがあれば、と思っていた。

「……今日が受取日だったのを忘れていた」

 少し眉を上げながら独り言を口にしていた彼女は、すぐさま、顔を下に向け、口を閉ざしたのもつかの間、大きく息を吐き出した。

 顔を上げたアニエスと目があうと、

「南西通りの途中まで私も一緒に行くわ。そこからなら、ロジェ一人でも時計店までの道順は分かると思うし」

「はぁ……」

 目を瞬かせ、気の抜けた返事をしてしまう。彼女は、ロジェの様子に頓着せず、行くよ、と告げて、財布をしまうと酒場の裏口に近付き、耳障りな音を鳴らして扉を開ける。


 

 南東地区から南西地区へと繋ぐ往来は無く、一度、都市の中心部にあるメインストリートを抜け、南西地区の街路に入る必要があり、二人は、酒場を出てから、一言も喋らず、メインストリートに向かって歩いていた。

……こうして、自分で歩いていると確かに不便だよなぁ~。なんで、都市の規模拡張工事の際に、区画整理もきちんと行わなかったのだろう? まぁ、僕が気にしていても仕方が無い事か

 旧城壁の回廊で出会った老年の男性が語ってくれた話を思い返していたロジェは、もう一人の都市の説明をしてくれた人物である自分の前を歩いているアニエスの背中に目線を合わせる。

……彼女とこうして、歩いているのは都市案内された日以来だっけか……

そんな事を思ってしまう自分がいる事に、心の中で苦笑を強め、脳裏に過ぎったアニエスに対する複雑な感情を振り払おうと、軽く頭を振った。

 アニエスがメインストリートへと繋がる十字路に入った。

「ア……スさん!! ……ニエ……さん!? アニエスさーん」

 遠くの方から、一度目、二度目と誰かを呼んでいる切羽詰った声で叫んでいるのが街路に響き渡った。三度目になって、ようやく声が鮮明に聞き取れるようになり、それがアニエスの事を呼んでいるだと、知る。

 当人である彼女は、歩みを止め、訝しげな眼差しで周囲を見ていたら、右にある曲がり角を振り向いた瞬間、すぐさま瑠璃色の瞳を大きく見張り、凝視していた。

……何を見ているのだろう?

 と、アニエスがいる位置まで近付こうとすると、

 右の曲り角から全力疾走で現れたのは、身に覚えのあるリール人の男の子。

……この子は、確か……

 アニエスの背中越しに男の子を見下ろしていたロジェは、男の子の事を思い出そうと視線を宙に注ぐ。

「ジャン?」

 アニエスの眼前で、立ち止まったリール人の男の子の名を口にして、都市案内された日にいた子供達三人組の一人である事を理解した。

「たい……へん……」

 と、身をくの字にし、息を切らしているジャンは、顔を上げ、懇願の眼差しでロジェ達を見据えている。

 全力疾走した後の影響で汗で前髪の数本が額に張り付いている男の子の顔色は青ざめており、その様子から何かを察したアニエスは、一度、視線を左右に動してから、早口で尋ねる。

「リリーとフィルマンの姿が見当たらないけど、何があったの?」

「いつものように三人で遊んでいる途中で、リリーが酔っ払い連中とぶつかったんです。俺達は、その事を何度も謝ったりしたんだけど。それでも、あいつ等、許してくれなくて……しまいには、『怪我したから金をよこせ』とか『愚人の子供の癖に生意気だぞ』とか訳の分からない事を言ってきやがって……」

 と、喋っている内にその光景を思い出したようで、徐々にジャンの口調は憤りで熱気を帯び、身体が震わせながら、話を再開した。

「それで、俺達は、あいつ等の隙をみて、走り出したまでは良かったけれど、リリーが掴まり、殴られるのを阻止しようと、フィルマンがあいつ等とリリーの間に割って入ったんだ……。俺だけがこうして、おちおちと助けを呼び様に。そしたら、丁度アニエスさんを見かけたから」

 話を終えたジャンの肩に優しく手を置いたアニエス。

……悪酔い状態の人間なんかをまともに相手をしていたら、いくつ身体があっても身が持たないからねぇ~。厄介なことになりそうだな

 二人の会話から、不穏な空気を感じたロジェは、静観する事を早々に決め込んでいたが、

「……この右の曲がり角を進んでいけば、リリー達に会えるかも知れないのね。その酔っ払いの人達はどれくらい居た?」

「えーっと、三人ですね」

「三人ね……、分かったわ。ジャンは、そのまま、大人達を連れてきて。私はリリー達のところに向かうから」

 その言葉に、おいおい嘘だろう、という思いで、目を大きく見開いたロジェは、彼女の方に顔を向き、説得しようとする。

「ちょ、ちょっと、待ってください!? 貴方一人が如何こうできるとは思いません。ここは、素直にこの子と一緒に助けを呼びに行った方が……」

 アニエスは頭に巻いている布が揺らしながら振り向くと、

「確かにその通りよ。でもね? 今もこうして、リリー達が怖い目に晒され続けている事は変わりないのよ。だから、安心させるためにも行かなくちゃ……。ロジェは、ここで待っていて」

 断言した彼女は、右の曲がり角の道に移動し、遠ざかっていく姿に、頭を抱えたくなる気分に陥っていたロジェは、一拍の間、空を見上げていたが、ジャンが動き出す気配を感じ、声をかける。

「君は、どこに助けを呼ぼうとしているのです?」

「えっと、孤児院の方に」

「それなら、警邏隊の支部所に行ったほうが良いよ」

「えっ……でも」

 口ごもるジャンの姿に、まぁ、身寄りの無い子供相手に真剣に話を聞いてくれる大人があまり居ない事をリール人の男の子は、知っているんだな、と思案していたロジェは、

……確か、その酔っ払い連中は『愚人』がどうこうのって言っていたんだよな。この子の話では。 なら、昨日の祭術師制度に対する抗議活動の人達である可能性も捨てきれない

 という事が脳裏を掠め、一つの案が浮かび上がる。

「支所に着いたら、警邏隊の人達に『友達が昨日、北東部地区にいた抗議活動していた人々に絡まれている』と言えば、話を聞いてもらえる」

 真剣な表情で僕の話を聞いていたジャンは、こくり、と頷き、警邏隊の支所があるメインストリートの方へと駆け出す姿から視線を逸らしたロジェは、彼女が去った方向を見やる。

……あの子が大人たちに助けを呼びに言った事だし、僕はゆっくりと待つとするかな

「……」

 十秒過ぎ、落ち着かない様子で右耳の上を撫でていた。

 二十秒が立ち、頭を乱暴に掻きはじめる。

 三十秒経過、地団駄を踏んでから、苛立たしげに大きく息を吐き出す。

「少し、様子を見るだけ」

 と、己に言い聞かせ、ロジェは右の曲がり角の路地へと地面を小気味よく蹴り出した。


 ジャンが言っていた大人達に絡まれた現場には、アニエスたちの姿が無い事を確認したロジェは、走りながら、横道に繋がる路地などを隈なく探していた。

……どこにいるんだよ!?

 焦燥感に包まれていたが故に、左横にあった細道を見逃して通り過ぎた時、

「お姉ちゃん、大丈夫!?」

 甲高い悲鳴。

 聞き覚えのある声を耳にし、急に制動をかけた事から、転びかけそうにながらも足を止めたロジェは、向き直ると細道まで戻り、確かこの辺りから聞こえてきたような……、と呟きながら、奥の方に入っていく。

 足早に進むに連れて、幾人かの声が鮮明に聞こえると、その中に彼女の声音が混じっている事に気がつき、一つ目の角を曲がると、建物の壁に背を向けているアニエス達を囲んでいる大人三人。

……うん。やっぱり、あの集団の中にいた身に覚えのある顔がいるな

 酔っ払い三人の横顔を見て、そう思った。

 ようやく、発見した事に対する安堵の息を吐き出したのも束の間、子供達を背後に置き、酔っ払い達の前で身構えているアニエスの片頬が少し腫上がっており、唇の端からは血が滴り落ちているのを目にしたロジェは、

……殴られたのか

 と、強く噛み締め、アニエス達の方へ全速力で駆け出す。

 距離的に近かった酔っ払い一人が気配を感じ、振り返ったのと同じ瞬間に、酔っ払いの胸元目掛け、ロジェは半身の状態で飛び掛る。

 体勢を崩し、後ろ向きに倒れる酔っ払いを唖然とした表情を浮かべ、見ていた二番目に近い酔っ払いは、仲間を支えようとする動作を行おうとするも足が滑り、逆に巻き込まれる。

 鈍く重たい音と共に地面が振動した。

「「えっ!?」」

 そこで、アニエス達は、ロジェの存在に驚きの声を上げていた。

 ロジェの下敷きになっている酔っ払い二人のお陰で衝撃が緩和され、すんなりと立ち上がった横に、呆然と自分を見下ろしていたアニエスから疑問が発せられる。

「どうして」

「それより、子供達を……」

 促してから、肩を震わせて立ち尽くしている酔っ払い三人目の方に身体の向きを変えたロジェは倒れている酔っ払い二人を跨ぎ終えて、対峙する。

 背後に自分が来た道の方へと去っていく複数の足音が聞こえ、酔っ払いは我に返り、口を開く。

「テメェ、何しやがるんだ!?」

 それから、酔っ払いに自分の知っている限りの罵詈雑言を浴びせられ、

……よく、これだけのスラングが使えるよなぁ~。まぁ、それはいいとして、この男からアニエス達から注意を逸らないとな

「宜しいんですか? こんな所で騒ぎを起こしてしまっても……。もうすぐ警邏隊が駆けつけて来ますし、そうなってしまえば、昨日の抗議活動していた所の話では済まされませんよ」

「テメェに何が分かるっていうんだ。愚人と蔑まれる俺達の気持ちを……」

 目を吊り上げ、胸の裡にあった感情を全て吐き出して叫ぶ男性に対し、冷静な面持ちで祭術師を目指す者として、理解しきれない想いを口にしていく。

「分かりたくもありませんよ。……そんな気持ち。それに、そんなに蔑まれたくなければ、認可されている祭術体系を扱えば良いだけの事じゃないですか」

 話している途中で、目の前にいる男性が目を大きく見開きながら嘲りの笑みを深めて、一瞬の間だけ、自分から目を外し、別の方向を見ていた。

……???

 ロジェは訝しげな表情を浮かべ、彼が見ていた先を振り向こうとした矢先、しきりに鼻で嗤う音が聞こえ、すぐさま嫌味ったらしい口調で大げさな身振り手振りを加え、喋った。

「ふん……テメェに分からないだろうよ。祭術に関わった事のない人間なんかにはなぁ!?」

「それって、どういう意味ですか……」


 聞き捨てならない物言いに、思わず視線を彼に戻し、問おうとする自分の後頭部に衝撃が奔った。


 前によろめき、四つん這いの姿勢になったロジェは、何事かと肩越しに後ろを振り返ると、翡翠の瞳を血走らせ、自分を見下ろしていたのは、気絶していた酔っ払いの片割れであった。

「このオレに何てことしやがるんだ。……まぁいいさ、これからお仕置きタイムと行こうじゃないか? なぁ」

 と、言った背後にいる酔っ払いの声が自分の耳に届いた途端、地面についていた両手が浮く感覚と同時に左横腹に激痛を伴って、建物の壁に背中から衝突する。

「……ッ」

 身体中を駆け巡る酸素を全て吐き出したロジェは、背中と横腹から来る激痛に顔を顰めて、喘いでいた。

 横たわっている姿を愉快そうな顔で見つめている酔っ払い達は、気絶している仲間の方に視線を移動する。

「そろそろ、あいつを起こした方がいいんじゃないか?」

「オレはコイツにやられた後頭部の痛みの代償を存分に味あわせてからでも、遅くないさ」

「お前もほんとにこういう事好きだよなぁ」

「そうでもないさ」

 一しきりに嗤い転げた後で、目の前にいる大人達に思い思いの暴行を加えられる。

 両腕で顔を覆い、二分の暴力を耐え続けていたロジェではあったものの、徐々に意識が薄らぎ、気を失う。


 

 身体を抱き起こされる感覚に意識を取り戻し、混濁している思考の中で、ロジェは、暴行が止んでいる、という疑問符を胸に秘めたまま、軽く身動ぎしながら少しずつ目を開けはじめる。

「ようやくお目覚めね」

 と、膝を手に当て、上半身を折り曲げた姿勢で自分の顔を見ているアニエスの表情が間近にあり、眉を八の字の形にさせながらも何時も通りの声音で呟いていた。

「あれ? あの酔っ払い達は……?」

「警邏隊が駆けつけたのを見て、血相を変えて逃げていったわよ」

 そうですか、と客観的に言葉にしていた自分を見つめる彼女の視線は、何時に無く厳しいような気がし、その事を問おうとする前に、

「アンタが起きないから、お姉ちゃんやフィルマン達が心配してたじゃないの」

 と、彼女の肩越しから覗き込んできたのは、目元を赤く腫らしているリリーだった。

 アニエスは、子供達の為に位置を譲ろうとし、横に移動する。目の前にやってきた三人組。

「あれ? リリーちゃんもかなり心配そうにしてなかったけ」

 金髪の少女の横にいたフィルマンにそう言われた瞬間に、

「うっ、うっさいわね」

 声を荒げ、頬を紅潮させたリリーは、フィルマンの方に向き直り、突然、彼の両頬を掴みかかり、思いっきり引き伸ばしながら上下左右に動かす。

「ふふっ……、生意気な口は、あたしがこうしてあげる」

「リリーひゃん、あええおー」

 二人のやり取りを楽しそうに見守っていたジャンは、ひとしきりに満足した様子でこちらに顔を動かして、感謝の言葉を述べる。

「お兄さん、起き上がるのを手伝います」

「僕は、大丈夫だから」

 と言ってから、後ろの壁を支えにしながら、両腕に力を込めて立ち上がろうとした瞬間。

「……ッ!?」

 自分が予想していた以上の痛みが身体中を巡り、バランスを崩し、先ほどと同じ姿勢で座り込んでしまう。ロジェは、俯いて、両手を握ったり、開いたりの動作を繰り返し、ぼんやりと見つめる。

……参ったなぁ~。これじゃ、暫くの間は祭術が出来ないかもしれないな

 そんな事を考えていた。

「もう、何やっているのよ。……ジャンの言葉に甘えてみたら? 今の君ではまともに起き上がるのもきついんでしょう」

 アニエスは、言った。

「確かに貴方の言う通りかもしれませんね。お願いしていいですか」

 顔を上げ、アニエスからジャンへ視線を移したロジェは、告げた。

 首肯したジャンは建物の壁に背中を預けていたロジェの横に片膝立ちで僕の片腕を己の肩に回している最中、

「リリー。そろそろ気が済んだだろ? フィルマン。こっちを手伝ってくれ」

それもそうね、と簡潔に言ったリリーは、フィルマンを解放する。

「もう、ひどいじゃないか~」

 涙目で赤味を増した頬を擦っている男の子は、恨みがましい眼差しを金髪の少女にぶつけていたが、リリーは意に返した様子も無く、白々しく口笛を吹いている。フィルマンは、溜息をついた後、親友の言葉に従って、ロジェの傍らに移動し、ジャン同様の動きを行う。

 前方を見据えていると、金髪の女の子が時折、こちらを伺いながら、何やらアニエスと話しこんでおり、彼女に頭を撫でられ、嬉しそうにしていたり、と、多彩な変化を魅せるリリーの表情からアニエスの方に視線を移し、そこで、目を見張り、息を呑む。

……彼女もあんな表情をするんだな

 リリーと会話しているアニエスに向ける眼差し、顔の動きは、ロジェにとって数日間にも満たないものの、一緒に生活していた中で初めて見た類のものであった。

……なん……なんだ? この感覚は?

 彼女から視線を背けられずにいた所に、ロジェさん行きますよ、というジャンの声で、我に返ったロジェは、二人に支えてもらいながら、なんとか起き上がった。

 ロジェは、ジャンとフィルマンの顔を交互に見てから、感謝の言葉を紡ぐ。

「そ、そんな……俺達の方こそ、お兄さんにご迷惑をかけてしまった挙句、怪我まで負わせてしまって」

……ん?

 リール人の男の子の口調が次第に翳りを帯び始めた事に感付いたロジェは、思わず彼らの肩に置いてある腕を外し、数歩先まで進みつつ、ロジェは両腕を思う存分に振り回しながら振り返ると、

「君達が無事だった訳だし……。僕の方もほら、この通り」 

 笑顔を作って言った。

安堵の息をついていたジャンとフィルマン。

 顔を横に向けたロジェは、なにやってんだろ……、と柄にも無い事をやっている自分自身に対する感想を抱き、その事から振り払おうと頭を軽く左右に振る途中で、こっちの方を凝視しているリリーの瞳とぶつかりあう。

 目が合った瞬間。金髪の女の子は、俊敏な動作で顔を背ける。その様子を目にしていたアニエスが女の子の肩にそっと手を置き、

「さっき、私に言ってくれた言葉のままで大丈夫よ」

 と、言葉にしていた。リリーは、そんな彼女を見上げて首を縦に振り、深呼吸した女の子は、眉間に皺を寄せつつ僕を見据えると、

「あっ……その……さっきは、助けてくれてありがとう」

 口篭りながらも感謝の言葉を述べ切ったリリーは、満足そうに小鼻を膨らませ、ジャン達の元に走り出し、騒ぎ出し始める。

……参った

「なんだか知らないけれど、辛気臭い顔しているわね」

 呆然としていた所に自分の横に並んだアニエスに言われてしまい、自分の顔を指差してから、そんな顔を僕がしてました? と訊いてみると、頷かれる。

「別にそんなつもりは無かったのですが」

 ロジェを横目で見たアニエスは、まぁ……良いけどね、と一言囁いた後、俯く。

 アニエスの反応に不思議そうな眼差しを向けていたロジェは、そこで彼女の頬が先ほど見た時より、腫上がっているのを察し、その事を言葉にしていた。

 彼女は、己の頬を指差しながら、

「あぁ……これのこと? これぐらいなら一晩冷やせば治まると思うから平気よ。それより、ロジェの方こそ、本当に身体は大丈夫なの?」

「痛みはそう簡単に引いてくれませんが歩く分には問題ないですよ」

「ふぅん。それなら良かった。変に怪我でもされたら寝覚めが悪くなるもの」

 素っ気ない物言いではあったものの、今までの彼女の言動が脳裏を過ぎったロジェは、子供達がアニエスを慕う理由の一端を垣間見た気がし、なるほど、と得心していた。

「じゃあ、ねえさんの用事は、君の方でなんとかするのね」

 こくり、と頷いた僕を見たアニエスは、視線を子供達に向け、各々の名前を口にしてから、呼び寄せる。

「そろそろ私達は行くけど、あまり遅くならない内に帰るのよ?」

「「はーい」」

 元気良く返事したリリー達。

 この場を立ち去ったロジェとアニエスは、メインストリートの途中で、互いの用事を済ませる為、二手に別れた。



北西地区の大通りから、アニエスが教えてくれた道順どおりに閑散としている路地を歩いていたロジェは、ようやく目的地に辿りついていた。

……昼時だというのに、あまり人の姿を見かけないな……

 そんな感想を抱きながら、時計店の扉の取っ手を手前に引いて店の奥へと足を踏み入れる。

 店内に所狭しと飾られている多種多様の時計。

 だが、針が動作していない物ばかりが目に付いていた所に、独特なリズムを刻み、奏でる音色が微かに聞こえる。

 ロジェは、狭い店内の中で、顔を動かして音がした場所を探しながら移動していると停止している時計に埋もれる形で、針が動いている幾つもの時計を発見し、立ち止まる。

「いらっしゃい。何かお探しているのかい?」

 渋い声がした方向に、ロジェは身体の向きを変えると、そこにいたのは、奥の部屋が今しがた出てきた年老いた男性であり、自分の身なりをおのれの視界に捉えた瞬間、唖然とした表情になっていた。

「貴方は、時計店の主人ですか?」

「えぇ……そうですが」

 警戒している主人に苦笑をこぼしながら近付いて、皮製のズボンのポケットから一枚の羊皮紙とお金を取り出し、これを、と手渡す。

「なんだ。嬢ちゃんの知り合いか?」

 目を丸くしていた主人に尋ねられる。

 嬢ちゃん、と誰の事を指している人称なのかがすぐには理解が追いついていないロジェは、考え込んで視線を落とす。

……あぁ、そうか。あの人の事か

 その先に主人の手にある羊皮紙に目がいくと、嬢ちゃん、と言われている人物がクローデットの事であると合点がいき、都市案内の時に、アニエスがリリー達に自分の事を説明していた時に使った話を用いて、肯定の言葉を放った。

「なるほど。まぁ……嬢ちゃんらしいと言えばらしいかもな」

 含み笑いをしている主人に尋ねる。

「彼女と知り合いなのですか?」

「まぁな。ワシは嬢ちゃんの親父と昔なじみでな。だから、嬢ちゃんがこんなに小さかった時から、知っていたりするからの」

 主人は掌を水平にして、クローデットの幼少期の身長を表わしつつ、

「嬢ちゃんが久方振りにこの都市に戻って来た時は、驚いたもんだ。昔はやんちゃしていた女の子があんなにも美人になってなぁ~。あぁ、そういえば、あんな事もあったっけ」

「はぁ……、そうですか」

 饒舌に昔話を語り始める時計店の主に、どう対応していいものかが分からず、結局、ロジェは、静かに話を聞く事となった。


 十数分経過。

「……という事があったりしたもんだ」

ロジェは疲れを帯びた声音で、告げる。

「あの、そろそろ……品物の方をお願いしたいのですが」

「あぁ、そうだったな。ちょっと待ってな」

 と言ってから時計店の主は、奥の部屋に入っていく。

 すぐに戻ってきた主人の左腕には、白い布に包まれている品物が大事そうに抱えられており、ロジェがいる位置まで来ると近くにあったテーブルに品物を静かに置くと、二つ折りの白い布を外し、現れたのは所々に鍍金が剥がれている懐中時計の中を開ける。

「これが修理を頼まれていた品物だよ。時計がきちんと動いているかの最終確認をしたら、この書類にサインを」

 そして、もう片方の手に握られていた書類と万年筆も懐中時計同様に、テーブルの上に置いて、言った。ロジェは、分かりました、と頷き、テーブルに寄り、懐中時計を見下ろす。

 秒針は正常に動作しているのを確認したロジェの瞳は、蓋の裏に張り付けてある切り取られた写真の方に、目線が動いていた。

 写真に映っているのは、椅子に腰掛け、両手を膝に乗せているクローデットと寄り添うように立っているカルカソンヌ人の男性。

 昔に撮影された事が判断しやすい位に、クローデットは、今よりもあどけなさが色濃く残る顔立ちをしており、その姿を見ていたロジェは、あれ? と不思議に感じ、目を細めること、数秒。

……あぁ、そうか。わらっていないんだ……

 その理由が見当もつかなかったものの、常に朗らかな印象を与えるクローデットの表情がこの時ばかりは、笑みが消えていた事を知る。

「どうしたんだい?」

 そう尋ねられ、ハッとなり、慌てて懐中時計から視線を逸らしたロジェは、慌てて万年筆を手に取り、書類にサインする。

 よし、と声を上げた書類を確認した主人は、再度、懐中時計を布に包み込み、手渡された。

「それじゃあ、くれぐれも壊さないように嬢ちゃんに渡しといてくれよ……そういえば、あの子は元気にしてるかね?」

「あの子ですか?」

 冗談交じりに喋っていた主人の唐突な質問の意味が理解しきれずに、聞き返してしまう。

「ほら、嬢ちゃんの所に住んでいるカルカソンヌ人の少女がいるだろう」

 あぁ、いますね、と言ったロジェは、アニエスの事だと把握するも、ふと、あれ? と小首を傾げ、時計店の主が発した言葉に引っ掛かりを覚える。

………彼女とは知り合いではないのかな? 確かに年齢差が開いている姉妹ではあったから、知らない可能性も十二分にはあるけれど。しかし、姉妹なんだから、何かしら知っていても可笑しくはないと思うのだよな

 ロジェの頭の中で、様々な推測が駆け巡り、堂々巡りの思考が作り上げられ、このままでは埒が明かない、と思い、戸惑い気味に疑問を発する。

「元気にしていますが、その前に一つだけだけ良いですか。彼女に会った事があまりないのですか?」

「そうだなー。あの子と初めて会ったのは、嬢ちゃんがこの都市に戻ってきた一年前ぐらいに連れられた時だから、二、三回くらいだと思うが……」

 空中に視線を傾けつつ、顎に手を当てながら時計店の主人は、思い返しながら、言葉にしていた。

「連れられてきたって事は、昔から姉妹二人だけで生活していたんですね」

「何を言っているんだ? 君は。あの子と嬢ちゃんには、血の繋がりなんてないぞ。しかし、嬢ちゃんも本当によく、引き取る決意をしたもんだ」

 と、感心した口調で話した男性。

「そうだったんですか……」

 ロジェは、右耳の上を擦りながら、心ここにあらずといった調子で言った。

 自分の中に、どうしてだろう、という疑念が芽生えるのを自覚したロジェは、あの人に訊いてみよう、と考えることにして、それじゃあ、僕はそろそろ行きます、と時計店の主人にそう告げ、店を後にする。



 アニエス達が住むアパートメントの部屋の前に到着したロジェは、蝶番を掴み、木製の扉を一回、二回と叩き始める。

 しばらくしてから、どちらさま? とクローデットが扉越しに訊ねてきた。

「ロジェです」

 扉が外側に開き始め、肩に布を掛けて厚着しているクローデットの姿があった。

「どうぞ……って、どうしたの!? その痣は。喧嘩でもしたの? とりあえず、中に入って、手当てしてあげるから」

 クローデットは、言葉の途中で自分の顔にある殴られた跡に気づき、目を見開き、声を発すると、僕の片腕を掴み、部屋の中へと招き入れる。

 ロジェを椅子に座らせ、持ってきていた水を張った桶をテーブルに置き、二枚の布切れを入れ、浸してから絞り終え、一枚の布切れを握らされる。

 ロジェは彼女の指示に従い、水で濡らした布を顔にそっと当てていた。

「とりあえず、これで痣の部分を冷やしといてね。それと、あたしの方に身体の向きを変えてくれる? そうそう」

 横座りになると、自分の目の前で屈んで膝を曲げたクローデットが僕の腕や足の傷口周辺にある泥をもう一枚の布切れで拭かれていき、されるがままに身を任せていた。

 処置が終えた頃合を見計らって、

「それと遅くなってしまいましたが、これが頼まれていた品物です」

 懐中時計を受け取ったクローデットは目を伏せ、布越しに懐中時計を愛おしそうに抱きしめる。

「ロジェ君。ありがとう」

 と、言った。

……そんなに大事な時計なんだ

 感慨深げに思ったままの言葉を彼女に投げかける。

 クローデットはゆっくり布を外して、現われた懐中時計を遠い目で見つめ、蓋の部分を指先で触りながら自嘲めいた笑みを零す。

「まぁね……。唯一、あたしと夫が並んで撮った写真がこれに入っているし、それに夫の形見でもあるの」

 予想だにしていなかった反応に目を見張り、言葉を失っていた所にクローデットと目が合うと、彼女は目を細めて、そんな顔しないの、と諭す口調で言われてしまい、首肯するしかなかった。

 立ち上がり、椅子の方に移動しているクローデットを見ていたロジェは、そろそろ良いかな、と思い、時計店の主人のある言葉を聞いた時から胸に秘め続けていた不可解な思いを言葉にする前に、主人とクローデットの関係についての話を切り出す。

「……おじさんからあたしの子供の頃の話とか聞いたりしていないわよね」

 椅子に腰掛け、話を聞き終えたクローデットから念押しされたロジェは、勢いよく首を左右に振ってから甲高い声音で否定の言葉を発した。

「それなら良いわ」

……色々とやんちゃしていた話を聞いた事を本人を目の前にして言えるわけがない

 頬を掻きつつ、そんな事を思っていたロジェは、呼吸を整えてから本題に入ろうと口を開く。

「彼女を引き取ったそうですね」

「彼女って、アニエスの事よね。……それも、おじさんから聞いたの?」

 自分が頷いてみせると、クローデットは困ったような表情を一瞬だけ浮かべた後、懐中時計をテーブルの上にあまり音をたてずに置く。

「赤の他人でもあるアニエスをどうして引き取ったのか、とそんな所かしら」

 と、頬杖をつき、真っ直ぐ僕を見据えるクローデットに自分が尋ねようとする前にそう言われてしまい、内心を見透かされている気分になりつつも、はい、とおっかなびっくりに言う。

「色々な人達に訊かれたりしていたから、予測がついていただけでそんなに怖がらなくて良いわ。ロジェ君みたいに驚いたりしてる人達が大勢いたからね。まぁ……、レイモンなんかはあたしの行動に諦められていたりしてたけど。そうそう、引き取った理由だったわよね。んー、あたしには、あの子をほっとけなかったのよね。単純にそれだけの事」

「ほっとけなかった……ですか」

「うん。身寄りが無かったあの子が前にいた環境は、誰もが彼女を避けたりして、味方となってくれる者が誰一人としていない……とても孤独なものだったの。それがあたしの思い込みだったとしても、現に苛められている所に幾度もあたしは目にしてるし、ずっと一人で耐え続けているアニエスを見ていたら、いてもたってもいられなかったの」

「だから連れて来た、と」

 そういうことになるわね、と淡々と言葉にしていたクローデットの顔からは、幾多の感情が見え隠れしている風に映っているロジェの胸中にあったのは、

……そこまで、他人の為に行動できるものなのかが僕には解らないや

 というものであり、その後もロジェが眠りにつくまでその想いが頭の片隅を支配し続けていた。


 

 空には夕焼け雲が広がり、都市の陰影を鮮やかな赤色に色濃く染め上げている。

 祭術の練習を終え、身体が軋む感覚に囚われながら、メインストリートから南東地区を移動していたロジェの視界に入ったのは、数十メートル先にいるリール人達が立ち止まって何かを見ている姿であった。

……こんな所で人だかりが出来ているなんて珍しいな……って、あれは祭術じゃないのか!? 

 自分が彼らの表情が判別できる距離まで近付いた事で彼らが見ていたものの正体に気づき、心の中で驚きの声を上げてしまう。

 そして、祭術を扱っているのは、リール人の特徴を有する壮年の男性。

 『この商業都市では、無許可で行う祭術を披露する事が禁止されている』というアニエスの言葉を思い出し、そのまま通り過ぎようとする傍ら、ロジェの胸の内には、この人が扱う祭術ってどんなものだろうか、という好奇心が渦巻いており、しばしの間、葛藤が続いていた。

 だが結局、好奇心の方が強く、少しだけ、という思いと共に、歩く速度を落とし、ロジェの赤い瞳に映ったのは、祭術を扱う男性の動と静の異なる二つの身体の使い方。

 動の時は、彼の表情から激情が迸るのが傍目から見て取りやすく、猛々しく動き回り、時には雄叫びを上げる。

 静の時は、一拍遅らした足運びであると同時にどこか浮世離れしている錯覚に陥る上半身の動き。さらに男性の顔からあらゆる種類の感情を表わさず、声を発していない分、迫力を増す。

 壮年の男性自身の動作と合わせて、彼の表情が多彩に変化している事を見てとり、知らず知らずに唇を強く噛み締めていた。

 祭術はこんな事も出来るのか、という思いを得ながらも完全に足を止めて見入っている事にすら、自分自身で気づいていない程に、短剣や球体といった数少ない道具を扱いつつも緩と急を交えた舞いを披露している壮年の男性の一挙手一投足を見逃すまいと集中していた。

 その時、男性は、空いた右手で左腰に携えている年季を感じさせられる皮製の筒状のケースをふところから黒塗りの横笛を取り出していく姿に観客達はざわめき立ち始める。

「あれは、どっからどうみても、笛だよな? ジェローム派じゃなかったのか?」

「おいおい、おっさん!? リール人なのにエンリコ派をやるのかよ」

 祭術を扱う男性は、横笛を吹き始めると、観客達は一人、また一人と立ち去っていく様子を呆然と眺め、あっという間にこの場にいるのが祭術を披露している男性と僕一人だけとなった。

……まぁ、仕方ないよな。リール人がカルカソンヌ人の祭術を行うなんて、聞いた事がないし

 と、観客達が去っていった方向をみつめていたロジェは、次第に祭術師が扱う二つの祭術の事について、想いを馳せていく。

 


 祭術師が吹いている横笛からテンポが変わらない速さで物静かな音色が周辺を包み込み、当然、己が有している祭術に関する知識を思い返していたロジェの耳にも聞こえていた。

 と、そこに、

……ん? テンポが速くなっている?

 単調となっていた横笛の旋律に変化が訪れだした事に反応し、ふたたび祭術師の方に顔を向ける。

 高低差が激しい横笛の調べとなり、

 壮年の男性は、横笛が奏でるリズムに併せて両足を動かし、地面に転がっている布製の球体を左足のつま先で空高く上げ、球体を器用に右足の甲に載せると、今度は左足の甲に移す。

 それを右足、左足、右足、左足、と交互に球体を移動させたり、時には、膝の上に受け止めたりする動作を交えている男性の足捌きに目を奪われ、いつしか爪の痕が残るほど拳を握り締める。

……これが祭術師と呼ばれる者の実力……

 と、愕然とした気持ちを抱きながら、アニエスの忠告の事を忘却の彼方へと追いやり、祭術師が祭術を終えるまで、最後までこの場にいた。



 夕陽が沈み、澄み切った夜空に高々と月が上がりつつある頃、メインストリート沿いにある比較的、規模が大きい酒場も他の酒場同様に繁盛しており、大勢の人々が酔っ払い、どんちゃん騒ぎしている。

 そこに、リール人の特徴を有している壮年の男性が入ってきた。

……しっかし、こう人多いんじゃぁ、セレスタンはどこにいるんだか、判らんな

 と、白色が混じるようになった顎のヒゲを擦りながら視線を彷徨わせていた男性は、意を決して、悪友の名前を叫ぶ。酒場全体に行き渡るも雑音に消されかけていたが、カウンター席に座っている眼鏡をかけたリール人が振り返ると、片手を振りながら、

「モンド、こっちだこっち」 

 と、周りの声に負けじと張り上げている。

 セレスタンの姿を捉えたモンドと呼ばれた男性は、カウンターに近づき、店主に酒の注文してから彼の左横にある椅子に着席すると目を細めて悪友とも呼べる存在を見ながら、口を開く。

「セレスタン、かなり老けたんじゃないのか?」

「……それが久々に会う相手に開口一番に言う台詞かよ。まぁ、その方が君らしいといえばらしいかもね。とりあえず、久々に会えた事に対する乾杯といきますか」

 苦笑気味に呟いたセレスタンの言葉に頷き、届いたばかりの酒で満たされた杯を持ち上げ、乾杯した後、喉を大きく鳴らして飲み始める二人。

「それはそうと、モンド君。この都市で祭術を扱ったよな?」

 と、酒を楽しみ、完全に油断していた自分に向けて発せられた言葉に口の中に含んでいた酒を盛大に吹き出す。

 おい大丈夫か、と彼の声を聞き流しつつ、店主から渡された布で濡れた部分を拭きながら、

「ソ、ソンナコト、アルワケナイジャナイデスカ。ハハハ、オモシロイジョウダンイウナンテ、トシトッタショウコダゾ」

「まったく……白々しいにも程があるよ。目撃情報が君の外見と一致している上に、リール人が楽器を用いて祭術していた、という情報が俺の耳に届いているんだから。それに、まだ、この都市は祭術の条例に厳しいだからさ。気をつけてくれ」

……さすが、祭術師斡旋所の局長だな。

 と、右横にいる親友の現在の肩書きを思い出す。

「わかってるって、そんな事。だから警邏隊が来る前に逃げたから大丈夫!」

 口の端を吊り上げ、豪快に笑いながら喋った。

 その反応にセレスタンは、君って奴は……、とカウンターに両肘をついて両掌で頭を抱えている仕草を行い、横目でこちらをちらりと見る。

「君が相変わらず、良い意味で後先考えずに行動している事が分かったよ」

「良い意味ってなんだよ。それは」

 誉め言葉に決まっているだろ、と即座に答えられてしまい、返す言葉も無かったモンドは、親友を見遣ると、丁度、彼の方もこちらを見ていた事から互いに顔を見合わせる形となり、しばしの間、男性二人が見つめあう。

 そのまま十秒近く立ってから、両者共に同じタイミングで、身を震わせて爆笑する。

 しばらくしてから、モンドは笑いすぎて涙が溢れているのを拭いつつ、そういや、前にもこんな事あったっけな、と思い、

「あーほんとに何年ぶりになるのだろうな。こうして、おまえと酒を酌み交わすのは……。あれからどれくらい経ってるか覚えてるか?」

 と、セレスタンに尋ねる。

「んー、俺が西の大陸にある学校に留学していた時期の事だから、十数年は経過してると思うぞ」

「あー、そうか、そうか。あの頃か。そういや一時期、おまえと暮らしていた事もあったもんなぁ~」

 俺の言葉に、親友は、そんな事もあったよな、と懐かしそうな口調で呟く。長年の時間を埋めるかのように、そこから昔話に花を咲かせていく。




 昔語りも一段落した頃、言葉数も少なくなり、自分が何杯目かと数えるのも面倒くさくなるほど酒を呷っている所に、なぁ、と親友の方から囁かれ、振り向く。

「なんだよ。急にそんな改まって、気持ち悪いぞ」

「気持ち悪いは余計だよ。ったく……。俺はただ、君があれから彼らの行方の手がかりが見つかったりしたのかな、と思ってさ」

 セレスタンの言葉に軽く眉を上げてから深く息を吐き出し、静かに首を横に振った。

「全然、駄目だった。南部方面にも行ってみたりはしたんだが、結局、兄貴達の行方が掴めずじまいに終わっちまった……。そっちは、やっぱり、駄目だったんだな」

 親友が躊躇っている雰囲気を察したモンドは、先回りして言葉にすると、彼は、苦い表情を浮かべながら話し始める。

「あぁ……、君の言う通りだよ。この都市に彼らがいるという情報や中立地帯でそれらしき人影を見たという情報も得られなかったよ。これだけ、探してもいないとなると、やっぱり、あの方達は……」

 セレスタンが話している途中で彼が次に発する言葉が予想出来てしまい、

「そんな事は、言われなくても分かっている!?」

 カウンターを勢い良く叩き、感情を露にして声を荒げてしまう。

 すぐに目を丸くしているセレスタンや怪訝そうに見ている店主の視線や周囲の眼差しに気づき、周囲に謝りの言葉を発してから、再度、すまなかった、と親友に謝る。

「こっちこそ、君の気持ちを考えもせずに無責任な事を言ってごめん」

 と、眉を八の字に浮かべながらセレスタンが返事する。

「……」

 ひとまず深呼吸してから、酒場の天井に視線を向けたまま、本心を吐露し始める。

「自分が思っている以上に兄貴達が亡くなった事実を認めたくないんだと今あらためて分かった。だからこそ、こうして、列島諸国に戻ってきてまで探し続けているのかも知れん。それでも、この目で兄貴達が死んだ事を確認するまでは、生きているかもしれない、とそう楽観的に考えちまうんだよな……俺は。……だからさ、これからも兄貴達の行方を探し続けようと思っている」

「……やっぱり、そうなるよなぁ」

 口元を綻ばせつつも、考え込む仕草をしていたセレスタンは、よし、と呟き、己の手元にある杯を飲み干してから、セレスタン、と自分の名前を改めて呼ばれた。

「君があの人達を探し続けたいという気持ちも承知した上で、モンド君の腕を見込んで頼まれて欲しい事がある」

……セレスタンの頼み事は碌なことになった試しがねぇからなぁ

 モンドの右肩がぶつかるくらいまでカウンターに横に身を乗り出し、躊躇いがちにある言葉を発する。


「是非とも旅団の団長をやってほしい。もうすでに、市議会の方には説得して、申請を済ませてある。旅団の本部となる場所も用意した。後は、人材集めだけなんだよ」


 彼の眼差し、声音から冗談で言っているわけではない事を把握した俺は、商業都市の祭術に関する厳しい条例を耳かじった程度ではあるが知っているからこそ、認可が下りるまで困難な道であった事も簡単に想像できる訳で、それ故に、参ったな、と胸中でぼやく。

 しばしの時間を置き、どうして、俺なんだ? とセレスタンに疑問を投げかける。

「俺は、君以上に団長に相応しい人間はいないと思っている。それだけの事だよ」

 と、断言される。

……あぁ、だから、セレスタンが俺に手紙を送って遣したのは、この話を直にする為だったのか

 自分の本心を既に語ったにも関わらず、それでも尚、頼み事を言ってきた親友に、どう対応するべきかと乱暴に頭を掻きながら、そんな考えが頭に思い浮かんでいた。

「……返答は、今すぐじゃなくて、この都市を出立する時にでも聞かせてくれればそれでいいさ。その方が俺も諦めがつくと思うからね。……俺はそろそろ帰るけど、君はどうする?」

 と、言いながら、セレスタンは席を立つ。

「もう少し、飲んでいく」

「分かった。後、泊まる予定の場所はあるの?」

「野宿で十分だよ。そんなもん」

「まったく、そんな事だろうと思ったよ。ここの宿屋なら、店主にはすでに話してあるから、俺の名前を言えば、泊まれるから」

 眼前に宿屋までの道のりを書いた紙片を置いたセレスタンは、今までのモンドと己の分を支払い終えてから、酒場を後にする。その姿が見えなくなるまで見送っていた俺は、盛大に溜息を吐き、杯に残っている酒を一気に飲み干す。

……アイツは、俺との約束をずっと覚えていてくれて、それを果たそうとしてくれているんだな。それに引き換え、俺は……いや、考えても仕方ねぇよな

 頭を振り、

「マスター、アルコール度数が高いものを頼む」

 と言い、頭の中を支配する複雑な想いから逃れようと、酒を浸るようにして再び飲み始める。



 同時刻。忙しい時間を過ぎ、ロジェとアニエスの二人は、閑散としたカメレオン亭で給仕の仕事をしている。

「はぁ……」

 と、ロジェは酒場に戻ってきてから数十回目かになる深い息を吐き出していた。

……道具の種類か? いや、それもなんか違う気がするよな。ジェローム派とエンリコ派を扱うのに基本的な道具しか持っていなかった……。それとも、身体の使い方? 無駄のない感じはしたけれど、それだけだったような気もするし、どうすればいいんだ。僕は

 数時間経過していても、夕方に見た祭術の光景が脳裏に焼きついており、祭術師と自分の祭術の相違点について、堂々巡りの思考から抜け出せていないロジェは、今も上の空な状態で、酒が並々と満たされている杯を運んでいる最中である。

 だからこそ、地面の凹凸な部分に気がつかずに片足を引っ掛け、あっ、しまった、と思った時に体勢を立て直す暇もなく、派手に転び、その拍子に両手に持っていお盆を空中に投げてしまう。

 お盆の上に乗っていた五個の木製コップは、地面に衝突し、硬い音を酒場全体に鳴り響かせる。身体を起こした僕はこれ以上はないというほどに目を見張り、コップの中身をぶちまけている光景が赤い瞳に映る。

 急に身体の温度が一気に下がった感覚に囚われていた所に、近くに座っている体格の良い常連客の一人が立ち上がり、寄ってきた。

 怒られる、と思った瞬間、表情を強張らせたロジェの耳に届いたのは、

「大丈夫か? ……ん? 頭でも強く打ったりしたのか?」

「お前の厳つい顔に驚いてんじゃないの」

 相手を心配している時にかける類の言葉に、戸惑い、口を半開きにさせている僕を不思議そうに見下ろしている常連客と同じテーブルで一緒に酒を呑んでいる常連客達からそう囃し立てられ、体格の良い男性客は、肩越しに振り向く。

「お前らも人の事言えた顔してねぇだろうが!?」

「「確かにそれゃあそうだ」」

 声をたてて、笑う男性客達の中で、体格のいい男性客に、坊主、立てるか、と言われながら、僕の片腕を掴み、起こしてくれた。

「ありがとうございます。……あっ!? 服を汚してしまって、申し訳ございません」

「ああ。まぁ、この時期はこれくらいなら濡れている方が涼しいってもんさ」

 目の前にいる彼の服の一箇所に目が留まり、すぐに自分が酒をぶちまけた時に、この人にも掛かってしまったのだと認識し、ロジェは必死に謝罪の言葉を口にしている時、アニエスが幾枚もの乾いた布を抱きかかえて、駆け寄ってきた。

「おじさん、すみません。この布を使ってください。……私も拭くのを手伝うから、君はこっちの布を使ってテーブルを拭いて」

 男性客の方に綺麗な布、ロジェの方に古い布を渡し終えた彼女は屈みこんで、無駄のない動きで床を拭いている一方、彼女の言葉に従って、ロジェはテーブルを拭いていた。

「そういえば、嬢ちゃん。今日は踊らないかい? 俺達、ここに来る度に楽しみにしているんだよ」

 己の席に戻った体格の良い男性客は、彼女に訊きながら、仲間の方を振り向き、なぁ、そうだろ、と言った。男性客と一緒に呑んでいる人達は、一斉に肯定の言葉を発する。

「んー。もう少ししたら、今日は踊る事が出来ると思います」

 顔を上げ、酒場全体を見渡しながら彼女がそう喋ると、彼らは嬉しそうにしていた。

 二人の会話を耳にしていたロジェは、今日は踊るんだな、と口の中で呟くと、彼女が以前に語ってくれた台詞が思い浮かぶ。

『別に毎日って訳ではないわ。お客さんが要望してても、酒場の混み具合でやらない場合の方が多いから。えっ、どうして踊るようになったのですかって? ……ある時に、お客さんから何か出来ないのかって絡まれるようになって仕方なしに踊ってみた所まではよかったのだけれど、そうしたら今度は、周りで見ていた他のお客さん達から評価を戴くようになっちゃってね……。この事が切欠で私の踊りを見たいお客さん達が増え始めて、それらの声全てを無碍にする事も出来ないから、こういう事をするようになったというわけ』

……あの時は気にも留めなかったけど、踊りの事を語っている時の彼女の顔は俯いてて分からないけれど、確か、声の調子からあんまり嬉しそうにはしていなかったような……? まぁ、僕が気にしてもしょうがないかな

 雑念を首を横に動かして振り払ったロジェは、よし、と声に出して、酒が零れている箇所を拭く事に集中する。



 それから数分後には完全に拭き終えてしまい、軽装に身を包んだアニエスが現れた瞬間、常連客達の歓声に包まれていた。

 観客達が好き好きに拍手や口笛を鳴らしている中で、彼女は踊りだす。踊りの為に開けられたスペースを最大限に活用しながら、緩から急へ、急から緩へと巧みに切り替えていく過程で、多彩な動作を魅せる。

 今も、緩慢とした手振りと足運びで動いているアニエスは、ふわり、と軽やかに宙を舞うと、身体を一回、二回と鮮やかに回転し、足並みそろえて着地。次に倒立を行うと、大きく両足を広げて床についている両手の位置を器用にずらしながら時計回りに何周かした後で、逆さまな状態で歩き出していた。

 アニエスの踊りを間近で見れる卓上に酒が注がれている杯を静かに置き、振り返り際と別のテーブル客の所に移動していた時に、彼女の方を横目にちらりと見遣っていたロジェの胸中にあったのは、

……にしても、彼女の踊りを目にするのは、これで三回目くらいだというのに、毎回、新鮮な思いで見ている気分にさせられる事には驚いた……。緩急を交えた手や足の使い方もそうだけど、あんな曲芸じみた動作をやれるなんて、しかも尚且つ、それを自分の踊りに取り入れるなんて……

 という感嘆たる思いで他の酒場にいる人々の大半と同じように踊りに目を奪われている一方で、自分一人で賄いきれる量の仕事がある以上、全部通して見れない事に後ろ髪がひかれながらも給仕を全うしていた。

 だが、それも踊りが終盤に差し掛かり頃には、アニエスの一挙手一投足を逃すまいと意識を集中させる客達が増えるようになるに連れて、酒場は静まり返り、酒などの注文数も少なくなってきていた事で忙しなく酒場の中を駆け巡る必要性も薄れ、ロジェは、踊りをじっくりと見る余裕が生まれていた。

……そういえば、昨日の祭術師も今の彼女のように動いていたような……? うーん。僕の気のせいかな?

 胸中に疑念が芽生え、いつしか、ロジェは戸惑いの色を帯びた面差しへと変化していく。

 ……また、あの動き方だ。彼女の踊りには、祭術を扱う時の動作に繋がる部分があるというのだろうかな? まだ確信できる部分が少ないと思う……けど、彼女の踊りを意識して練習すれば、あの祭術師に近づける事が出来るのならば、取り組んでみる価値はあるはず

 と、昨日の男性が扱う祭術と僕自身が扱う祭術のどこが違うのかという意味を知らなければ、己が目指している場所に立ち続けているあの人と自分との間にどれほどの果てしない実力の差という壁が大きく隔たっているのかという事から真正面から向き合えない、と判断を下した上で決意したのであった。

 気持ちを新たにして明日以降の祭術練習の為にも参考にするべく、僕は、今まで以上にアニエスの姿を赤い瞳で追っていると、激しく動き回っている彼女の面立ちが目に入り、いつもの冷静沈着な感じはなく、さすがに疲労の色を隠しきれない様子が傍目から見て取れる傍ら、他者から気が強そうな印象を与えるその両眼からは、どことなく活き活きしているような……、という思いが込み上げてきた。

 だが、すぐに、目の錯覚。勘違い。思い込み。そんな言葉の羅列が己の脳裏を掠めている事に口元をへの字にさせていたロジェは、あれ? と疑問符を頭に浮かべていたと同じタイミングで、アニエスが空中で身体を捻ってから、足並み揃えて着地していた。

「これで、踊りは終わりとさせていただきます。どうも、ありがとうございました!!」

 と、肩を激しく上下させているアニエスが酒場全体を見回しながら声高らかに言った後で、一度だけ両手を水平に広げた状態で、上半身を折り曲げる所を黙視していた観客達の一人が両手を叩き出す。

 一人、二人、三人と、その音に反応したかのように他の観客達も拍手し始め、酒場全体に統一された音を響かせると同時に、さすが嬢ちゃん、とも、今日も良かったぞ、とも、おぉ、などの興奮覚めやらぬ様子で、観客達が思い思いの声を発していた。

 その中で、下に顔を傾けているロジェは、周囲の音が頭に入ってこないほど考え事に没頭していた。

……なんで、今の今まで気づかなかったのだろう? 彼女の踊りが祭術を扱う動作として見ていても、違和感が無いのなら、それは、そのまま彼女自身が祭術師に向いている事に他ならない……。そうだとすれば、僕が初めて、彼女の踊りを見た時の感覚も、祭術を扱う時の動きに似ていると感じてしまったから、と思えば、頷けるしなぁ……

 僕自身が抱いたアニエスに対する疑問符の意味を把握した事でもやもやとした気持ちが消え去り、一安心したのもつかの間、ある可能性を思いついてしまい、えっ、と声を漏らしながら、目線をあげ、その先に調理場の方へと歩き出している彼女の背中を見る。

「まさか……ね。さすがにそんな事は、さすがにないだろう」

 と、己の脳裏に浮かんでいる考えを否定しようと、自嘲を込めた声音で言葉にし、頭を横に振っていた。


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