不安な雲と後悔する波
初めての連載です。うわー、ドキドキする!
一応3部くらいで完成する予定です。
私には心から大切に思っている人がいた。大学の同じサークル仲間。私は昔から宇宙が好きだった。彼も同じ。だから、この出会いは広い宇宙の中で消えてなくなりそうな星を探すように難しく、でも、親と子のように強い愛で結ばれている。そんな、運命的なものだった。
付き合い始めた当初は二人とも恋愛経験が乏しくて関係は一向に進展しなかった。手を握ることさえも恥ずかしかった。次第に慣れてきて、抱きしめ合うところまでは進んだ。でも、「まだキスは早いかな~。」と自分の中では思う。もうちょっと、今の時間を過ごしたい。彼に言ったら「そうだね。」と返してきた。やっぱり気が合う。
私はこの上ないほど幸せだった。彼が倒れてしまうまでは―――。
彼はただの過労なはずだった。しかし、病院のベッドから一度も起き上がらない。私の心の中に不安な気持ちを表した雲が広がっていく。大丈夫かな・・・。
いや、彼の体調を察してあげられなかった私の責任だ。最近、彼は論文を夢中で書いていた。天文学者になりたいと子供のころからの夢を叶えたくて必死そうだった。きっとろくに食事と睡眠をとってなかったんだろうな・・・。そう思いながら彼の頬を擦る。
ぴくっ。彼の頬の筋肉が反応した。まだ彼は生きている。
「良かった・・・。」と思うとあんなに強張っていたからだがぷつんと糸が切れるように力が抜けた。思わず床にしゃがみ込んだ時、違和感を感じた。一瞬、空間が歪んだように思えた。首を振ると元通りになった。・・・気のせいか。私はそう思った。
しかし、気のせいではなかった。
次の日彼の病室でまた眩暈が起きた。病人の彼にも心配されたが、転んだだけだよと嘘を吐いた。彼に初めて嘘を吐いた。あんなに信じ合っていたけど、このことだけは彼にも言わないほうがいい。そう、確信した。
彼は見る見る間に回復していった。目覚めた当初は論文の続きが書けないと焦っていた。けど、「焦ると返って達成するのに時間が掛かる。」と私が言うとしぶしぶ作業するのをやめた。
そんなある日。彼が外出許可を貰ったので二人で病院の近くの公園を散歩することに。今は夏なので花は散ってしまっているが青々としている葉っぱを見ると元気を貰った。
「散歩、楽しかったね。」
私は素直に感想を述べると、彼は「そうだね。」と力なく微笑んだ。
「どうしたの、もしかしてまだ体調が整っていなかった?」
私の言葉の、珍しく彼は怒った口調で話を続ける。
「それはこっちの台詞だよ。お前こそ最近元気なさそう。気がついてるか、今お前の顔色すっごく悪いぞ。ちゃんと寝てるのか?」
「だ、大丈夫だよ。心配しないで。」
・・・ばれてしまった。ここ2、3日夜ぐっすり眠れない。暑くて寝苦しいわけではない。でもなぜか寝付けない。病院で診察してもらったが「ストレスが溜まっているのでしょう。」と言われただけ。気分転換すれば治ると思っていた。しかし、時間が経つにつれてそれどころか、余計にひどくなっている。また、病院へ行こう。
彼に最後に会ったのはいつだろう。あっ、彼が退院した1ヶ月前か。あれからばたばたしていて全然会っていない。サークルが一緒だとはいえ、病み上がりだからと言って彼は講義を受けてそのまま帰ってしまっていた。
この1ヶ月間は長かった。自分の体に鞭を打って何とか動かしてきた。融通が利かなくなってきているこの体を。
最近、目の前がよく霞むようになっていた。眩暈もしょっちゅう起きるし、気がついたら意識がなくなっていることもある。
ここまでかな・・・。こう思わずにはいられない。もうちょっと長く生きていたかったけど、これも神のお導きなら仕方がない。私は幸せだった。愛情をこれでもかと注いでくれた両親と、時にはけんかをして涙を流したこともあったけど支え合った友達や仲間と、そして、隣でいつも暖かい声をかけてくれた一番好きな人がいて。その人にはキスをして貰えなかったけど。それでも私は幸せだった。こんなにお迎えが早いとは思っていなかったけど、自分の人生に悔いはない。
まだ名残惜しいけど、決心が鈍らないうちにいこう。
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彼女が大学を辞めた。俺がそれを知ったのは1週間も前のことだ。
「俺に知って欲しいことがある。」と電話がかかってきたのだ。急にどうしたんだろう?と、思った。でも、ここ最近の彼女はどこかおかしかった。虚ろな目をして、前はあんなに熱心に聴いてくれた俺の話も聞かずにぼーっとする時間が増えていた。どうしたのと声を掛けようとしたら彼女が、「大学を辞めようと思うんだ。・・・とめないでね、もう、決めたことだから。」
柔らかい口調で、それでも芯が折れそうにない、強い雰囲気で話し出す。今まで、見たことがないような真剣な眼差しで俺を見つめるから、もう、何も言えなかった。
黙っている俺の顔を見て、彼女は1番綺麗な顔で笑った。そして何も言わずに後ろを向いて歩き出した。
俺たちは静かに別れを告げた―――。
このあと俺に後悔と虚しさの波が襲いかかることを、この時の俺はまだ知らない。
スイカとアンズのフルーツカップルでお送りします!名前を入れてなかったのでどちらが萃香で、どちらが杏かお分かりいただけたでしょうか?正解は“私”が萃香で、“俺”が杏です!
いや~、もともとこの話の登場人物に名前を付ける予定はなかったんですよw
でも、急遽付けることにして・・・。今回は面倒だったので書きませんでしたwただ、次回は書かないとわからなくなるので。
また次回お会いしましょう!ここまで読んで下さり、ありがとうございます!