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第四話 目標(クエスト)を決めよう③

「…美沙希、いい加減話を戻すぞ。お前はこの世界で何がしたい?」

 看守さんに聞かれないよう、美沙希の耳元で囁く。

「だから私はお兄ちゃんと一緒に居たいって言ってるじゃん」

「よく考えろよ?お前から聞いた限りだと、俺を治したのは魔法とか超能力とかみたいだ。そーゆーの、お前の好きな本とかにもそんなのが出てくるんじゃないのか?もしかしたらお前もそんなのになれるかもしれないんだぞ」

 …なんてな。

 本当は、妹に俺みたいなロクデナシを追いかけて欲しくないだけだ。

 俺はどんな世界でも、美沙希には幸せになって欲しいと思う。

 そしてそれは俺自身の幸せよりも遥かに大切な物だ。

 実の兄貴を追いかけて人生を棒に振る、なんてことになったら俺は許さない。

 俺なんかの為に人生を無駄にした美沙希のことも、美沙希の人生を無駄にさせた俺のことも、絶対に許さない。

 だったら俺がこいつの気持ちに答えてやれって?

 答えてんじゃん。NOだって。


 …とまぁ、ちょっと格好つけて考えてみたが、こんなの兄としては当然だよな。…普通だよね。前に一度、似たような内容を友達に話したらシスコンって言われたんだけど…。


「兄さん、くどいよ。私は兄さんと一緒にいられたら幸せなんだから、それでいいじゃん」

「そ、そうか…」

 なにも良くないんですがね…。

 まぁいい。美沙希はまだ中学生だ。まだ兄離れ出来ないだけだろう。…どうもウチ以外の兄弟姉妹は中学生あたりから喧嘩が激しくなり、それにつれて兄、姉離れも激しくなるらしいが、美沙希の場合はちょっと遅いだけだろう。

 時間はまだまだ沢山ある。

 これからだんだんと一人立ちしていけばいいさ。

「分かった。納得したという意味じゃなく、言葉の意味を理解した。

 じゃあ、最後にこれだけは聞かせてくれ」

 一息ついて、

「美沙希…元の世界に戻りたいか…?」 すると美沙希はため息をついて、

「だから言ってるでしょ?兄さんが居るところに私もいる。兄さんが行くところに私も行く。兄さんさえいるならこのままずっとこの牢屋にいても、家にいるのと変わらないよ」


 …こいつはどこまで……、どこまでブラコンなんだ…。

「あー、分かった分かった」

 俺がどれだけ真面目な話をしても、美沙希は全てぶち壊すということが。

「逆に聞くけど、兄さんは元の世界に戻りたくないの?」

「俺か?俺は……」

 正直、一度は帰りたい。

 元の世界には、口うるさい母さんや美沙希を溺愛しているダメダメな父さん、子供の頃からつるんでいた幼なじみや、学校の友達…それ以外にもたくさんの知り合いがいる。


 だが、この世界に彼らはいない。

 だから、一度は帰りたい。

 親に会いたい、幼なじみに会いたい、クラスメートに会いたい、田舎の祖父母に会いたい、他にも、会いたい人はたくさんいる。


 ただ、どうしても帰りたいか?と言われれば、そうじゃない気がする。

 多分、美沙希がいるからだろう。

 親しい人間が一人いるだけで、なんだかとても安心できる。

 美沙希もホームシックなわけじゃないようだし、結論を言えば…

「帰れたらいいな~、くらいだな。帰れないなら、別にそれでもいい」

「そっかー」

 美沙希の反応が薄いな。

 こっちはさんざん考えた末に答えたというのに。兄さんちょっと寂しいぞ。

「じゃあ、兄さんは何かやりたいことがあるの?」

「俺のやりたいこと?そーだな…」

 正直、全く考えて無かった。美沙希がしたいことがあるならそれに合わせようと思ってたからな。

 …ちょっと待て。これってさっき美沙希が言ったことと同じなんじゃないか?美沙希のやりたいことを俺もやる的な……

 まさか俺も知らず知らずのうちに美沙希に…?

 いやいやいやいや。美沙希は実の妹だぞ?そんな相手に恋とかするかっての。美沙希じゃあるまいし。

 さっきのだって、美沙希はブラコンの心から、俺は兄としての立場から考えただけだ。

 なんかシスコンフラグが立った気がしないでもないが、問題ない。俺はノーマルだ。フラグなんてFPSゲーで何回も投げ返しているしな。

「落ち着け、俺。俺はノーマルだ。俺はノーマルだ。俺は…」

「シスコンだ」

「そう…俺はシスコ違う!!俺はシスコンじゃない!!俺に変な意識を刷り込むな!!」

「チッ…」

「舌打ちすんなよ!!」

 ってマズい!看守さんごっつ怒ってますやん!!鬼の形相で俺達…じゃない俺だけを睨んでますやん!!!見ーつーめーらーれーたーらプレッシャー♪

 プレッシャーって書くと良いけど、重圧って書くと怖いよね。どうでもいいが。

 だが、看守さんのおかげでちょっと落ち着けた。

 俺のやりたいことを考えてみよう。

 俺は元の世界ではゲームばかりやっていたような人間だ。こっちの世界にはゲームなんてあってもボードゲームくらいだろうし、俺がやってたカチカチポチポチズガガガガーンなゲームは無いだろう。

 そういえば、さっき元の世界のことを考えた時に、何故俺はゲームのことを思い出さなかったのだろう。

 ただ失念していただけだろうか?

 まぁいいや。

 にしても、うーん。これと言ってしたいことはないな。

 しかし、美沙希も俺もしたいことが無いとなると、基本方針が定まらないな。これじゃあ選択肢が減らせねぇぞ

 なんとかしてやりたいことを決めないと。

 …待てよ?

 やりたいことがない、ということは、なにもしないことがしたい、ということにならないだろうか。

 そう思うと、そんな気がしてきた。

 そうだ。俺はこの世界で何もしたくないんだ。働きもせず、さりとて悪さもせず、一生頑張らないで怠惰な生活をすごすのだ。田舎の祖父母のように、その時したいことだけして過ごすのだ。我ながら酷い暴論だが、思っちゃったものはしょうがない。

 そして今の考えを総合すると…

「…隠居だ」

「…え?」

「美沙希、俺はこの世界で隠居したい」

「そっかー。良いんじゃない?兄さんらしくて」

「隠居が俺らしいってどんなだよ。俺のアイデンティティはそんなもんなのかよ」

 まったく、この妹は…

 だが、方針は決まった。あとは筋書きにそって行くだけだ。



 …そう。

 後から思い返せば、この時の俺は本当にバカだったのだ。



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