第四話 目標(クエスト)を決めよう
「…やっぱりか……」
目が醒めると、やはりそこは異世界だった。
気絶する前の風景とは随分違うが、やはり一目みただけでそこが異世界だと分かる。
なんせ、牢屋だ。
それも鉄格子の。
元の世界にこんないかにもな牢屋はない。あったとしても、俺はこんな所に入れられるようなことはしていない。…まあ、もしかしたら知らず知らずの内に美沙希に都条例に引っかからせられていたかもしれないが。
しかし、ちょっと期待してたんだがな~、目が醒めたら元の世界に戻ってた的な展開。
「よいしょっ…とぉえふ!?」
とりあえず立ち上がろうとしたら、手が動かせずにバランスを崩してしまった。
「うぅ…」
ま、普通そうだわな。人を監禁するんだ、手を拘束するくらいのことはするか。
しかし、縄か。
手錠ではないということは、やはりここは異世界なのだろう。
少なくとも日本ではないな。
「兄さん、大丈夫?」
「大丈夫だ。問題な…って美沙希っ!?」
ついいつもの調子で答えかけてしまいかけたが、美沙希にはあのとき逃げろと言ったのだ。ここにいるはずがない。
「お前も捕まったのか…?」
「うん。でもなんか女に手は出さない、とか言って拘束はされなかったよ」
見れば、確かに縄はどこにも結ばれていない。
「ホントは部屋を貸して貰えるって言ってたけど、兄さんのとこにいたいってお願いしたら、この牢屋に入れられたんだ。てっきり兄さんもどこかのお部屋にいると思ったのに、まさか牢屋だったなんてね。ほんっとここの人たちは兄さんがどれだけ偉大な人なのか分かってない…」
妹の中での俺の存在はかなり拡大されまくっているようだ。
「俺は偉大じゃあないが、確かにちょっと手荒な扱いだよな…」
そのくせ、美沙希は妙に手厚いもてなしだな。
「ちょっとどころじゃないよー!私がもし妹じゃなかったら殺してたって言ってたもん!!」
「マジかよ…」
この世界にもリア充爆発しろ運動があるのだろうか。美沙希が妹だったことを神に感謝しなきゃな。
まあ、美沙希がいなかったら嫉妬に狂った兵士諸君に殺されることはないのだが。
「さぁて、これからどうすっかな」
自分が牢屋に入れられ拘束されていること、美沙希が逃げられなかったこと、ここが男に厳しく女に甘い国であること、もしかしたらこの国の兵士に殺されるかもしれないこと。
今ある情報を簡潔に頭でまとめたところで、次は俺たちがどう動けばいいのかだ。
まあ最初はなんとかして牢屋を出ることだろうが、出たところでここには看守的な人がわんさか居るだろうし、なにも考えずに出て行ったら文字通り出たとこ勝負になる。
「そうだね…兄さん、どうしよっか……」
妹も珍しく真剣に考えてくれているようだ。まぁ、流石にこの状況でふざけられるほどバカじゃないか。
「兄さんにどんなことしよっかなー♪」
訂正、俺の妹はバカでした。
「おい、お前まさか俺が気絶してる間になんかしてねぇよな?」
言ってから不安になってきた。ヤバい、こいつの目の前で手を縛られたまま気絶とか、一番ダメなシチュエーションじゃねーか!!
「大丈夫だよ~。なんにもしてないから」
「本当だろうな」
「うんっ!兄さんをギュッて抱きしめたり兄さんの服の下をまさぐったり兄さんの匂いをクンカクンカしたりしかしてないよ!!」
「お前は変態か!!」
「え?なんで怒るの?毎日してるのに」
「お前は変態だ!!(断定)」「大丈夫だよ。二割冗談だから」
「お前はmost hentaiだ!!(最上級)」
全部冗談かと思ってたのに、八割が本気だったとは…
「まぁそんなことより」
「俺にとってはそんなこと程度の問題じゃねーんだが…」
「これからどうするか決めないとね!!」
華麗にスルーされた。
「そういえばお前、俺が気絶したあとも起きてたんだよな。あのあとどうなったんだ?」
「んー、途中までは兄さんが死んじゃったかと思ってあいつら皆殺しにしようかと思ったんだけど」
俺の妹はヤンデレ属性を持っていたのか。
「兄さんを殴った人の後ろから出てきた人がなんかブツブツ言ったら、兄さんの体が光り出して、光が無くなったら傷が全部治ったの」
「……は?」
「だから兄さんを…」
「いや、聞こえなかったわけじゃなくて、なんか言ったら傷が治った?マジかよ」
「うん。結構な打撲だったのに、嘘みたいに元の姿に戻ってたんだよ」
「んなバカな。まるで魔法じゃねぇか」
多分ホイミとかベホイミとかベホマとか言って治したんだろうな。
「まぁ、それは今はいい。その後、戦争の勝敗はどうなったんだ?」
まあ既に大体分かってるが。
「それが…」
一拍置いて、
「こっち側…つまり今私たちを拘束してる側の惨敗だったよ」
「そうか…」
口では悔しそうに言っておく。牢屋の外には看守が居るからな。
だがバレないように看守から背けた俺の顔は、どうしようもなくニヤけていた。
――見えたぞ、これからの道筋が。