第二話 長い森を抜けるとそこは…②
「ふぅ…とにかくこれで一安心だな」
「うん。やっと二人きりだね兄さん♪」 俺は美沙希を下ろすと、深いため息をついた。
「お前は元気だな…パトラッシュ、俺はもう疲れたよ…」
よく考えたら朝飯も食わずに土の湿った森の中を走っていたのだ。これで疲れが来ない方がおかしい。
「とりあえず食べ物を探さねぇとな。腹が減って死にそうだ」
「私を食べてもいいんだよ?据え膳だよ?」
お前の言う食べるは明らかに意味が違うだろ。
「あー、こんなときにふざけるのはちょっとやめてくんねぇかな。本気でイラッとくるから」
「はぁい……ふざけてないのに…」
うん。最後にボソッと言った言葉は聞こえなかったことにしよう。
山菜や木の実を探しながら、森の出口を捜索する。
余談だが、俺は山菜にちょっと詳しい。理由は小学生のころ、「やりすぎ、ゴールデンレジェンド」を見て、無人島生活に憧れたからだ。
サバイバルが出来る人にはなれずとも、一部でもサバイバルが出来る人に近づきたかったのだろう。
もしタイムスリップ出来るなら、昔の俺に言ってやりたい。
「お前の努力、役にたったぜ☆」
…と
とにかく、食料には困らなかった。
植物はなぜか日本にも生えているものばかりだったからな。
ただ、火がおこせず水も少ないのでアクを抜くことが出来ず、味付けもできないため、素材の味をいかし過ぎた山菜サラダはめちゃくちゃ苦かった。美沙希は「兄さんの作ったものなら何でも美味しいよ!!」とか言ってむしゃむしゃ食べてたが。
そんなこんなで腹を満たしながら森の終わりを目指して歩く。
一時間ほどたっただろうか。不意に声が聞こえてきた。
「…チッ、またかよ…」
実は今までも何度か声が聞こえるときはあったのだ。しかしそれは一様に戦争中の兵士たちの雄叫びだった。
そのたびに反対方向に歩いていたはずだが、森の中なので方向感覚が鈍っているのだろう。なんども戦場に戻ってきている。
しかし今回の声は今までの雄叫びとは違う。
なんというか、落ち着いているのだ。
「……の、…か……ぶ…」
この距離だと途切れ途切れにしか聞こえない。
「…美沙希、もう少し近づくぞ」
「え?なんで?逃げるんじゃないの?」
「もう少し話を聞きたい」
言いながら、少しずつ近づく。
途切れ途切れの声も次第にはっきりとした言葉となって聞こえてくる。
「…コナー部隊、全滅しました…」
っっッ!!!!
「日本語ッ!!?」
「誰だ!!」
しまった、驚きのあまり声を出してしまった。
しかし、いま誰だって言ってたし、やはりこれは日本語のようだ。
「兄さんっ」
「分かってる!!」
俺は美沙希の手を取るとすぐに身を翻し、樹木の生い茂る森の中へ逃げた。いや、逃げようとした。
「逃がすかっ!!」
「うっ…!」
突然襟を掴まれ、後ろにつんのめる。って速すぎでしょ!ギリギリ声が聞こえるくらいの距離だよ!?「クソッ!!放せよっ!!美沙希が…グッ!?」 腹を殴られた。…容赦ねぇな。
「美沙希…逃げろ…ッ」
「黙れ!!」
ゴスッとかそんな感じの鈍い音が、後ろ頭から鳴った気がしたかと思うと、俺の意識は闇に包まれていった。






