第二話 長い森を抜けるとそこは…
俺は今、異世界に居る。
しかも超面倒なことに、異世界に出た瞬間に戦争に巻き込まれた。
それも、どちらかの国の兵士の成り代わりとか、そんな都合のいい設定ではなく、まるっきり元居た世界の姿形のまま出てきてしまった。 寝ている時にとばされたので、パジャマだ。髪に寝癖もついている。
もしこんな姿で戦争をしている兵士に見つかりでもすれば、即座に本陣に連行されて二人分の真っ赤な血が流れるだろう。いや、妹はもしかしたら奴隷とかにされて生き残るかもな。まあそんな状況になるなら俺が殺すが。もちろん兵士をね
めんどくせぇ!!めんどくせぇ!!MAXめんどくせぇ!!と、一昔前の芸人みたく叫びたい気分だ。
しかし、そんなことをしている余裕は無い。
俺は今、逃げている途中なのだ。
とりあえず戦場を離れようと走ったはいいが、運悪くどちらかの国の奇襲部隊に見つかってしまったのだ。
俺は無駄だと思いつつも日本語で「we not enemy!!」と叫んだが、やはり言葉が通じないのか、そもそも振り向いてないから通じたのかどうかも分からないから、そのまま走って逃げている。
「ねぇねぇ兄さん」
「ハァ、ハァ…なんだ!?美沙希」
ちなみに息が荒いのは妹に興奮しているとかいうおめでたい理由ではなく、わき目も振らずに走っているのと、自分たちを殺せる武器を持った兵士から追いかけられる恐怖からだ。
「んー…やっぱりいいや」
「ならこんな時に話しかけんな!!」
その一言で息が乱れ、また一段とペースが落ちる。
なぜか妹が自分で走ろうとしないので、俺が担いで走っている。そのせいで余計に疲れているというのに、これ以上妹のせいで疲れさせられるのは勘弁してもらいたい。
「じゃあ言うけど…」
「結局言うのかよ!?」
こいつ不思議ちゃんなの?それとも電波なの?いま話しかけんなって言われたばっかりじゃん。
あ、不思議ちゃんも電波もそんなに変わらないか。
「もうあの人たち、追いかけて来ないみたいだよ?」
「…………へ?」
言われて、振り向く。
そこにはただ、木が生い茂る森しかなく、兵士どころか動物すらいなかった。
まぁ、そりゃそうだわな。普通の人が、あんなに重そうな鎧をフル装備してたら、そんなに長くは走れないに決まってる。
そもそも彼らは奇襲という任務があってこの森にいたのだ。武器も持っていない、戦う意志も感じられない俺達を気にかけている暇はないのだろう。
「…ハァ…ハァ…いつから、追いかけて来てないって気づいてたんだよ…」
視界に映らないということは、奴らはずいぶん前に追うのをやめていたはずだ。
「え~っと…兄さんを見つけて兵士が走って来ようとよね」
「ああ」
「でもそのすぐ後、その人を隊長っぽい人が止めてたよ?」
「………は?」
「つまりいつからって言われると、最初からって言うしかないよ」
最初から追いかけてきていなかった?
つまり……
「ここまで走ったのは無駄だった…ってことか…?」
「無駄じゃないよー。だって兵士たちの近くにいるなんて危険すぎるからね~」 まあ、それもそうか。またいつ追いかけてくるか分かったもんじゃないからな。
「兄さんとしてるときに見られたら…」
「何バカなこと言ってんだこのブラコン」
そうだった、こいつは不思議ちゃんでも電波でもなく、ただのブラコンだったな。