1‐8 再び日常に
翌朝、私は青葉ちゃんのお店に寄ってから学校に行くことにした。
少し遠回りになるが、もとはといえば、私が青葉ちゃんに持っていった話なのだ、お礼もかねて顔を出すべきだろう。
昨日"アレ"との戦いのあと、小瓶に入ったお酒一杯で泥酔した青葉ちゃんを店まで運び。
帰宅した後には、飯田先輩のことを私に相談してきた同級生、春ちゃんに事の顛末を(もちろん"アレ"の話はぼかして)電話で伝えた。
春ちゃんは「最後の最後に飯田先輩からお別れのメールが来ていた」なんてことを言っていたけど、きっとなにかの偶然なのだろう。
たくさん泣かれて、結局青葉ちゃんが解決したと伝えると、ものすごく感謝していた。
駅を出て、商店街を抜け、横道に入ると、窓からは青葉ちゃんが眠たげな顔でノートパソコンを操作しながら一喜一憂しているのが伺えた。
「ほんと、昨日とは大違い……」
昨日の青葉はまさに「先輩」と呼ぶにふさわしい、頼りがいのある人だった。
急に店に駆け込んで、面倒事を持ち掛けたというのに、口では文句を言いながらも臨時休業にしてまで捜査してくれていた。
昨日の"アレ"との闘いも、二年前、私が高校一年生で青葉ちゃんが高校三年生だった時に見たように、軽やかで優雅なものだった。
思い出に浸りながらぼんやりと見つめていると、こちらに気付いたのか、青葉ちゃんは人懐っこい笑みを浮かべて手を振っている。
頼りがいがあって、完璧で、でもどこか幼くって。
そんな青葉ちゃんだけど、私はやはり、彼女のことをどうしようもなく尊敬しているのだ。
だからこそ、青葉ちゃん、と、親しみを込めて呼びたい気持ちをぐっとこらえて、私はドアを開けて言うのだ。
「先輩っ、おはようございます!」
第一章 完