1-6 僕と"彼女"
音もない不気味な夜の公園をゆっくり歩く。
こちらに迫る明確な敵意は、黒い影に包まれてゆらりとあらわれた。
肉食獣のような眼光に、ソイツがまとっているその重苦しい雰囲気に、ゾクリと背筋が凍る。
公園に設置されている照明のすぐ下にいるというのに、シルエットしか認識できないそれは人の形をしていた。
僕は小声でできるだけ動かないよう千鶴に言うと、即座に千鶴と距離をとった。
人の形をした黒い影は、だらりと両腕をぶら下げたままこちらを目で追うかのような動きを見せた。
先ほど千鶴に飲ませたエリキシルは、妖怪の目に映らないようにすることができるというのは、経験上明らかだ。
僕は、当たり前だが千鶴に被害が及ばないよう離れるのが得策だと判断した。
僕に無駄足を踏ませたことに、少なくとも罪悪感を感じていただろう彼女がついてくるなと言っても聞かないことは明らかだった。
ならばせめて被害が小さくなるよう努めよう。
じりじりとこちらに歩み寄る影。
公園に入ってからずっと感じていた圧力はさらに重くなる。
ポケットに手を突っ込み、千鶴に渡したものとは別の小瓶を手に取る。
中にはお酒が入っている。
ふたを開け一気に飲み干すと、体の中に確かな熱を感じた。
千鶴が僕を信じた理由、僕がこんな異常なことに慣れている理由、そのすべてを繋ぐのが僕の白髪だ。
僕の家柄の長女にのみ引き継がれるこの白髪は、妖怪と僕を繋ぐものだ。
体中に広がった熱は、僕の体を人間の体から妖怪の体に変えてゆく。
そして僕の人格さえも、やはり妖怪に代わる。
白い髪が金色に変わり、僕の中の彼女が目覚める。
僕の周りを白い煙が覆う。
派手なことが大好きな彼女は、僕の体に入るときは必ず、周囲を白煙で覆うのだ。
そしてこの煙に包まれたとき、僕の意識は彼女のものとなる。