表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/50

1‐5 対峙

千鶴が飯田を見たという公園は、店から出てすぐ、首都高につながる道に面する、かなり大きな公園だ。

家族連れや犬の散歩、年配の夫婦やテニスの練習をしている若者など、地域の様々な人が利用する公園だ。

夜は発展場という、同性愛者のたまり場となっているという話も聞いたことがある。

木々に囲まれて、周囲とは隔絶された空間は、人目を避けるには絶好の場所なのだろう。

夜風に撫でられながら、複数ある入り口の一つに立つ、車の音、虫の声が、夏の名残を感じさせる。

奇妙なオブジェの前に立ち、後ろをついて歩く千鶴に声をかける。

「まだ確定したわけではないけれど、危険な目に合うかもしれない。というのは、把握しているよね?」

もし本当に"アレ"がかかわっているなら、千鶴にとって二度目の危機になりかねないだろう。

前回との違いは、当事者か部外者か、というだけで、いつ彼女が被害者となってもおかしくはない。

「大丈夫、です。前みたいに、守ってくれるんでしょう?先輩っ」

何の不安も感じていない、とでも言いたげな表情だ。

「……あまり過大評価はしないでもらいたいんだけどね」

ポケットに手を突っ込み、目的のものを探す。

「あった。入る前にこれ、飲んでおいて」

液体の入った小さな瓶を千鶴に差し出す。

「これ、何です?」

不思議そうに瓶を見つめ、中に入る液体を揺らしたりしている。

「エリキシル剤、まあ、お守りみたいなものだと思っておいて」

「えりきしる?」

瓶を開けて香りをかぎ、一気に飲み干す千鶴。

すぐ近くにいる僕にもハーブのような香りが届く。

「甘っ、苦いっ!?ってこれ、もしかして……」

「うん、お酒と言っても差支えないと思うよ。まあ僕はお酒はあまり詳しくないから、よくわからないけど。」

「わたし未成年!」

「バレなきゃいいのよ、バレなきゃ」

自分が笑っていることに気付いた。

柄にもなく、少し緊張してしまっていたらしい。

こんな時に笑えたのは、千鶴のおかげかもしれない。

「むー……これに何の意味があるのよぅ……」

ぶつぶつと文句を垂れている千鶴に、やはり頬が緩んでしまう。

「さて、それじゃあ行こうか、それで千鶴は大丈夫のはずだから。」

「?」

公園に足を踏み入れる。

周囲の音が、一気に聞こえなくなった。

それだけではない、あたり包む空気が質量をもったかのように重くなる。

あたりを包むこの圧力は間違いなく"アレ"そのものだ。

……間違いなく、居る。

テリトリーに入ったものを値踏みするかのような視線を感じ、背筋にゾクリと寒気を感じる。

「先輩?」

急に立ち止まったのを不審に思ったのだろう、千鶴が心配そうに声をかけてくる。

「あぁ……僕は大丈夫だから」

千鶴に飲ませたエリキシルは、霊薬などと呼ばれたりしていた事もある。古くは不老不死の伝説もあったほどだ。

だからだろう、千鶴には何の悪影響もない。

少しでも彼女を心配させないよう、気丈に振る舞ってみせる。

この先に居るであろう"アレ"の存在を確信したなら尚のこと、彼女を心配させるわけにはいかないだろう。

彼女は自衛のすべをもたない一般人なのだ、僕だけが頼り、というのも大げさな話ではない。

「しかし……」

諦めたように声を漏らす。

「?」

「これは、飯田はもう……だめかもね」

「え!?そんな……だって私さっき……」

「その時さ、この公園には誰かいた?飯田と千鶴以外に」

「え……うん、あまり沢山ではなかったけど」

「今はね、飯田と、多分僕たちだけだよ」

「やっぱり……"アレ"なんだ……」

以前のことを思い出しているのだろう、千鶴は少し辛そうな顔をしてうつむく。

僕はこの圧力を発するものに意識を向ける。

吊り橋や広場のあるあたりだろうか、そこに何かがいることはわかったが、正体まではつかめない。

しかし相手には、こちらのことがわかるのだろう、異常なことに対しては慣れっこだが、僕はあくまで人間であって、異常な存在そのものではない。

異常な存在そのものである"アレ"と僕とでは、周囲の敵の気配を気取ることに関して言えばやはり、僕にとって分が悪いだろう。

「仕方ない、一応いつでも逃げられるようにはしておいてね」

「う、うん」

「さあ、それじゃお待ちかねみたいだし、行きましょうか」

圧力の強く感じられる方に向け、歩き出した。

ほぼ同時に、相手もこちらに向かって来るのを感じた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ