1‐4 出発
店に帰ると、店の前では千鶴が座っていた。
「お前ね……地べたに座るんじゃないよいい若いもんが……」
「青葉先輩が遅いんだもん!」
僕のせいなの……?
「まあ、入りなよ、外も涼しいけど、店内のが快適でしょう」
店のカギを開けて中に入るよう促す。
「あ、おじゃまします」
急にかしこまる千鶴に、僕は違和感をおぼえた。
「何かあったの?」
「……さっき、飯田先輩見た」
ポツリと、申し訳なさそうに言う。
「そうなんだ」
驚きこそしたが、だからどうしたということもない。
千鶴が持ってきた話がただの勘違いで、そのためにほんの少し時間を割いただけだ。
おそらく、いや間違いなく、千鶴はそのことを気に病んでいるのだろう。
彼女はそういう子だ。
だからいつ戻るとも知れない僕が戻るまで店の前に居たのだろう、義理堅く、生真面目なのが、この子のいいところだと思う。
「とりあえず座りなよ、あ、何か飲む?」
僕の問いかけに素直にうなずき、カウンター席に座る。
「怒って……ないんですか?」
おそるおそる、という風にたずねられる。
冷蔵庫に残っていたアイスコーヒーをグラスに注ぎ、千鶴の前に置く。
「んー、まあ、大事に発展してないなら、それに越したことはないんじゃないかな」
千鶴に気を使ったわけでもなく、僕の本心だ。
重ねて僕は調査報告をする。
「ちょっと飯田の部屋を漁ってきたんだけどさ、少なくともしばらく部屋には戻ってないみたいだ、"アレ"がかかわっているかはまだわからないけど、何かあったんだろうね」
「え……そう、なんですか?」
「うん、電気つけっ放しで窓も空きっぱなし、携帯や財布も放置されてたからね、これで何もなかったっていうのも、おかしな話でしょ」
「んー……?」
合点がいってないようだ。
「もう窓を開けて寝るのは、少し肌寒いでしょ?だから、少なくともしばらく戻ってない、と思う」
「あー……」
納得がいった様子。
「ちなみに飯田を見たのはいつでどの辺り?様子は?」
「ええと、30分くらい前に、すぐ近くの、でっかい公園です。様子は……んー、おかしなところはなかったと思いますけど……座ってましたね。」
「じゃあまだ近くにいるかもね、一文無しの飯田君は」
そう言って僕は飯田の財布を千鶴の前に置く。
「先輩、窃盗はマズいんじゃ……」
どこかあきれた様子だが、別に盗んだわけじゃない、ちょこっと中を見ただけだ。
「ま、ちょっと探してくるよ、千鶴はどうする?」
まだ彼女はアイスコーヒーに手を付けていない、そこまで食い意地の張った子ではないけど、彼女も自分の足でいろいろ探し回っていたのだろう、少しくらい休ませてあげたかった。
「あ、わ、行く!行きます!」
慌てた様子でコーヒーを飲みほし、立ち上がる。
「そ?それじゃあ行きましょうか」
そうして僕たちは店を後にした。