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喫茶『Amulet』の日常  作者: 桐沢 綾
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クリスマス・ガール 12月23日

店の仕事にも慣れてきた。


そんなことを想いながら、夕暮れ時の店内で、私はコーヒーを淹れる。


と言っても、ただカップを置いてレバーを引くと、その間だけコーヒーが注がれるという、注意すべきは溢れさせないようにするというだけの簡単な作業で、淹れる、という表現もあまり適切ではないかもしれないような代物だが。


トレーに紙ナプキンを敷いて、必要ならばティースプーンと砂糖、ミルクを乗せる。


トレーに乗せたコーヒーからは湯気が立ち、特有の香りが鼻孔をくすぐる。


「お待たせしました、ごゆっくり……どうぞ」


注文の品を渡して笑みを浮かべる。


接客の挨拶が怪しいのは、私のアルバイト経験の無さと国語力の低さ、そしてマニュアルの存在しないこのお店が原因だ。


いや、単純に私が喫茶店だとかファーストフード店をあまり利用しないからなのか、こういう時の定型句をよく知らないのも大きいと思う。


青葉ちゃん不在の店内は、どこか落ち着かないものがある。


気を紛らわせるため、そして暇をつぶすため、レジ前に移動する。


「あと二十……三人かあ……」


置いてあるメモ用紙の正の字を数え、つぶやく。


今日は祝日ということもあってか、普段より多くお客さんが来てくれた。


と言っても、チラシ配り初日ほどではないが。


青葉ちゃんは昨日、近所の和菓子屋さんの店長さんと一緒に、何やら段ボール箱を大量に運び込んできた。


青葉ちゃん曰く、ノルマ達成の秘策、らしい。


中身はケーキの材料らしいが、クリスマスケーキの販売を視野に入れていたのなら、事前に宣伝活動をしておいて、予約を受け付けておくのが鉄板なのではないだろうか。


当日にいきなり来るようなのは、きっと家族で食べるとかではなく、一人暮らしの方が多いだろうし、そもそもこのお店に二十人もそんなおひとり様がケーキを求めてやってくるとは思えない。


「……余ったら後輩ちゃんたちに配ってあげよう」


私の抱えている問題は、このお店のノルマ達成だけではない。


寮で行われるクリスマスパーティー、その出し物も案件だったと、つい最近気づいた。


いや、雪に言われなければ絶対に忘れていただろう。


そして雪には何か秘策があるようだったが、昨日尋ねると「あーごめんむりだったわ」と、大変やる気のないお言葉を頂けた。


や、忘れてた私が全面的に悪いのだから、雪を責めるのは間違いだ。


「……うん、素直に諦めよう、謝って許してもらおう、なんかもうダメだ、いろいろタイミングが悪かった」


開き直れば理由なんていくらでも思い浮かぶものだなあと思ったが、これはただの言い訳にしかなっていない。


「せめて、ノルマだけでもクリアしたい……」


後輩ちゃんたちの期待を裏切るつもりなのだ、その結果こちらも中途半端になれば、それはもう本当に目も当てられない。


「最悪、ミニスカサンタのコスプレ衣装でも着てチラシ配りでもやろう……」


去年のクリスマスパーティーで先輩が着ていたのを貰ったが、使い道がなかったのでクローゼットの奥にしまったままの、季節感ぴったりの、そしてノルマ達成へのキーアイテムの存在を思い出し、私は明日への希望を見出した。

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