1‐3 HAL
HALとのやり取り、他1000件のメールに全て目を通し、喫茶店を出るころには、夜の帳が下りていた。
少し前まで、夜になってからは出歩くのが億劫なほどの暑さだったというのに、今では心地よく過ごせる。
店を出てすぐ目の前に駅があるのは、やはり便利だ。
駅を行き交う人々はどこか疲れた表情で、どこか寂しげな印象を受ける。
改札を抜けてホームで電車を待っている間、ポケットに振動を感じた。
確認すると、飯田の携帯に新着メールが届いたようだった。
差出人は……またあの出会い系サイトのようだ。
メールに記載されたURLをクリックし、受信ボックスを確認する。
差出人はHAL。
内容に目をやると、先ほど何度も見たような薄っぺらい文章が並んでいた。
「健気なもんだね……」
返事をよこさない相手に、何度も何度もメールして。
そんなことをしていれば、確かに内容は似たようなものになるかもしれない。
喫茶店で飯田とHALのやり取り全てに目を通した僕は、何通かまったく同じ文章のメールを見つけた。
今回送られてきたメールも、やはり見覚えがある。
印象に残らない薄っぺらい文章だが、なぜ返信をしないのかと必死に問いかける様子が、目に浮かぶようだ。
「余計なお世話かもしれないけどね……」
僕は飯田に成りすまして、HALのメールに、もう連絡できない旨を伝えるメールを打つ。
ホームに電車が到着し、風が僕の髪を撫でるのと同時に、僕は送信ボタンを押した。