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喫茶『Amulet』の日常  作者: 桐沢 綾
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クリスマス・ガール 12月19日

千鶴に社会の厳しさを教えるため、思い付きでタダ働きなんて言ったものの、最初からお給料は払うつもりでいた。


彼女の貴重な学生時代を無駄に浪費させるのも可愛そうだ。


土曜の朝、寒々とした部屋で布団の魔力に勝てぬまま、さていつまで彼女を雇おうかなんて考える。


「一応、受験生なんだよね……勉強とかちゃんとしてるのかな……」


親心……いや、ちょっと違うか。


彼女は後輩で……いろいろあったとは言え、やはりどこか、保護者目線で考えてしまう。


「……姉心?」


新たな言葉を作り、布団にうずくまる。


今日は一段と寒い、雪でも降るんじゃないか。


いくら張り切っている様子とは言え、こんな寒い日に朝から働きには来ないだろう。


今日の営業は午後からにしよう、お昼を過ぎても寒かったらもう休業にしよう。


経営者としての自覚が足りていないと言われても仕方ない。


もともとこのお店は、僕の祖父が趣味で始めたものだ。


高校卒業後は北海道の実家で親のすねをかじって生活しようと甘い考えを抱いていた僕は、学生時代に住んでいたこの家ごと店を継ぐことになった。


祖父は現在消息不明。


職業は冒険家……なのだそうだ。


そんな職種が国に認められているとは到底思えないが(僕も認めないし世間も認めなくていい)、世界中を飛び回っていた彼は莫大なお金と遺書めいた書置きを残して、二年間この店に帰ってきていない。


「……なにが、『働く気がないなら、暇な時だけでいいからこの店を開けてくれ、私が戻るまで店長はお前だ。それじゃあ、グッバイ』だよ」


書置きの内容はそれだけで、お金の心配はいらないぞとでも言いたげな、預金通帳と暗証番号が書かれている紙も、一緒に置かれていた。


……人生何があるかわからんね。


ニートまっしぐらだった僕が今じゃあセレブニートだ。


いやまあ、趣味で喫茶店員だけど。


……ばか。


祖父への想いを一言で表し、布団を頭からかぶる。


……朝からセンチメンタルだ、もう今日は駄目だ、閉店。


祖父へのあてつけと言わんばかりに英断し、今日は何をしようかと心躍らせていると携帯が鳴った。


「……はい」


『あ、青葉ちゃんおはよー、今店の前だよー、寒いからはやく開けてねっ』


それだけ言って、すぐに電話を切られる。


…………。


布団を被ったまま、一階へと移動する。


店に通じるドアを開けると、店の窓から千鶴が寒そうに飛び跳ねているのが見えた。


「…………何してんのあの子は本当に」


頬が緩んでいるのに気付き、気を引き締める。


一応、雇い主として会わなきゃ、かな?


そう思いながら、いかにも迷惑そうな表情を作って、僕は店のドアを開けた。


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