クリスマス・ガール 12月18日
「雪は、冬休みは実家に帰るの?」
学校からの帰り道、私は昨日からアルバイトを始めたというルームメイトの赤沢千鶴の店に連れられていた。
「うん、そのつもりだけど、千鶴は帰らないの?」
進学校で有名なうちの学園には、わざわざ県外から来る学生も多いため、寮に入っている生徒がかなり多い。
「帰るよー、やりたいこともあるからね。さ、ついたよ」
彼女が働着始めたという、駅から遠く、私たちの学校からも少し離れたところにある喫茶店。
千鶴が親しくしてた先輩がやっているお店とは聞いていたが、来たことはなかった。
二階建ての、西洋風の小屋を連想させるその建物は、一階の、おそらく店内の部分だけガラス張りになっており、窓際の席に座れば、この時間はきっと夕焼けがきれいに見えるのだろう。
「えっと、青葉先輩だっけ、私、話したことないんだけど……大丈夫かな……」
一度だけ面識はあるが、その時は挨拶しただけでまともに会話した覚えはない。
「大丈夫大丈夫、悪い人じゃないから」
笑いながら店内に入る千鶴の後ろをついて、私も店内に入る。
「青葉ちゃーーーーん、来たよーー」
カウンターの奥にあった扉を開け、中に向かって叫ぶ千鶴の横で、店内を観察する。
広く清潔な店内は、木製のカウンターや椅子、テーブルと、置いてあるものはどこか高級そうで、ただの一般人な私には場違いなのではないかと思ってしまう。
急がずゆっくりと、一定のリズムを刻む足音がした方向くと、腰まで伸びた白髪を黒いリボンで結んだ、白いワイシャツとパンツスーツに身を包んだ女性があらわれた。
どこか神秘的な彼女の雰囲気は、子供の頃に読んだ絵本に出てくる妖精かお姫様のようで、思わず見惚れてしまった。
「あら、お友達?前にも見たことあるな……」
彼女が私の方を見て言う。
「……あ、は、はい、あの、佐伯雪といいます」
思いっきり緊張しながら名乗ると、彼女は口元に手を当てて上品に笑った。
「初めまして……じゃないね、僕は岩永青葉、この店の店長で、千鶴の先輩……だから、君の先輩でもある、のかな、よろしく。」
手を差し伸べる彼女の意図がわからなくて、また動揺してしまう。
そしてそれは握手を求めているのだと気づき、また少し恥ずかしくなった。
「青葉ちゃん、猫被ってる?」
千鶴が言うと、青葉さんは微笑みを崩さないまま答える。
「被ってないよ、それよりどうしたの?今日は一応お休みってことにしておいた筈だけど」
「あー、今日はお客さん連れてきたから、とりあえずあと99人って事で」
そんなやり取りを見ていると、この二人にはどうやら並々ならぬ信頼関係があるのではないかと思ってしまう。
「はいはい、それじゃあ最初の一杯は僕のおごりにしておいてあげるよ、雪さん、何か飲みたいものはある?」
「え!?え、えっと……じゃ、じゃあ、コーヒーで」
「かしこまりました、適当に座っててよ」
いきなり話しかけられたから驚いた。
近くの席に腰かけながら、さっきの会話を反芻する。
99人……?
青葉さんがコーヒーを淹れてくれている間に、千鶴に聞いてみると、どうやらなかなか面白いことになっているようだった。
だが、無理難題に果敢に挑む彼女は、私と同い年には見えなくて、その精神には見習うべきものがあるなと感心する。
私も千鶴の為に何かしてあげよう……。
コーヒーのいい香りが漂って来るのを感じながら、さっそく私は具体案を練り始めるのだった。




