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喫茶『Amulet』の日常  作者: 桐沢 綾
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クリスマス・ガール 12月17日 夕方

学校が終わってすぐ、喫茶『amulet』へ向かった。


青葉ちゃんはバイトなんて雇うつもりもなかったのか、制服など用意しておらず(といっても彼女は普段ワイシャツにパンツスーツだから、制服に見えないこともないが)、代わりにシンプルなエプロンを手渡された。


「で、私何すればいいの?」


雇い主と使われる側という、完璧な上下関係が出来上がったというのに、相変わらず敬語は使わない。


青葉ちゃんには、いざというときしか敬語を使わないという、私の中でのルールがある。


敬語なんて、必要な時に勝手に出てくるものだ。


しかしこの熱意、働く気満々という私は、今ならどんな職務もこなせる気がした。


青葉は答える。


「特になし、お客が来たら注文聞いて、用意して、会計して、使った食器を洗うだけ」


「お客が来ない間は?」


「自由」


自由という言葉にこれほど困惑したのは、中学校の時「テーマは自由で、好きな絵を描いてください」と言われた時以来だ。


「それより、君はお客を集める方法を考えないと、無駄にただ働きすることになるよ?」


「うっ……」


手持無沙汰だった私に、青葉ちゃんの指摘が入る。


確かに、このままじゃ金欠だという問題は解決しない。


ここはなんとしても、頑張らなければ。


全ては、お金の為に。


ならばさっそく、学校に居る間に考えていたアイディアのうちの一つを、実行してみることにしよう。


「じゃあ、チラシでも配ってみたり」


この店は駅から少し離れたところにある、だから駅前の商店街にある喫茶店に行けば事足りるし、わざわざお茶しにここまで来る人も珍しいだろう。


だからこの店に必要なのは宣伝だと考えた、現状一番効果的ではないだろうか。


青葉はうんうんとうなずきながら言う。


「別にかまわないけど、そのチラシはだれが作るの?」


「……じ、自分のお店の為に頑張る青葉ちゃん、すてきだよっ!」


もちろん私が言い出したことなのだから、私もつくるけどね……。





二人してチラシを作ること三十分、あたりはだんだん暗くなってきた。


「最近、日が短くなったねえ……」


黙々と作業を進めていた青葉に話しかけてみる。


「そうだねえ……」


青葉は契約書のようにびっしりと文字で埋め尽くした紙とにらめっこしながら、顔も上げずに呟く。


「青葉ちゃん、私たちはお店のチラシを作っていたのでは?」


「そうだけど?」


青葉の手元にあるそれを見て、いったい何人がチラシと分かるだろう。


びっしりと細かい字で埋め尽くされたその紙は、怪獣の名前のようなものから、私でも知っているようなコーヒー豆の名前まで書いてある。


「……もしかして、お店にある豆の種類?」


「そうそう、珍しいのもあるし、コアな客が来るかもしれない。というか、この店に来るのは物好きだけだよ。」


自慢げに言う青葉を見て、ああそのチラシは力作なんだなあと思う。


でも……。


「ごめん、私なら例え街でそのチラシ受け取っても、裏に落書きして捨てる気がする」


だって、だってそうじゃない!


チラシってもっとこう……!


「ひどい……僕、一応千鶴に協力してるのに……」


「なんというか、変なとこで真面目だよね、青葉ちゃん……」


私は自分で作ったチラシを青葉に手渡す。


「こんな風に、わかりやすくこのお店の魅力を伝えなきゃ」


大きな文字で、わかりやすく地図も描いてみたそのチラシには、それなりに自信があった。


「へえ……」


少し感心した様子を見せる青葉に、どうだと自慢げになる。


そして青葉は言った。


「却下」


「なんでさっ!!!!!!」


本当に理由が思いつかない。


「なんだよ「美人店主と美人アルバイトの居るお店」ってよォ!!!!!!」


ああ、この店の数少ない魅力だというのに。


青葉ちゃんはその美貌を怒りに満ちた表情へと変貌させて叫ぶ。


「そ、それ以外もちゃんと見てよっ!」


「…………」


青葉は肩で息をしながら、再びチラシに目をやる。



そして……


「勝手に無料券とか作ってんじゃねぇよお前よぉぉぉおおおおお!!!!!ウチはファーストフード店じゃねえんだよぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!」


やはり彼女は叫んだ。


やっぱりマズかったか。


「いや、そういうのもいいかなーって……えへっ」


「却下しますっ!!!!!!!!」



そんなやり取りを経て、結局その日はチラシ作りだけで終わってしまった。



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