クリスマス・ガール 12月16日 夕方
学校が終わって、少し商店街をフラフラした後、私は喫茶『amulet』に向かった。
お客が入っているのをほとんど見たことないその店は、何故か潰れることなく、ひっそりと営業を続けている。
店主の岩永青葉とは、高校時代の先輩後輩の関係で、昔彼女に助けてもらって以来、それなりの友好関係を保っている。
一面ガラス張りとなっているその店の外から、カウンターでぼんやりとしている青葉を見つける。
「……ほんと、なんで潰れないんだろ」
潰れてほしいわけではないが、どうみても赤字だろう。
そんな店で雇ってもらえたりするのかと、今さらながら考えてしまう。
「……ま、行くだけ行ってみようか」
寒さに耐えかね扉を開けると、カランコロンと子気味良い音を鳴らす鈴が来客を告げる。
青葉は一瞬驚いたようにこちらを見たが、私の顔を見た途端、またぼんやりと空を見た。
「こんにちは、青葉先輩」
一応、今回は店の経営者としての青葉に用がある。
私と二つしか離れてないのに自分の店を持っているなんて、やはり尊敬に値する。
だからなのか、自然と「青葉ちゃん」ではなく、「青葉先輩」と呼んでしまった。
これは私の癖みたいなものだ。
「いらっしゃい」
いかにも気怠そうにそう言った青葉は、こちらに顔を向けたままカウンターに寝そべってしまった。
外の寒さから解放された私は、青葉ちゃんの態度もあってか、力が抜けた。
「あー、ホットココア一つ」
注文すると、再び驚いた顔をして、彼女はまじまじと私の顔を見た。
「……な、なに?」
たじろぎながら問うてみる。
「いや……客として来るなんて、珍しいこともあるもんだと思って…………」
し、失礼な……いや、確かに普段は注文したりしないで、おしゃべりだけして帰ることの方が多いけど……。
「……そんなときもあるよ」
適当に誤魔化すと、ふうんと興味なさげに反応してココアを準備する。
私はカウンター席に座って、青葉ちゃんが仕事するのを眺めてみる。
いかにも面倒くさそうだが、彼女は淀みない動作で手際よくこなす。
流れるような動きに、つい見とれてしまった。
「はい、お待たせしました、お客様」
少し冗談めいた口調で言うものだから、思わず笑ってしまう。
「ふふ、いただきまーす……」
何度か息を吹きかけ、口をつける。
口の中に広がる甘み、そして香り。
とても温かくて、冷え切った体はすぐにあったまりそうだ。
「それで、今日はいったいどうしたの?」
突然の問いかけに、少しビクッとしてしまう。
「ん……ちょっと、頼み事というか、相談事というか……」
素直に答えると、またかと言った顔をして、ふうとため息をつく。
「いいよ、言ってごらん」
彼女が優しく微笑むと同時に、私は少ないボキャブラリの中から言葉を選び始めた。




