2-21 想いの果ては、秋風に吹かれて
星さんが帰って、千鶴にメールした後、特にすることもなかったので、例の日記とやらを見てみることにした。
「人体蘇生ねぇ…………」
雅さんの夫、正臣さんだったか、へのポエム集とかだったらどうしようなんて考えながら、一ページ目をめくると、綺麗な字で彼を動かした動機が綴られていた。
八月十二日
今日は教団の集会があった。
教祖は俺の悩みを真摯に受け止めてくれた方だ、そしてその解決のヒントをくれるというのだから行くしかない。
深い悲しみの中にあった俺を救ってくれた方なのだ、新興宗教とはいえど、彼は紛れもなく本物だろう。
「もったいぶるなよ…………」
イラッとしながら読み進める。
八月十三日
昨日教祖から聞いたお言葉が事実なら、この想いは報われる。
だがそれはあまりにも、人の倫理に背いた行為ではないだろうか?
……いや、今さら彼を疑うのもおかしな話だ。
この想いが報われるなら、悪魔にも魂を売ろう。
「やっぱり、ポエム集なんじゃ…………。」
しかし読み始めたからには最後まで読もう、彼の想いに終止符を打ったのは僕なのだから、読まなければならない義務がある……気がする。
八月十四日
初めて人を殺した。
一度刺しただけで死ぬと思っていたものだから、起き上がった時は本当に心臓が止まりそうだった。
これでもう戻れない、二度と。
「…………。」
八月三十日
六人目をやった。
ふと、人の肉はどんな味がするのかと思い立ち、殺した男の指と、必要なパーツを持ち帰り、指だけ焼いて食べてみた。
焦げた臭いがとても印象的だったが、口の中に広がるねっとりした血液は、少し癖になりそうだ。
「……………………」
九月十日
彼の復活とは別に、個人的に人殺しをしたのは初めてかもしれない。
女性の肉は男の肉より脂肪分が豊富なのか、俺はこちらの方が好みかもしれない。
特に眼球の食感はゼリーのようで、今度は冷やしてから食べたいものだ。
九月三十日
やっと儀式に必要な分が揃った。
彼の弟は相変わらず元気で、殺すのが惜しくなってしまう。
だがここまでやったからには止まれない。
彼には犠牲になってもらおう。
十月一日
なぜ失敗したのか、見当もつかない。
このまま終わるわけにはいかない。
彼がよみがえるまで、何度も繰り返して見せる。
そして彼と、結ばれるのだ。
飛ばし飛ばし読んだが、もしかして今回が初めてじゃないのか……?
それに、かりばにずむ……?いや、かにばりずむだっけ……?
食人って……。
まさしく異常そのものだ。
十一月二日
もう何人手にかけ、何人食ったかもわからない。
本当はもう、彼のこともどうでもいいのかもしれない。
ただ殺すことに夢中になっている気がする。
また一人手にかけたが、今度からは殺し方にもこだわってみよう、最近マンネリ気味だ。
十一月十三日
医者でよかったと思うのは、解剖学の知識が得られたってことだ。
おそらくほとんどの部位を食べた。
殺すことにも、食べることにも、最近は喜びを隠せない。
きっと俺は選ばれた人間なのだ。
彼を復活させられたなら、今度は女性の体で試してみよう。
そして彼と、一つになろう。
「…………。」
ちょっと外の空気を吸ってこよう。
吐き気がする。
病院の中庭で、ベンチに座って空を見る。
晴れ渡る空は、こちらの気持ちにはやはりお構いなしだ。
「……何を思ったか、女性の肉が旨かったから、今度は女性で人体蘇生とでも思ったのかね」
思いつきだが、当たらずとも遠からずってとこだと思う。
…………。
秋風を感じながら、悲しい彼の想いを感じる。
…………。
「そんなに結ばれたきゃ、お前がソイツのとこに行きゃあ良かったんだ」
……………………。
彼の想いに巻き込まれた人々を想うと、やはり彼は身勝手だったのだと思う。
僕が手を下したのは正しかったのかはわからない。
でも、きっと誰かが彼の間違いを正す必要があったのだろう。
「……後味の悪い事件だな」
そう独り言ちて、僕は冬の訪れを告げるかのような、冷たい秋風に吹かれていた。
第二章 完




