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喫茶『Amulet』の日常  作者: 桐沢 綾
第二章
28/50

2-18 決着

ふらふらする……。


頭が痛い、吐き気も酷い。


耳の傍で心臓が鳴っているかのような錯覚を覚えながらも、何とか状況を把握する。


しまった、ここまでは考えてなかった。


僕は物凄くお酒が弱い、普段は全く飲まないが、彼女を呼び出すにはお酒が必須条件という、訳の分からない縛りで、仕方なく飲んでいる。


おかげで、彼女に体を委ねた後は、それはもうひどい二日酔いに悩まされる。


千鳥足になりながら工藤に歩み寄る。


足にカツンと何かが当たる。


見るとそこには、血の付いたサバイバルナイフ。


ちょうどいいや……。


吐きそうになりながらもなんとか拾い上げ、思い切り自分の太ももに突き刺す。


「っ……」


痛みをまったく感じないが、じきに酔いも醒めてくれるだろう。


やっとの思いで工藤の前に立つと、工藤は脇腹をおさえながら焦点の定まらない瞳で空を見つめていた。


工藤の顔を蹴りつける。


工藤も僕もよろけて倒れるが、工藤は立ち上がろうとしない。


……いったい何をしたんだか。


確かに抵抗できないようにしてくれと頼んではいたが、廃人寸前の人間を殺すのは、何というか……。


血の付いたナイフを握り、工藤に跨る。


肩を刺すと、彼は正気に戻ったようだった。


「っぐ……うぅ……」


喘ぐ工藤を無視して問いかける。


「聞きたいことがあるんだけど」


「…………」


どうやらもう何もかも諦めたようだ。


僕は工藤の目にナイフを突き刺した。


ぬるりと入り込む感触は、あまり気持ちのいいものではなかった。


「あああああああああああああああああ!!!!!!」


僕の下で体を跳ねさせ暴れるも、うまく力が入らないのか、それとも最初からあきらめているのか、逃げようとはしなかった。


再び問う。


「お前、さっき自分で連続殺人犯とか言ってたけど、なんでこんなことしたんだ」


荒い息遣い、額から滲む脂汗。


彼はこんなことを何のために、何度繰り返したのか、殺すか決めるのはそれを知った後でいい。


「……人体……蘇生」


「……は?」


苦しげな声で答えられたのは、あまりにも常識と乖離した単語だった。


「昔の……想い人を……柊 正臣を…………よみがえらせたかった……」


…………。


血と涙の入り混じった液体が、彼の頬を伝う。


「まさおみ……って、男の人の名前みたいだけど……」


しかし彼は想い人と言った。


「……そうだよ、男だ……、柊 雅の、夫だ…………」


……………………。


「ええと……あなたは男で、それでも、男の方がお好きな、いわゆる、同性愛……?」


なんとか頭を整理して、言葉にしてみる。


「……そうだよ、笑えよ、構うもんか」


誇らしげに、しかしどこか自嘲的な笑みを浮かべて言う。


「それじゃあ……あそこにある人の形をしたものは……依代ってとこか……」


そんな魔術じみたことには詳しくないが、僕が解釈するなら依代が適切だろう。


「……あとは、正臣の……血縁の者の心臓と……遺品が……必要だったんだ」


それでか……。


いや、理解したけど、同情はできない。


楓ちゃんが僕のズボンをつかんでいたのを思い出す。


小さな手、とても愛おしかった。


雅さんが僕を抱きしめてくれたのを思い出す。


あんな細い腕で、楓ちゃんを守ってきたのだ。


「そう……それだけわかれば十分だ……」


僕はナイフを彼の首にあてがう。


楓ちゃんを殺そうとしたこの男を。


雅さんを傷つけたこの男を。


僕はやっぱり、許せなかった。


ナイフを振りぬく。


噴き出す鮮血は人の温かさを持っていて、彼はやはり人間だったのだと実感させられる。


鮮血にまみれた彼の顔は、血の涙を流しながらも、どこか満足げだった。



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