2-17 準備
「よ……っと」
胸に深く刺さった得物を引き抜きながら立ち上がる。
緑の狐火で傷口を炙りながら、状況を観察する。
男はこちらを見たままぽかんと口を開けて硬直している、まあ無理もないだろう。
「これは使うかねえ……」
独り言ちながら得物を床に放る。
それがカランと乾いた音を立てたるのと同時に、私は男に飛びかかった。
鋭く尖る爪で、腹部を抉り取る。
ぶちぶちと肉の裂ける音が、彼が人間なのだと実感させる。
こんなにも新鮮な体を裂くのは、本当、何百年かぶりだ。
「どうしたの?もっと楽しませてくれていいんだよ?」
けらけらと笑いながら、握った肉片を灰にする。
おそらく声も出ないのだろう、男は戦意を失ったとでも言うような顔をして、こちらを見ている。
私に対峙した人間は、大きく分けて二通りの反応を示す。
恐怖で逃げるもの。
自分の実力を知ってか知らずか、立ち向かって来るもの。
そして最終的にそのどちらも、結局は戦意を失って、恐怖に怯えるのだ。
これじゃあ私が悪者みたいだ。
最初に襲ってきたのはそっちだというのに。
「和菓子屋、私が倒れてた間にケガとかしてない?」
突然の出来事に驚いていたのだろう、茫然としていた和菓子屋に声掛けする。
「え、ええ……」
「そ?ならいいや、ごめん、ちょっと眠っててね」
そう言って私は白い狐火を出す。
一瞬強く光ったそれは、次の瞬間には消滅して、網膜に影を落とす。
和菓子屋が眠ったのを確認し、私は依代に体を引き渡した。




