2-16 覚悟
真っ白な空間で目覚める。
何もなく、どこか寂しく見える空間なのに、どこか暖かく、そして懐かしい空気が僕を包む。
「久しぶり」
背後から声をかけられる。
振り向くとそこに彼女が居た。
「!?」
「そんな驚かないでよー!私と話すのは初めてじゃないでしょ?」
腰まで伸びた金髪をなびかせ、人懐っこい笑みを浮かべる彼女。
面妖な雰囲気に包まれ、浮世離れした様子の彼女は、何度も僕を助けてくれた。
彼女の妖怪としての名は、白金という。
先代からずっと、僕の家系の白髪を引き継ぐ長女とのみ契約関係にあった妖狐。
ええと、会うのは三度目だが、それは彼女が僕の母に入った時に話であって……。
「本体と会うのは初めてなんだけど……」
「あれー、そうだった?」
狐の耳をぴくりと動かし、大きな尻尾を揺らしながら彼女は言う。
「それよりさー、あの人は何?倒しちゃってもいいの?」
「それは……」
正直、勢いで彼女に任せたところもあった。
その結果雅さんと楓ちゃんが無事なら構わないと思った。
だがそれは、やはり無責任だと思う自分も居て、迷っていたのも事実だ。
結果的に雅さんを傷つけることにもつながってしまったし、自棄になっていた。
「いっつもみたいにやり辛いんだよねー、ほら、やっぱり私も妖怪相手は慣れてるけど、人間相手はこのご時世に不味いかなーって」
「ごめん、正直、丸投げした……」
素直に謝ってみる。
「うわ!ひどい!」
「それより、今どうなってるの……?」
一番気になっていたことだ、雅さんはケガしていたし、白金が出たなら工藤も無事では済まないだろう。
「んー?とりあえず和菓子屋の傷は治したよ、その子供も無事みたい。でも、私はこっちに移る前に刺されたっぽい」
「えっ……刺されたの?」
相手は人間のはずじゃ……。
「昔なら、私も殺したりできたけど、さっきも言ったじゃない、このご時世でそれはマズいって」
「だから襲ってきた時に蹴り飛ばすくらいに留めといたのが、起き上がってさしてきたの」
あっけらかんと言う、しかし彼女は真剣な顔つきになって続ける。
「本当に殺す覚悟があるなら、やるよ?」
「……っ」
何も言えない。
正直、全部丸投げしたのは都合がよすぎたと思う。
だからこそ彼女は、やった後の責任を問われる僕にその覚悟を問うたのだろう。
彼女は独断でそれをすることもできたのに。
それは彼女の優しさだ。
「それは……」
工藤が雅さんを刺したとき、こいつを殺してやりたいと思った。
二度目に雅さんが、僕の愚かさゆえに刺された時も、そう思った。
だから白金に丸投げして解決を試みたが、それは甘かった。
僕の意思でなく、白金の意思と思うことで、殺人の罪悪感から逃れようとしていたのかもしれない。
「僕は……」
白金は何も言わず、ただ僕の答えを待っている。
これ以上誰かが傷つくのは御免だ。
なら…………。
僕が答えると、白金は優しくふふと笑って消えた。
そして再び僕の意識は闇の中へと落ちていった。




