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喫茶『Amulet』の日常  作者: 桐沢 綾
第二章
26/50

2-16 覚悟

真っ白な空間で目覚める。


何もなく、どこか寂しく見える空間なのに、どこか暖かく、そして懐かしい空気が僕を包む。


「久しぶり」


背後から声をかけられる。


振り向くとそこに彼女が居た。


「!?」


「そんな驚かないでよー!私と話すのは初めてじゃないでしょ?」


腰まで伸びた金髪をなびかせ、人懐っこい笑みを浮かべる彼女。


面妖な雰囲気に包まれ、浮世離れした様子の彼女は、何度も僕を助けてくれた。


彼女の妖怪としての名は、白金(しろかね)という。


先代からずっと、僕の家系の白髪を引き継ぐ長女とのみ契約関係にあった妖狐。


ええと、会うのは三度目だが、それは彼女が僕の母に入った時に話であって……。


「本体と会うのは初めてなんだけど……」


「あれー、そうだった?」


狐の耳をぴくりと動かし、大きな尻尾を揺らしながら彼女は言う。


「それよりさー、あの人は何?倒しちゃってもいいの?」


「それは……」


正直、勢いで彼女に任せたところもあった。


その結果雅さんと楓ちゃんが無事なら構わないと思った。


だがそれは、やはり無責任だと思う自分も居て、迷っていたのも事実だ。


結果的に雅さんを傷つけることにもつながってしまったし、自棄になっていた。


「いっつもみたいにやり辛いんだよねー、ほら、やっぱり私も妖怪相手は慣れてるけど、人間相手はこのご時世に不味いかなーって」


「ごめん、正直、丸投げした……」


素直に謝ってみる。


「うわ!ひどい!」


「それより、今どうなってるの……?」


一番気になっていたことだ、雅さんはケガしていたし、白金が出たなら工藤も無事では済まないだろう。


「んー?とりあえず和菓子屋の傷は治したよ、その子供も無事みたい。でも、私はこっちに移る前に刺されたっぽい」


「えっ……刺されたの?」


相手は人間のはずじゃ……。


「昔なら、私も殺したりできたけど、さっきも言ったじゃない、このご時世でそれはマズいって」


「だから襲ってきた時に蹴り飛ばすくらいに留めといたのが、起き上がってさしてきたの」


あっけらかんと言う、しかし彼女は真剣な顔つきになって続ける。


「本当に殺す覚悟があるなら、やるよ?」


「……っ」


何も言えない。


正直、全部丸投げしたのは都合がよすぎたと思う。


だからこそ彼女は、やった後の責任を問われる僕にその覚悟を問うたのだろう。


彼女は独断でそれをすることもできたのに。


それは彼女の優しさだ。


「それは……」


工藤が雅さんを刺したとき、こいつを殺してやりたいと思った。


二度目に雅さんが、僕の愚かさゆえに刺された時も、そう思った。


だから白金に丸投げして解決を試みたが、それは甘かった。


僕の意思でなく、白金の意思と思うことで、殺人の罪悪感から逃れようとしていたのかもしれない。


「僕は……」


白金は何も言わず、ただ僕の答えを待っている。


これ以上誰かが傷つくのは御免だ。


なら…………。


僕が答えると、白金は優しくふふと笑って消えた。


そして再び僕の意識は闇の中へと落ちていった。



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