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喫茶『Amulet』の日常  作者: 桐沢 綾
第二章
24/50

2-15 私、参上

重く暗い感情に誘われながら、金髪をなびかせ、私は白煙を放出する。


依代ちゃんはどうしたというのかねぇ……。


いつもはピリピリした感情でこちらに誘われるが、今日のは別だ。


そこにあるのは純粋な殺意だけで、普段は表れた私が対峙した妖怪に向けられている物だ。


腹部にちりちりとした違和感を感じ、そこに触れると、指には真っ赤な血が

付着していた。


鋭く伸びた爪で再び傷口を、今度はえぐるように深く触り、指先をじっくり舐めてみる。


「妖気は感じないが……どういうことかね……」


見当もつかないが、もらった分の仕事はしよう。


「ん……?煙がなかなか消えないぞ?」


まさか密室だったのだろうか、普段は屋外だからこんなことは初めてだ。


「まあ、こんなこともあるよねえ……」


気を取り直してポケットをまさぐると、何やら異常な妖気を放つ小袋が入っていた。


タバコに火をつけながらそれを観察する。


「マンドラゴラ……?」


依代の娘、確か青葉といったか、彼女がよくこういうものを持ち歩いているというのは私も知っていた。


というのも、この姿になってタバコを探す度にこういうものを見つけるからだ。


「ということは、やっぱり今日の相手もお仲間……?」


なかなか晴れない煙に苛立ち、突風を発生させる。


「きゃあっ……!」


「わっ!」


「うっ!」


三者三様の声の主たちは、煙の中から出てきた私に驚いたようで、間の抜けた顔をしている。


その中で一際、私の目を引いた黒髪の和服姿の女。


彼女からは、私がよく好んで食べる桜餅の香りがした。


獣の耳をぴょこんと跳ねさせ、尻尾を振りながら女に近寄る。


「まさか、和菓子屋!?」


私の問いかけに困惑した様子。


「いつも依代……青葉ちゃんが世話になっているみたいだね、貴女の桜餅、私の好物なの、これからもよろしくしてやってね!」


ケタケタと笑いながら、得物を持った男に近寄る。


和菓子屋の肩に刺さった物と同じ物を持っているということは、この男がやったのだろう。


そして私の腹部もきっと、この男が。


しかし、まだよく状況が呑み込めない。


「君、妖怪じゃないよね?」


私が問うと、男は再び間の抜けた表情になった。


「なんだ、なにかしやがったのか、幻覚か?ああ!?」


何やら頭に血が上っている様子。


これは話もできそうにない。


男は得物を振り上げ私に切りかかった。


幾千の兵を相手にしたことのある私でなくともわかる、この男は弱い。


軽やかな動作で避けると、男の腹部に蹴りを入れる。


壁にあたって情けない呻き声を上げたかと思うと、ピクリとも動かなくなった。


うん、やっぱり人間の体はいい。


何がいいって、胴体から手足が長く伸びてるのがいいね、蹴りの楽しみが増える。


「あの……」


そんなことを思っていると、和菓子屋が話しかけてきた。


「どうしたの?」


「青葉ちゃん……なの……?」


まさか、依代の娘は何も説明していないというのか。


先代から数えて二十五代、こんなことは初めてだ。


「そうだねえ、そうともいうし、そうでないともいうね」


適当にはぐらかす。さすがに私も戸惑ってしまった。


「そうだ……和菓子屋、肩を見せてみて」


得物の刺さった肩は、いくらあんなに短いとは言え痛そうだ。


「ちょーっと我慢してねー」


一気に引き抜く。


「っあ!……っっ……」


悲痛な呻き声に心が痛む。


「ごめんねえ……こうしないと、そのまま治っちゃうから……」


そう言って私は、十二の狐火を召喚する。


色とりどりの狐火は円形に等間隔に並ぶ。


その中から緑の狐火を飛ばし、和菓子屋の傷口を炙る。


「えっ……!?え……!?」


困惑しているようだ、依代が何も説明していないのを察するに、和菓子屋は妖怪のことも知らないのだろう。


「他に痛いところはない?ちなみにこれ、肩こりにも効くからね」


緑の狐火は治癒の炎、あまり使う機会はないが、依代と共闘することもあったのでそんな時のために用意したものだ。


「待って、その前に……」


そう言って和菓子屋は立ち上がった。


床に倒れた子供に駆け寄り、脈をとるなどしている。


「娘さん?」


「ええ、たった一人の家族なの……よかった、ケガは無いみたい……」


安堵の表情にこちらの頬も緩んでしまう。


「それじゃあ、お腹もお願いできるかしら……?」


申し訳なさそうに、だが信頼しきった様子で言われる。


「はいはい、おまかせあれー」


同じように炙り、完治させる。


これで私の仕事は終わりだろうか、体を引き渡そうかと迷っていると、再び男が動き出すのを、視界の隅に捉えた。




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