2-14 失敗
持ち物を確認したところ、幸いにも財布やマンドレーク、酒の入った小瓶は残っていた。
もしも、工藤がまた襲ってきたら、いやまあ間違いなく戦わなきゃいけないし、そうでもしなきゃ無事に帰れないから、絶対闘うことになるんでしょうけど……。
「それにしても、こんな密室で蝋燭何本も燃やすとか、酸欠になったりしないか……?」
むしろいままでよく無事だったと思う。
「……ん」
そして雅さんは相変わらず具合が悪そうで……って、まさにそれは酸欠なのでは……?
妖怪の力を借りれば、壁を壊して外に……いやまて、扉もないのだ、もしかしたらここは屋根裏部屋……?
この蒸し暑さだ、地下ではないだろう。
「とすれば出口は……下?」
床を見渡すが、一面コンクリートタイルが敷き詰められているだけだ。
焦りに冷静さを欠いていると、天井の一部分が開き、そこから梯子が下りてきた。
「マズっ……」
僕は雅さんに小声で「何があっても動かないよう」言い含め、自分たちが倒れていた位置に再び寝ころんだ。
片目だけ開けて梯子があるあたりを見ると、気を失っているのか、楓ちゃんは工藤の腕に抱えられ、だらりと脱力した様子だった。
良かった、無事みたいだ……。
僕は小瓶を握りしめ、寝たふりをしつつ、音に集中する。
どさっと床に何か置く音、おそらく楓ちゃんだろう。
そしてこちらに歩み寄る足音……。
足音が僕の真横で止まったかと思うと、腹部に鈍痛が走る。
「……っふ!……ゴホッ」
思わず咳き込む。
恨みがましく工藤を睨みつける。
手には先ほどのサバイバルナイフが握られていた。
追撃を仕掛けてくるかと思って身構えたが、工藤はそのまま雅さんを蹴り飛ばした。
「雅さんっ!」
蹴られた雅さんは小さく咳き込む。
「お前らにいいものを見せてやるよ」
工藤は心底楽しそうに言った。
楓ちゃんに歩み寄り、僕たちにしたように容赦なく蹴り飛ばす。
「お前っいい加減にっ……!」
つい頭に血が上ってしまった。
「ぅ……」
小さくうめいた楓ちゃんを確認して、工藤はこちらに歩み寄る。
そして再び容赦なく、今度は顔面を蹴りつける。
「っは……」
すっごい痛い……。
しかし腕は動かさない、縄がほどけているのは気取られてはならない。
工藤を睨みつけると、彼は厭らしい笑みを浮かべていた。
「お前ら、俺が最近世間を賑わせている殺人犯だったら、どうするよ……?」
下衆な婦女暴行犯に誘拐されたと思っていたら、そっちでしたか。
いざとなれば妖怪になる、そう決めて啖呵をきる。
「だからなんだよ下衆野郎、楓ちゃんに手出ししたら、僕が許さないからな」
そう言うと、工藤は気持ち悪い笑みで満足そうにうなずいた。
「そうかそうか……」
「じゃあ、お前は最後だなあ……」
工藤は手にしたナイフを雅さんに向けて放った。
一回転もせず、綺麗に刃先が雅さんに向いた頃、ソレは音もなく雅さんの肩に突き刺さった。
「お前っ……!」
僕が叫ぶと彼はまた厭らしい笑みを浮かべる。
「お前はさっき、楓ちゃんに、といったからなあ……?」
「あ……っぐぅ……」
工藤は肩に刺さったナイフを踏み、深く差し込む。
雅さんの苦しげな声を聞く。
僕のせいだ。
工藤がこの部屋に入った時こそが最大のチャンスだったのだ。
慎重すぎたのがいけない、おかげで雅さんが傷つく羽目になった。
人間相手に妖怪の力を使って倒すのは、きっとマズい。
殺してしまうかもしれない。
だがもう、いいだろう。
ふらりと立ち上がり、瓶を開ける。
工藤は、縄がほどけていたのも分かっていたかのように、にやけたままこちらを見ている。
僕は一気に酒を飲みほし、彼女に身を委ねた。




