1‐1 調査開始
千鶴に詳しい話を聞いてから、高校時代の友人に連絡して飯田の住所や最近の事などを教えてもらった。
幸い、飯田のアパートの最寄り駅には電車一本で行けた。
彼はスポーツ推薦かなんかで進学したらしいが、実家が都内にあるのにわざわざ一人暮らしとは、しかも割と近いし、奇妙な縁を感じてしまった。
「ここか」
閑静な住宅街の中にひっそりとそびえ立つ古びた二階建てのアパート、所々ヒビが入り、塗装の剥げているところも見える壁も相まって、どこか不気味だ。
「ええと……101号室だから……うっわ!」
101号室の郵便受けにはチラシがこれでもかという具合に詰め込まれていた。
「これは居ないでしょうよ……さすがに……」
居るならこんなになるまで放置しないもんね。
しかしこのまま帰るのもバカらしい、一応呼び鈴を鳴らしてみる。
「…………」
何も反応がない、窓から入れるだろうか・・・・・・。
隣家との間に建てられたコンクリート塀とアパートの隙間を通り、裏側に回ってみる。
アパートの裏とコンクリート塀の間には、庭と呼べなくもない空間が存在していた、生い茂った雑草と土の香りがこのアパートの寂れた印象を強くする。
窓に目をやると、カーテンこそ閉まっているがカギはかかっておらず、網戸を開ければ侵入可能だった。
中に入ると、家主不在にもかかわらず電気がつけっぱなしの状態である、隣人の生活音すら聞こえないこの部屋で耳に入るのは外でカラスが鳴く声だけだ。
体育会系男子の一人暮らしなんてきっとごちゃごちゃだろうと思ったが、意外にも掃除の行き届いた部屋だ、ほんの少し汗の香りがするのが気になる所だが。
しかし、まだ夕方のこの時間に電気がつけっ放しであることを除けば、ついさっきまで人がいたと言われても不思議ではない部屋だ、テーブルの上には携帯電話やテレビのリモコン、財布まで置いてある。
あまり長居するのもよくないだろう、手掛かりになりそうなものだけ持って部屋を後にした。