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喫茶『Amulet』の日常  作者: 桐沢 綾
第二章
13/50

2‐4 そして一日の終わり

すっかり暗くなった街を歩き、夜風を感じつつ店に戻ると、千鶴がカウンターで何やら作業しているのが見えた。

「勉強でもしてるのかな……」

ドアを開けると、ドアにつけた鈴が鳴る。

この店を継ぐにあたって、「それっぽいかなー」なんて気持ちでつけたものだが、僕が店主になってからは鳴る機会は少なかった。

鈴の音に反応した千鶴がこちらを物凄い眼光で見る。

「ひいっ……」

「……おかえり」

思ったより普通の反応。

「た、ただいま……あの、これ、えっと、買ってきたやつ……」

そう言って雅さんの店で買ったお菓子を差し出す。

「……何してたの?」

「ち、ちょっと、寄り道を……して……ました……」

いつも元気な千鶴があまりにも普通なトーンで話すものだから、それだけでいつもと違う迫力がある。

「まあ、私受験生だし?ここ静かだから集中できるけど、さすがにおなかもすく訳ですよ」

いろいろとありすぎて、千鶴が僕に敬語を使うことは少ない。

それは親しさの表れであり、だからこそ、彼女が敬語を使うのは何か僕にとって都合の悪い頼みごとをする時か、本当に尊敬されているような時だけだ。

そして今回のように、物凄い怒りを内に秘めた時も彼女は敬語を使うのだと、この時初めて知った。




喫茶『amulet』の二階は僕の居住スペースとなっている。

一般家庭の居間を想像してもらえればいいだろう。

ソファーがあって、ガラス張りのテーブルがあって、ちょっと大きめのテレビがある。

「まったくもう……本当にもう……」

千鶴はテレビのリモコンを操作しながらソファーにドカッと座り、ぶつぶつと文句を言いながらどら焼きを食べる。

「いやもう……その……楓ちゃんが本当に可愛くってですね……」

何を言っても許されないと分かった僕は正直にすべてを話した。

「"アレ"絡みで何かあったんじゃないかって、すごく心配したんだから」

「本当、申し訳ないです……」

結局楓ちゃんとゲームで対戦し、なかなかいい勝負だったため熱中してしまった。

ストファイで小学五年生女子に負ける日が来るとは思いもしなかった、今度はアーケードスティック持っていこう……。

テレビでは連続女性殺人事件のニュースが流れている。

「もういいよ、何事もなかったんだし、それよりこのニュース、"アレ"絡みなのかな」

心底機嫌が悪そうに言う。

「え……今のところなんとも……」

正直な感想だ。

ニュースで流れた情報を整理する。

ここ近隣の女性のみ連続で襲って、かつ残虐な手段で殺して。

場所は様々。遺体の一部だけ見つからない。犯行時間は夜だけ。

うん。そんな妖怪知らない、僕の知識が少ないだけかもしれないけど。

昔なら人身御供で女性を生贄にして、なんてこともあっただろう。

今はそれがないから、その風習が廃れた結果妖怪が自主的に襲うようになった?

いや、推測の域を出ない。

なにより、人身御供ならまずこの地域に甚大な被害があるだろう、飢饉とか。

……まあ、この時代に飢饉はないか……。


僕の回答に満足したのか、千鶴は心底安心したようだった。

そして千鶴は何個目かもわからないどら焼きに手を伸ばし……

「おい」

「ん?」

何にも悪びれた様子もなく反応する。

「僕、一個も食べてないんだけど……」

「桜餅、残してあるよ、一個だけ」

一句読んだ千鶴はまた一つどら焼きを食した。

「まあ、お詫びってことにしておこう……」

「ふふん」

満足げな千鶴に、声をかける。

「今日は泊まっていきなよ」

「そうするよ、うちの学生寮、門限とっくに過ぎてるし」

そうしてふたりで和菓子の袋の残骸を片付ける

ふと思い立ち、お菓子が入っていた袋を除くと、桜餅は本当に一つしか残っていなかった。

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