2‐3 一家団欒
雅さんの料理は絶品だった。
煮物とお味噌汁、白米にお漬物、そして焼き魚。
特に煮物、あれはここ5年で食べたものの中では一番おいしかった。
お味噌汁もダシがきいていて、口に入れた瞬間の衝撃がまだ残っている。
飲み込んだ時に体の中に広がる熱も、料理を作った人の温かさが伝わるかのようで幸せな気持ちになった。
「ご馳走様でした……。もう死んでもいい……。」
「なに物騒なこと言ってるの……、お粗末様でした。」
「いやあ本当に、大袈裟かもしれないですけど、もう、今幸せすぎて……」
「嬉しいけど、褒めすぎよ」
「いえ、もう、はい……」
呆れたように微笑む雅さんは、テキパキとお皿を片付けてゆく。
「あ、片付けなら僕が」
「いいのよ、お客さんなんだからゆっくりしてなさいな」
「ああ……なんかもう本当に何から何まで……」
「ふふ……楓も、早く食べちゃってね」
「うー……お魚、嫌い」
焼き魚だけ残して箸が進まなくなっていた楓ちゃん、さっきからずっと無言だったな……。
「楓ちゃん、お魚嫌いなんだ?」
「うん……お刺身は好きだけど……」
なんだその理屈。
「なにが違うというのか……」
釈然としないという顔をしていた僕に、雅さんが説明してくれる。
「ああ……楓は昔、小骨が喉に刺さって、それから焼き魚だけ嫌いになっちゃったのよ……」
「あー……」
「私としては、あまり好き嫌いはしてほしくないし、骨もちゃんととれば大丈夫だって言っているんだけどね……」
「…………」
無言の楓ちゃん、強情な子だ。
「よしわかった、お姉ちゃんが骨だけ取ってあげるから、食べよ?」
「青葉ちゃん、それじゃこの子の為にならないわ、自分で克服しなきゃ」
スパルタだ、いや、まあ当然といえば当然だが。
しかし何かしてあげたい、そう思って僕は雅さんに耳打ちした。
「え……それなら、まあ、いいかな……」
許可も取れたので、僕は楓ちゃんに向き直る。
「よし、それじゃあ楓ちゃん、上手な骨の取り方を教えてあげよう」
「ほんと……?」
「うん、まずは……」
そんなこんなで、楓ちゃんはおいしく焼き魚を食べ終えた。
「ごちそーさまー!」
「おそまつさまでした、ありがとうね、青葉ちゃん」
「青葉姉ちゃんありがとー!」
「いえいえ……、あ、そうだ、僕ちょっと電話してきますね」
「あら、ここでしてもいいけど」
「いえ、長くなるかもしれないので」
そう言って居間を出た。
アドレス帳から目的の番号を見つけ、電話をかける。
呼び出し音が鳴ったかと思えば、即座に赤沢千鶴の声が聞こえた。
「青葉ちゃん今なにしてるのさ!どこにいるの!」
いらだちを隠せない、そんな様子の声が響く。
「うっ……ごめんなさい……」
「もー!お客さん来ないし宿題終わっちゃったし暇なんだけど!」
よく考えれば三時間以上放置しっ放しだった。
「ごめんごめん……」
「まあ、前に助けてもらったし、店番するくらいいいんだけどさ!お菓子買いに行って三時間も戻ってこないって!心配するじゃない!」
「本当……何と言っていいやら……」
「もー……で、今どこで何してんの……」
言いたいことは言ったのか、怒りはおさまったようだ。
これなら少しくらいふざけても大丈夫だろうか……。
「や、焼き魚の食べ方講座……」
「ふざけてる?」
普段の千鶴からは想像できないような冷たい声に背筋が凍る。
「ごめんなさいすぐ帰ります」
そう言って即座に電話を切り、電源も切った。
居間に戻ると、待ちくたびれたという様子の楓ちゃんに捕まった。
「青葉姉ちゃん、ゲームしようよ!」
「んー?いいよー」
まあ、ちょっとくらいなら……いい、よね?
食器を洗いながら暖かく見守る雅さんと無邪気に笑う楓ちゃん。
この二人が喜んでくれるなら、僕は少しくらい千鶴に怒られるのもいいだろう、なんて思ってしまった。




