2‐2 ご近所の仲のいい家族と僕と
11月も中盤に入り、世間の長袖人口が増えたころ。
僕は相変わらず、いつもと変わり映えのしない喫茶店員風の服装(ワイシャツ黒パンツスーツ)で、近所の商店街の和菓子屋に入った。
引き戸を開けると香る、いつもと変わらぬ抹茶の香りがこの店に来たことを実感させる。
行きつけであるその店の店主は、やはりいつものように着物に身を包み、和風美人と称するににふさわしい黒髪を腰まで伸ばして、椅子に腰かけぼうっとしている。
「あ、いらっしゃい青葉ちゃん」
店主の雅さんは僕に気付くと、柔和な笑顔を浮かべた。
「どうも、儲かってます?」
「ええ、まぁまぁってところかしら。青葉ちゃんは?」
「……右肩下がりってとこですかね」
自嘲的な笑みを浮かべ、視線をそらす。
「ふふ、ええっと、今日は桜餅と、あと何にするの?」
ここまでいつも通りのやり取りだ。
「そうですね、じゃあどら焼きをください、なんか今日はそんな気分なんで」
「ふふ、かしこまりました、ちょっと待っててね」
手際よく注文したものをまとめ、小分けされたお菓子を丁寧に包む。
そんな雅さんの洗練された動きを後ろから眺めるたび、うなじエロいなどと思ってしまう。
同性である僕ですら欲情してしまいそうなのだ、男性が見たらと飛びかかるに違いない。
そうそう、この前地元である北海道に帰省した時、急に温泉に行きたくなって、わざわざ宿に一泊した時も仲居さんの和服姿に見とれてしまったんだったっけ。
そんなことを思い出して、僕は手に持っていた白い袋を思い出す。
「ああそうだ、忘れてた。雅さん、これ娘さんと一緒に食べてください、お土産です」
「あら、唐突ね?旅行でもいってきたのかしら?」
「ええ、ちょっと地元に帰ってまして」
「いつも悪いわね、ありがとう」
「いえいえ、お互い様ってことで」
いいもの見せてもらいましたからね。とは言わず、和服姿の雅さんに見入っていると、店の戸が開いた。
「あ、青葉姉ちゃん、いらっしゃい!」
元気な声が響く。
いらっしゃいと言うからには、彼女もまたこの店の一員である。
声の主は雅さんの一人娘、楓ちゃんだ。
「おお、楓ちゃん、お帰りなさい」
「ただいま!」
「楓、お帰りなさい」
「母ちゃんただいま!」
雅さんとは対照的に、元気の塊のような娘だ。
その小さな体のどこにそんなエネルギーがあるのか、少し分けてほしい、お姉さんはもう歳だから。
「お待たせしました、青葉ちゃん。ちょっとサービスしておいたわ」
「わ、なんか申し訳ないです……でもありがとうございます」
「それじゃあ……二千円ね。いつも思うけどよく食べるわねえ……」
「……育ちざかりなんで」
二十歳だから嘘ではない。二十歳だから。
「青葉姉ちゃん帰っちゃうのー?」
「んー?楓ちゃんが可愛いからまだ居ようかなあ」
なんて口説いていると、当然のように雅さんから静止がはいる。
「こら楓、青葉ちゃんに迷惑でしょ?」
雅さんにたしなめられ、楓ちゃんは少しだが落ち込んだ様子を見せる。
「……青葉姉ちゃん、迷惑?」
「大丈夫!大丈夫です!迷惑じゃないです!」
居ようじゃないですか!僕の店なんて!楓ちゃんのためなら僕はもう!
「ごめんなさいね青葉ちゃん、それじゃあちょっとだけ、楓の遊び相手になってもらえるかしら……」
「ありがとうございます!……あ、いえ、はい!」
「ふふ、おかしな青葉ちゃんね。楓、よかったわね」
「うん!青葉姉ちゃん大好き!」
うれしい。
「僕も楓ちゃん大好きだよー」
本心である、女でよかった、男だったら捕まっていたかもしれない。
「青葉ちゃん、よかったら晩御飯も食べて行って?きっと楓も喜ぶから」
嬉しい申し出だ、僕は二つ返事で了承し、楓ちゃんの笑顔に癒されたのだった。




