007
そんな時だった、コンコンッ。ドアを叩く音がした。シグルかな? まあ、この家シグルと私達以外いないんだけどね。
「ガールズトークの中すみません、話があるんですが」
「いいよ、入ってきて」シグルに対しそうエレンは返事した。
「失礼します」
「ホント失礼」
「そんなこと言わないの」
私が「失礼」とか言ったせいで、シグルはしゅんとした顔をしていた。
「ああ、シグル君がしゅんとした顔になった、シーニャんのせいだ。そう言えばシグル君、何か用あったよね。何だったの?」
そういえばシグルそんなこと言ってたな。
「結局、どうなったんですかね《実体スイッチ》の件とか。白き巨人とか」
「ああ、すっかり忘れてたなぁ。話さないと」
《実体スイッチ》か、結局なんなのか聞けてないね。
「まあ、座ってよ、シグル」
「ああ、すみません。失礼します」
そう言いながらシグルは私の隣に座った。
するとエレンがシグルに近づいて行き「ねえ、シグル君。あたしのおひざに座りたくない?」とか言っている。
まあ、無視するか。
※
「まず白き巨人ね、これは台場にある、あの大きなロボットのこと」
ああ、ガンダムか。
「《実体スイッチ》、これはあたし達がこのゲームの中に入ってから一時間後に押すつもりだったスイッチ。これがOFFになっているとモンスターたちに気づかれない。ONの状態だとモンスターに気づかれる。と言ったシステム。分かった?」
「何でいちいちそんな仕様に?」
めんどくさいことにしてんなこの人。まあ、天才の考えることはわかんないからな。この人なりの考えがあるんだろう。
「ほら、このゲームって初期装備とかないでしょ。お金も無いし。一時間の間は好きにいアイテムとかゲットしちゃって。みたいな?」
「適当ですね。でもGないんだからアイテムもゲット、と言うか買うこと出来ないじゃないですか。そこのところ如何するんですか」
「いや、最初はゲーム開始一五分後くらいに所持金額も提供と言うか自動的にステータス画面のところに加えるつもりだったんだけどね。誰かさん達がかってに移動しちゃったせいで、ね。ほら、ステータス画面見てみてよ、所持金額が増えてるでしょ」
そう言われ見てみると確かに所持金額が増えている。
「あとさ。…………お願いだからシグル君、丁寧語、やめてよ」
丁寧語になっていたのかな。自分的にはそんなつもりはなかったのだけど。そうなら、やめたほうが良いのかな? でも、知り合った人に対してタメっていうのもな。
「じゃ、じゃあ、タメにしますけど」
「いいよ、おっけおっけ」
結構適当な返事だな。
「一時間まで後少し。モンスター達が動きだす頃よ。さあ、武器の準備して。シーニャ、食料とか、飲み物とかない?」
パンッと手を叩き、エレンは立ち上がった。
「あるにはあるよ。少しだけど」
「大丈夫。あと、三人で分けてアイテムのところに入れて」
「了解」
はい、シーニャは俺に水筒一本分のお茶と少しのお菓子を渡してきた。
「ありがとう」
「どういたしまして。これくらいで良いよね」
「おっけおっけ。さあ、さっき上げた武器のカーソルに触れて。勿論装備メニューから見てだよ。表示された装備ボタンを押して、実体化させて。重いだろうけどここだけの話、装備の一番深いところに重量設定があるでしょ。そこで武器、装備の重量が設定できるから」
言われた通り実体化させた。
「でも、何でお菓子なんか」
俺はエレンに尋ねた。
それは「この世界の食べられるものは全て何らかの効果があるようにしているからさ。ちゃんとお腹が膨れるし、のども潤うよ。あと、この世界では建物内には基本的モンスターがいないから」
「へえ、すごいな」
他にもエレンの話によると、この世界ではテレビやインターネットを向こうの世界と同じように見れるし、電話も繋がるらしい。
「そうそう、あたし、特別にシーニャんの家とシグル君の家を現実世界と同じような家具の配置に設定しといたから」
「だから、私の部屋が現実と同じなんだ。服とかも」
「どんだけ天才なんですか」
「もっと、ほめろ。もっと、ほめろ。あ、忘れてたけどシグル君の家とシーニャんの家をくっ付けて、壁を無くしているから、自由に出入り可能。どう? すごすぎでしょ」
なんなんだよこの人。
「あ、安心して。シグル君のベッドの下にある、あれな本も再現しといたから」
「余計なことはしなくていいです」
あれ、何か肩が重いな。
振り返ってみる。
「シグル、後でゴミ箱に捨てとくから。安心して」
ものすごく怖い。
他のいかなるモンスターよりも怖いんじゃない。
「何してんの二人とも。置いてくよ」
「あ、ごめんエレン」
「わりい、わりい」
「よし、冒険の開始だね」
「ああ」
「そうね」
七月十一日土曜日。俺達の冒険が始まった。