第21話〜烏丸と誘拐〜
冬の澄みきった夜、一人の少女は、自分の倍はあるリュックを背負って歩いていた。
彼女が今現在いるのは、烏丸山という、地元の人ならば誰でも知っているという山である。
「ふぅ……ついた」
白い息が輝く星空へと昇ってゆく。
少女はリュックを下ろし、中を荒しながら望遠鏡を取り出した。しかも高そうなヤツ。
次に簡易テーブル、ノート、筆記用具、そして何故かかまぼこ。
「新しい星、見つける」
すると、いつもボケッとした少女の目が太陽のように輝きだした。
ってか、もう分かるでしょ?分かんないヤツ第1話から読んで。頼むから。
少女の名前は光正院流音である。
たまに、こうして天体観測に来る……のだが、少々今日は運が悪かったようだ。
天体観測中の流音の背後に人影が近付いてくる。
天体観測に夢中の流音はそんなことに気付きもしない。そして人影は後ろから流音の口元に、薬品を染み込ませたハンカチを当てた。
「んッ………!」
そして流音は…眠りに落ちる。
烏丸山の空は、相変わらず澄んでいた。
…カンカンカンカン
「朝ですよ〜ごはんですよ〜」
フライパンをオタマで叩きながら、ご主人様の部屋の前を歩く僕。
…カンカンカンカン
「お・き・ろッ!!・お・き・ろッ!!・さっさと・起きろ〜!!」
畜生……こうなったら昔いた騒音おばさんにでもなってやる。
「うるさいでっす!!」
ハエたたきを取りだし、振り回すミカンちゃん。
ヤベッ!!トイレ臭いッ!!
「ユウさぁん、出来ました!!玉子焼き………きゃぁぁ!!」
キッチンから藍さんの声と爆発音。ってか、なんで玉子焼きで、爆発音がするの?爆竹入りですか?
ちなみに藍さんは、珍しく早起きしていて、暇そうだったから朝食の手伝いをさせている。
けど……僕の選択は180°間違ってた。
「バッター4番!!榊嶺ライ!!ピッチャーに向かって討ちましたぁぁぁぁ!!カキーン!!!」
ばっこぉぉぉぉん
と、高級そうなライさんの部屋のドアが破壊される。
………
…………ライさん
………寝相凄すぎ
………普通、バット振り回さないから
………しかも…討つの漢字間違ってるし……
どんだけ相手を叩きのめしたいの?
「ナーナーナナナーナナナナー」
今度は伽凛さんの部屋から軽快な音楽が聞える。
ついでに伽凛さんの歌声も…。
バッタン、とドアを開けると……
「アゲアゲ!!アゲアゲ!!おっぱいのサイズもアゲアゲ!」
…………
オイ……
テメェ朝っぱらから上半身裸かよ!!
しかも、去年の紅白の録画をテレビで流してる。エンドレスで……。
「グッモーニン!使用人!アゲアゲ!!おっぱいアゲアゲ!!」
母上……私は人間界に来たことを後悔しています。
「伽凛!!ペチャパイのくせに、何やってるでっすか?」
「おっぱい大っきくする呪文を唱えてるんや!ハイ!アゲアゲ!!」
どうやら一晩中、踊り狂っていたらしく、顔はもうアダ〇スファミリーになっちゃってる。
ヤバイ
別の意味で呪われそう…。
「んもぅ!!うるさいんだけど!あたしの快夢を妨げて!!あと少しで蝋責めできたのに!!」
……風花さんも朝から非常に刺激的な夢を見るもんだ……。
「風花ぁ!!おっぱいどうしたら大きくなるでっすか!?」
「は?ふふ……それはね、おっぱいを揉めば大きく……」
「ちょっと!!ミカンちゃん中学生なんですから!ナニ教えこんでるんですか!!」
もう一度言うが、今は朝だ。
なんでこの人達テンション高いの?
溜め息をつくと、キッチンからまたもや爆発音…。 藍さん……絶対料理をしてないよなぁ
食材で兵器作ってるよ。
「皆さん、おはようございます」
「あ、桜子さん、おはようございます」
この屋敷の中で、唯一まともな人。ああ、名前の通りに桜子さんの後ろに桜が舞っているようだ。
「朝から大変ですね。ミカンさんと伽凛さんを手なづけるのは一苦労ですから。」
いや、桜子さん。間違ってるよ。一苦労じゃない。百苦労だ。
「なんだかんだ言って、もう半年ですね。時間が過ぎるのは早いものです……」
「……ははは…なんか僕、長年ココに暮らしていた様な錯覚に陥りますよ」
そうだ……僕はココに来てから、トラブルにしか巻き込まれていない。
下着ドロボウ扱いされて、幽霊に体のっとられて、散々仕事を押し付けられて……ああッ……僕ってなんだろ?
トラブルの無い日なんて無い………どうせ今日も何かあるさ……ハッハッハ
「何やってんのよ?伽凛の部屋で……」
ミルクさんだ。今起きたばかりらしく、頭は寝癖で某有名妖怪アニメ、砂○けババアのようだ。
「大豆おっぱいが来たで」
「ペッチャンコでっす!!」
「揉んであげよっか?ミルクゥ?」
そう言いながら歩み寄る風花さんを、ミルクさんはハリセンで頭を叩く。
ってか、ハリセンって古くね?
「そんな馬鹿話どうでもいいわよ。ところで流音しらない?朝からいないんだけど」
………そう言えば、昨日流音ちゃんは天体観測をしに烏丸山へ行った………いや、まさかな………ナイナイ……有り得ない。
最近は物騒だけど……いや〜有り得ないって……………でも、たしか流音ちゃんの実家は超大富豪の財閥……誘拐?いや…無いって…………。
…………。
「誘拐って………有り得ませんよねぇ〜?ははは」
苦笑いしながら言う僕。
「「「「「「「いや〜まっさかぁ〜」」」」」」」
と、7人のご主人様は同じような苦笑いをする。
……連絡もないし
………事故とかのニュースもないから……。
………もしかして…誘拐されちゃった?