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汚泥
「このガキ、目ン玉をくりぬいてやる!」
爪の先尖った、大きな手が上から伸びてきたかと思うと、母親の蒼白い手の甲が少年の眼前に立ちはだかる。
「お願いです、子供のことですから……」
「うるせえ、邪魔なんだよ」
若い男が母親のか細い手首を掴んだところで、不意に、その後ろから上等な外套を着た中年の小太りの男が出てきた。
「もう、よさないか」
どうやら若い男は一人歩きではなく、周囲にゾロゾロいる険しい目つきの男たちと連れ立って行動していたらしい。
無言で自分と母親を見下ろしている幾つもの顔から、鴉児は今更の様に気付いた。
「こんな所で、女子供相手にみっともないぞ」
外套の中年男が若い男をたしなめる。
年恰好や服装からして男たちの頭目らしい。
助かった。
鴉児が息を吐いて母親を窺うと、平素も白い母親の顔は更に血の気を失って
紙の様になっており、繋いだ手を痛いほど強く握られた。