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汚泥

パチャン!


「あ!」


爪先のヒヤリとした感覚にしまったと思う。


「このガキ!」


水溜まりに突っ込んだ右足のヒヤリがヌルヌルに変わる前に、怒鳴り声が前から飛んできた。


「すみません。子供がボンヤリしていて……」


鴉児が口を開くより先に、母親がズボンの裾を泥で汚した相手にせかせかと頭を下げる。


「このチビ、どこに目を付けて歩いてやがる!」


相手は母親の言葉を遮ると、鴉児に怒鳴り声を浴びせかけた。


「おじさん、ごめんなさい」


鴉児も小さな頭を深々と下げる。


空ばかり見ていて、全然足許に気が回らなかった。


「おじさん、だと?」


甲高い怒鳴り声からくぐもった唸り声に転じた相手を、少年は改めて見上げる。


全く男前でもなければ品のかけらもないが、年だけは若いと分かる男が、誇りを傷付けられた顔つきでこちらを見下ろしていた。


「あ、おにいさん、ごめんなさい」


もっとまずいことになってきた。


水溜りから取り出せない右足がどんどん泥水に浸食され、凍りつく様な感覚が鴉児の爪先から背中を這い上っていく。

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