4/16
夜市《よいち》
「はい、焼餅、焼餅、焼き立てアツアツの焼餅はいかが?」
売り子の声と共に、温かで香ばしい匂いが鼻孔を衝く。
やっぱり、焼餅もお願いしよう。
少年は思い直す。
母ちゃんは、粽子の方が腹持ちするからと言うけれど、おれはこんがり焼けた餅の方が、本当はずっと好きなんだ。
「蜜たっぷりの山査子だよー!」
流れてきた甘酸っぱい香りに、今度は涎が出る。
山査子もいいな。
九月の重陽節の頃、母ちゃんとお祭りの屋台で一本買って、半分こして食べたきりだ。
食べて噛みしめたあの味は、匂いよりもずっと甘くて、そのくせ酸っぱくて……。
あの時、夢中で串にむしゃぶりついたせいで、最後の一個はドブに落としちゃった。
母ちゃんがやめろと泣きそうな顔で言うから、拾わなかったけど……。
「親父、海鮮炒麺を二つ!」
飛び込んできた威勢の良い頼み声に胸が騒ぐ。
炒麺って、食べたことないや。
いっつも、この市場に来るたびに、よその人がチュルチュルおいしそうに
麺を啜るところを遠くから眺めるだけ……。