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晨星
「母ちゃん!」
東の空にようやく光がさした頃、大通りは一面に白い雪に覆い尽くされていた。
「どこ行ったんだよう!」
薄暗く人影一つ見当たらない通りに、幼い声が響く。
「お花売りに行く時間だよう!」
本当は、いつもなら、化粧を落とした母親がお湯を沸かして、買ってきた朝食の粽子の包みをテーブルで開いているぐらいの時刻だと鴉児は知っている。
だが、そんなことはどうでも良かった。
「早くしないと間に合わないよう!」
まだ爪先が湿ったままのボロ靴で雪の上を急いて駆け出すと、少年は凍り付いた路面につるりと転んだ。
「もう朝なんだから……」
それに、おれは朝までいい子で寝てたんだから。
柔らかな雪は、まるで綿の様に転んだ痛みを和らげたが、握り締めた拳の中で、瞬く間に冷たい水に溶けて零れ落ちる。