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柄杓星《ひしゃくぼし》
「母ちゃん、見て!」
少年は大きな目をパッと輝かせると、煤けた小さな手で北の空を指差した。
「流れ星だよ!」
白い八重歯を覗かせた、浅黒い顔いっぱいに笑いが広がる。
今年七つになるこの子の本名は「宏生」だが、浅黒い顔といい、吊り上がった大きな目といい、八重歯といい、子ガラスそっくりな風貌をしているため、知る人からは専ら「鴉児」と呼ばれている。
「どこ?」
母親は安パーマの緩んだ、しかし豊かで艶のある黒髪を揺らすと、幼い息子の示す方角を窺った。
「ああ、もう消えちゃった」
鴉児は舌打ちする。
「どうして、すぐ消えちゃうのかな?」
母親は腕に提げた花籠を持ち直すと、白玉じみた蒼白い顔に
ふっと微笑を浮かべた。
「宏生、それは、お星様だからよ」
母親だけは、少年を本当の名で呼ぶ。